第4話




「もちっもちのプリン~プリン~プリン~♪もっちもちのプリン〜プリン〜プリン〜♪もっちもちのプリンなのよ〜♪」


 フラン姫は鼻歌交じりに軽やかに歩いて行く。スキップ交じりと言った方がいいだろうか。とても楽しそうにもちもちプリンの歌(作曲・作詞 フラン姫)を歌いながら歩いている。

 騎士の宿舎への道のりをフラン姫とは反対に、パメラは重苦しい雰囲気で進んで行く。正直パメラは気乗りがしなかった。

 騎士たちがフラン姫のことをどう思っているかパメラは良く知っているからだ。

 騎士たちはフラン姫のことを好ましく思っていない。どちらかというと、フラン姫の護衛にはなりたくないと思っている者がほとんどだ。ほぼ全員と言ってもおかしくはないだろう。

 そのため、パメラの足取りは重い。非常に重い。

 主人であるフラン姫のことを嫌っている騎士たちの元へ行くのはいくらパメラと言え気が重かった。

 

「ふっふっふっ。もっちもちのプリンなの~♪いらっしゃ~い。」


 フラン姫はへんな歌まで歌い始めてしまった。

 そうこうしているうちに騎士たちの宿舎へたどり着いてしまった。パメラの足取りは重い。

 フラン姫はパメラの様子など気に掛ける様子もなく先に進んで行く。そして、フラン姫とパメラは騎士たちが利きプリンをしているという食堂にたどりついてしまった。

 食堂では騎士たちが重苦しい雰囲気の中、紙とにらみ合っていた。





「どうしたのかしら?みんなお通夜みたいな顔をしているわね?」


 フラン姫は騎士たちの覇気のない様子に首を傾げる。

 

「こ、これは、フラン姫様。このようなむさ苦しいところまでお越しいただき恐縮です。」


 騎士隊長がいち早くフラン姫が来たことに気づいて姿勢を正す。

 

「私ははやくもっちもちのプリンを探す旅に出たいのよ。それで、護衛騎士の選抜を利きプリンで決めると聞いたのでやって来たのだけれども?なぜ、こんなにも落ち込んでいるのかしら?」


 フラン姫は騎士隊長に尋ねる。

 騎士隊長の額からは大粒の汗がしたたり落ちた。

 

「いえ……その……。み、みな、利きプリンで悩んでいるのであります。どこのプリンかわからず悩んでいるので、このような状態に……。」


 騎士隊長はそのように説明する。

 あながちそれは間違いではない。

 パメラは騎士隊長と騎士たちの様子にフラン姫に気づかれないようにため息をついた。

 

(きっと、フラン様の護衛としてついていきたくないと、どこのプリンかわかっていても書けずに悩んでいるだけね。この様子だと、一番正解した人がフラン様の護衛になる感じかしら?しかも、全問不正解は問答無用でフラン様の護衛に決定というところかしらね。)


 パメラは目の前の騎士隊長と騎士たちの様子からそう判断した。


「まあ、利きプリンとはそんなに難しいの?」


 フラン姫は目をキラキラさせながらテーブルの上に並べられているプリンを見つめる。

 フラン姫は利きプリンをしたことがないらしい。

 

「……フラン姫も、やりますか?」


 騎士隊長がフラン姫に恐る恐る問いかける。

 すると、フラン姫は嬉しそうに頷いた。

 

「ええ。私も利きプリンに参加させてもらうわ。」


「フラン様……。」


 止めようと手を伸ばしたパメラだったが、フラン姫はそんなのお構いなしに騎士たちの前に躍り出た。そして、テーブルの上に並んでいるプリンを見つめる。


「どこのお店のプリンか当てればいいのよね?」


「はい。さようでございます。」


 フラン姫は確認するように騎士隊長に尋ねる。


「むふーーーっ。」


 フラン姫は腕まくりをすると、スプーンで左端のプリンを一口すくって口の中に入れた。

 フラン姫の顔が喜びに綻ぶ。

 

「美味しいわぁ。この滑らかさがまた格別ね。甘さも丁度良いし、卵の濃い味も残っているわ。」


 蕩けるような笑みを見せるフラン姫。

 普段、フラン姫は笑みを見せることはほぼないため、ここにいる騎士たちがフラン姫の笑みを見るのは今日が初めてだろう。

 何人かの騎士たちがフラン姫の満面の笑みを見てぽーーーっと顔を赤らめさせた。

 普段の言動が突拍子もなかったり、我儘だったりして騎士たちに避けられているが、実はフラン姫は黙っていればとても美しく可憐なお姫様なのである。


「こっちは、どうかしら。ああ、こっちのプリンも美味しいわ。さきほどとは違って卵よりもミルクの味が強いのね。うんうん。このプリンもとっても美味しいわぁ。こっちのプリンはどうかしら。」


 フラン姫は次々とプリンをスプーンですくっては口の中に入れていく。

 どのプリンもフラン姫の口にあったのか、フラン姫は始終ご機嫌で頬を緩ませていた。


「どのプリンもとっても美味しかったわ。でも、どのプリンにも明確な味の特徴があると思うの。この特徴さえつかんでしまえばどのお店のプリンなのか簡単にわかると思いますけれども?」


 フラン姫はハンカチで口元をそっとぬぐいながら騎士隊長を見つめる。

 確かにどのプリンもとても美味しいが味はそれぞれ違っている。味の特徴さえわかってしまえば、どこのお店のプリンかというのはわかるはずだ。

 そのことをフラン姫は騎士隊長に告げる。

 

「えっ……あ、ま、まあ。そうでございますね。は、ははっ……。」


 騎士隊長は冷や汗を浮かべながらしどろもどろに答えた。

 パメラは見かねて二人の会話に口を出すことにした。


「フラン様。とてもわかりやすい特徴があったかとは思いますが、フラン様はそれぞれのプリンがどのお店のプリンかおわかりになりますか?」


「むっ……。残念ながら、わからないわね。」


 フラン姫はもっちりもちもちしたプリンを探し求めているため、いくらなめらかなプリンが美味しいからと言ってわざわざ一つ一つどこのお店のプリンかなんて覚えてはいなかった。

 

「そうでございましょう。食べ比べれば味の違いは簡単にわかると思います。ですが、この王都だけでも数百はプリンを売っているお店がございます。その一つ一つの味を正確に覚えているものはとても稀なことでしょう。」


「……それも、そうね。私もわからなかったし。」


 フラン姫はパメラの言うことに納得したように頷いた。

 騎士隊長はホッと胸をなでおろす。

 騎士たちもホッと胸をなでおろした。


「利きプリンはとても難しいことがおわかりになりましたね。フラン様。」


「ええ。わかったわ。」


「ここにいる騎士様たちは、フラン様の護衛の座を求めて利きプリンで勝負をつけようとしたのです。騎士様たちは皆、フラン様の護衛になりたいため今必死でどこのお店のプリンだったのかと朧げな記憶を手繰り寄せているのでございます。そして、なかなか思い出すことができずに、このような暗い雰囲気となっているものと推測されます。」


「……そうね。パメラの言うことはわかったわ。」


 パメラは今この場にいる騎士たちの覇気がないのがなぜかということをフラン姫に説明をした。だいたい違っているのだけれども、フラン姫は簡単に頷いてみせた。

 騎士隊長はパメラの言葉にホッと胸をなでおろす。自分の隊の騎士たちがフラン姫の護衛を嫌がっているなどとは死んでもフラン姫に悟られたくないためだ。沽券にかかわる。

 だが、騎士隊長がホッとしたのも束の間。次に続くパメラの言葉に先ほどよりも顔色を青くしたのだ。

 

「利きプリンで勝敗を決めるのはとても難しいですわね。この状況ですと。騎士隊長。せっかくフラン様がこの場にいらっしゃるのです。フラン様の護衛を希望する騎士様の中からフラン様に護衛の騎士を選んでもらいませんか?」




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