第3話



「もちっもちっとしたプリンを食べたいの~。食べたいったら食べたいのよ。わかるわよね?」


 今日もフラン姫様はもちもちのプリンのことで頭がいっぱいです。

 王様にプリンを探す旅に出る許可を得たことにより、フラン姫の頭の中はもちもちのプリンでいっぱいになった。

 

「もちろん。承知しております。」


 比較的平和なスムースプディング王国だが、フラン姫は仮にも一国の姫である。護衛をつけないわけにはいかない。今は、その護衛の選定中だ。

 今すぐにでも城を飛び出そうとしているフラン姫を押しとどめながらパメラはため息をついた。

 パメラの仕入れた情報は硬めのプリンの情報だ。

 実際にフラン姫が食べた時のことを想像すると、パメラは頭が痛くなった。

 きっと、こんなのもちもちのプリンではないわっ!と言い出して駄々をこね始める可能性もある。期待が大きければ大きいほど、だ。


「では、今すぐ出発いたしましょう!善は急げですわっ!」


 フラン姫はすでに出立するための準備を済ませている。

 今すぐにでも飛び出していける状態だ。

 

「護衛の選定がまだ終わっておりません。もうしばらくお待ちください。」


 パメラはフラン姫に状況を伝える。

 だが、フラン姫は目を大きく見開いた。

 

「まあっ!さっきも同じことを言っていたわ。なぜ、こんなに話し合いが長引くというのかしら?」


「それは……。」


 フラン姫の護衛に誰がついていくかという話し合い。それはもうかれこれ2時間以上も続いていた。フラン姫がじれるのも仕方のないはなしだ。


「……フラン様の護衛券をかけて、勝負がおこなわれております。」


 パメラはそっと事実を伝えた。

 そう。フラン姫の護衛としてついていくために勝負がおこなわれているのだ。その名も「利きプリン勝負」だ。

 プリンを食べてどこのプリンかを当てる勝負である。

 プリン好きのフラン姫の護衛として誰が優れているのかプリンで決めようとしているのである。

 

「もうっ!誰でもいいのにっ!!パメラ、その勝負がおこなわれているという場所に私を案内しなさいっ!」


 フラン姫は目を吊り上げる。フラン姫が地団駄を踏むと、ふわふわのキャラメル色の髪が鮮やかに舞う。


「かしこまりました。」


 パメラはフラン姫は騎士の宿舎にある食堂まで連れていくことにした。







☆☆☆☆☆







 騎士の宿舎にある食堂では騎士たちによる死闘が繰り広げられていた。

 

「うっ……こ、このプリンは、美味しいっ!」


 一人の騎士が目の前に並べられたプリンをひと匙掬って口に入れる。

 プリンは全部で5つ並べられている。このプリンをどこのお店のプリンか全て当てることができたら優勝となり、フラン姫の護衛という栄誉を与えられるのだ。

 そのため皆真剣にプリンを味わいながら、どこのお店のプリンかと頭を悩ませている。

 ちなみに全問正解できなければ一番正当数が多かった人物がフラン姫の護衛という栄誉ある仕事を与えられることになっている。

 一人一人が順番にプリンを一口ずつ口にし、紙にどのプリンがどのお店かを書いていく。そしてそれを上官に手渡すのだ。

 すでに全てのプリンを食べ終えたものもいるが、上官に紙を提出したものはまだ誰もいない。

 誰もが紙とペンを片手に悩みあぐねいているのだ。


「うう……これは、これはとっても難しいぞ。」


「そ、そうだな。どのプリンも美味しくてどこのお店のプリンだか全然わからないぞ。」


「オレも、オレもわからない。」


「ああ。どのプリンも美味しくて甲乙捨てがたいな。」


「どこのプリンも美味しいですしね。これはわからなくても仕方ありません。」


 誰もがそう言いながら、未だに紙に答えを書けずにいるのだ。

 そんな騎士たちを見た上官が引きつった笑みを浮かべる。

 

「……おまえら、こんなわかりやすい店のプリンがわからないというのか。見た目からしてどれも特徴があるだろうっ!!」


 時間をかけて答えを出すのをためらっている騎士たちに上官が一喝する。

 騎士たちはビクッと身体を震え上がらせたがすぐにうるうるした目で上官を見つめだす。

 

「……無理ですっ!オレたちにはどこのプリンだかわかりませんっ。」


「そうですっ!わかりませんっ!」


 騎士たちは皆が皆そう言いながら上官に縋る。

 この時の騎士たちの思いは皆一緒だった。

 

「なかなかフラン姫様の護衛が決まらないから利きプリンで勝負をするようにしたというのに、これか。おまえらプリン大好きだろう?いきつけのお店が一つ二つはあるくらいに大好きだろう?」


 上官の言葉に騎士たちは言葉を詰まらせる。

 

「とりあえず、書け。正解しなくても構わないから書け。ただ、全問不正解がいたらそいつは問答無用でフラン姫様の護衛にする。全問正解がいれば全問正解したものをフラン姫様の護衛とする。全問正解がいなければ全問不正解の者をフラン姫様の護衛とする。全問正解の者も、全問不正解の者もいなければ一番正当数が多いものをフラン姫様の護衛とする。ほらあと5分以内に書くこと。5分以内に書けないものはフラン姫様の護衛とする。以上っ!」


 上官はこの状況を打破するために多少強引にことを進める。

 騎士たちの目からは涙がこぼれ出す。

 

「それはあまりにも……。」


「ご慈悲を……。ご慈悲を……。」


 騎士たちは考えるのであった。

 どうすればフラン姫の護衛から外れることができるのか、と。


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