第2話
「なめらかなプリンもいいけど、やっぱりもちもちのプリンが食べたいわ。ねえ、パメラもそう思うでしょう?」
フラン姫はアフタヌーンティーのお供として出された、スムースプディング王国の一流パティシエが作ったなめらかなプリンを食べながら侍女のパメラに問いかけた。
パメラは慣れた手つきでフラン姫の紅茶を入れる。
そっとパメラがテーブルの上に紅茶を入れたティーカップを置くと、フラン姫の真っ白な手がティーカップをそっと持ち上げて口元に運んだ。
こくりっとフラン姫の喉が鳴る。
「……フラン様。もちもちのプリンは見つけられませんでしたが、固めのプリンでしたらみつけました。」
「まあっ。なめらかなプリン以外がやっぱりあったというのね。」
パメラが昨夜酒場で仕入れた情報をフラン姫に告げると、フラン姫は真っ白な手を顔の前でパンッと合わせながらキラキラとした目でパメラを見上げた。
フラン姫の目は期待に満ち満ちている。
「……もちもちしたプリンではありませんが、よろしいのでしょうか?」
フラン姫の期待に満ちた表情にパメラは無表情ながらも少しだけ慌てた。
パメラが仕入れた情報はもちもちのプリンの情報ではなく固めのプリンの情報なのだ。とてもフラン姫が喜ぶような情報ではないとパメラは思った。
「ええ。いいのよ。なめらかなプリン以外のプリンがある。それは、もちもちプリンに一歩近づく出来事だわ。是非、そのプリンを食べたいわ。そのプリンが食べられるお店に連れて行ってくれるかしら?」
「……城にパティシエをおよびいたします。」
フラン姫が簡単に城から出られるはずがない。仮にもフラン姫は一国の王女なのだ。
固めのプリンを作ったというパティシエを城に呼びつけるか、パメラがプリンを買ってきてフラン姫に提供するのが普通だ。
だが、パメラが見つけた固めのプリンを作るパティシエというのは実は城から日帰りできる場所ではない。スムースプディングの王都であるプディングレッドの隣にあるプディングイエロー街で販売されているのだ。
プリンは生ものである。よって日持ちがしない。
できれば、作ったばかりのプリンの方が良い。それが一番美味しいとされている。
王都プディングレッドからプディングイエロー街までは徒歩で片道3日ほどかかる。馬車だと2日ほどだ。どんなに急いでも往復で4日はかかる。
4日もプリンは持たない。
よって、固めのプリンをフラン姫が食べるには、パティシエを城に呼ぶか、フラン姫がプディングイエロー街まで行くしかないのだ。
現実的にはパティシエを城に呼ぶのが道理だろう。
「いいえ。私が行くわ。だって、そのパティシエを城に呼ぶとなるとお店を何日も休ませなければならないでしょう?」
「そうですね。往復でも4日間はお休みにされるかと……。」
「それではダメね。」
「ですが、4日間分の売り上げ相当の料金はパティシエにはお支払いする予定でおります。なにも問題ないかと。」
ただで城にプリンを作りに来いとは言えない。
せめて、お店を休んでもらうだけの保証はするつもりだ。
だけれども、フラン姫はそれを良しとはしなかった。
「問題よ。おおいに問題があるわ。」
「どこが問題なのでしょうか?」
パメラはフラン姫が問題としているところがわからなくて首を傾げる。なにも問題はないはずだ。
問題があるとしたら、城のパティシエのプライドだろうか。
なめらかなプリンが至高だとするこの国で堅めのプリンを作りに城にやってくるパティシエの心痛を思う。それに、城のパティシエたちもなめらかなプリンよりも固めのプリンの方をフラン姫が気に入ったとなれば、心穏やかではいられないだろう。
「そのパティシエのプリンを食べられない人がでてしまうではないの。もしかしたら、そのパティシエのぷりんを毎日買い求めに来る人がいるかもしれないわ。その人にも我慢をさせてしまうのよ。そんなの可哀想じゃない。私がプリンを食べに出向けばそのパティシエはお店を休まなくていいのよ。プリンを買い求めに来る人もちゃんとにプリンを買うことができるのよ。」
「はあ……。」
フラン姫は拳を握りしめながら力説する。
果たしてプリンを毎日のように買い求めにくるかどうかは不明だ。確かに固めのプリンは珍しいから、珍しいもの見たさで買いにくる人はいるかもしれない。だが、たかだか店を閉めるのは4日間程度だ。
フラン姫がプディングイエロー街まで行く課程を思えば、パティシエを城に呼んだ方が遙かに安全で、人的被害も少ない。
「だから、私はプディングイエローまで行くわ。大丈夫。私にはまだ重要な公務は任されていないから。一週間くらい私がいなくたって平気だわ。それに、お父様にも少しは国を見てまわるようにと言われているし。社会勉強の一環よ。」
「フラン姫様……。それでは、王様に許可を求めてまいります。」
一度言い出したらフラン姫は意見をなかなか曲げない。
パメラは諦めたように視線を落とすと、王様への謁見の許可を求めに走るのだった。
「許す。一週間と言わずに一ヶ月でも一年でも好きなだけ見て回ると言い。近隣諸国に行くのなら教えてくれ。いろいろと手配が必要だからな。」
スムースプディング王国の国王、アルツハイム陛下はパメラの謁見申し出にすぐに応じると、迷うこともなくそう告げるのだった。
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