姫様は「もちもちのプリン」が食べたいため旅にでることにしました
葉柚
第1話
「なめらかなプリンもいいけど、そろそろ飽きてきたわ。私はもっちりもちもちとしたプリンが食べたいのよ。どこかにないのかしら。」
キャラメル色の髪を風に靡かせながらスムースプディング王国のフラン姫は、フラン姫のために用意された部屋のバルコニーから遥か遠くを見つめながら呟いた。
フラン姫の母国であるスムースプディング王国は、世界屈指のプリン大国である。
プリンに対する並々ならぬ情熱を持つ者たちが集まった国。それがスムースプディング王国なのである。
国民たちは皆プリンが大好きで、パティシエに至っては至高のプリンを作ることに生涯をささげているほどだ。
スムースプディング王国のプリンはとても美味しい。一度食べたら病みつきになってしまうほどだということは、近隣諸国ならず世界各国にまで知れ渡っている。
「ねぇ、パメラ。私、もちもちとしたプリンを食べたいの。作ってくださるパティシエを探してくれないかしら?」
フラン姫は、フラン姫専属の侍女であるパメラに問いかける。
もう何度同じ質問をパメラはフラン姫から訊かれたのか数えることもやめてしまった。
「フラン様。この国では滑らかな舌触りのプリンが至高とされております。もっちりとしたプリンを研究しているようなパティシエはこの国のどこを探してもいらっしゃらないかと……。」
「もうっ!パメラはいっつも同じ答えばかりね。ちゃんとに調べているのかしら?」
フラン姫はピンク色の唇を尖らせる。
「……はい。国中のパティシエに確認しております。」
パメラは恭しく一礼すると事実を伝えた。パメラの長い銀髪がサラリと肩を滑る。
最初にフラン姫からパメラにもちもちプリンの話があったときに、国がパティシエとして登録されている人物一人一人に書状を送って確認したのだ。その数、約1万。
パメラとパメラの権限で動かすことができる数人の侍女たちを使って書状をしたためたのだ。
王国の姫からの依頼とあれば、パティシエたちは書状が届くとすぐに返答をよこした。
その誰もがなめらかなプリンこそが至高であり、もちもちプリンは作成したことがないという回答ばかりであったことをパメラはフラン姫に伝える。
「まあ。さすがはパメラね。仕事が早いわ。それにしても、これだけスムースプディング王国ではプリンが流行っているというのに、なぜもっちりもちもちしたプリンは誰も作らないのかしら。」
「恐れながら、我が国ではなめらかなプリンこそが至高とされております。パティシエたちは皆、なめらかなプリンを追い求めて開発しているものと思われます。」
透き通った空のように青い瞳でパメラはフラン姫を見つめて事実だけを伝える。
「……そう。そうね。そうなのよね。この国はなめらかなプリンこそが至高とされ、それ以外のプリンはプリンではないと皆言うわね。」
フラン姫はつまらなそうに呟く。小さなため息を添えて。
「はい。ですから、フラン様、どうかもちもちプリンのことはお諦めくださいませ。」
もう何度この言葉をパメラは口にしたのかわからない。
「そうね。でもね、パメラ。私は諦めきれないのよ。もっちりもちもちプリンはきっとどこかにあると思うの。だからね、パメラ。手伝ってちょうだい。もっちりもちもちプリンを探すのを!」
キラキラと黄金色の瞳を煌めかせてフラン姫はパメラを見つめる。パメラだったら断らないだろうという風に思っていることが手に取るようにわかる。
「……無理でございます。ないものはないのです。フラン様。」
だが、間髪入れずにパメラはフラン姫の提案に否と答えた。
フラン姫はまたしてもピンク色の艶々とした唇を尖らせる。
「パメラ。諦めたらそこで試合は終了ですのよ。もっちりもちもちしたプリンがないと誰が決めたんですの?ぜったいにどこかにありますわ。私はそれを探したいのです。手伝っていただけますわよね?」
フラン姫の言葉はもうすでにお願いではなく命令になっている。
試合ってなんのことだろうとパメラは思いながらも、諦めたように息を吐きだした。
フラン姫のわがままには慣れている。
産まれた時からフラン姫の側にいたパメラは同い年ということもあり、常にフラン姫に振り回される人生を送っているのだった。
☆☆☆
真っ黒な外套を纏い真っ黒なフードで顔を隠したパメラは夜の闇に紛れる。
フラン姫のお願いごとを聞くために。
そっと城下町に降り立ったパメラは、行きつけの地下にある酒場に向かう。
ここでは、他国の情報が売り買いされているのだ。
木製のカウンター席にパメラは座ると、度数の高い酒を頼む。
「……プリンの情報が欲しいの。」
「ほぉ。どんなだい?」
「なめらかではないプリン。そんなものがこの世界には存在するのかしら?」
「……ちょっと待ってな。プリンに詳しい奴に訊いてみる。対価は前払いだ。」
黒い燕尾服を来た厳つい顔をしたマスターはパメラに向かってニヤついた笑みを浮かべた。
そのままでも悪い人相が更に悪くなる。
「……わかっているわ。」
パメラは神妙に頷くと、一気に度数の高い酒を煽る。そして、勢い良く立ち上がった。
「オレはこの嬢ちゃんと上の部屋にいるから。なにかあったら呼べ。」
「あい。マスター。」
マスターがカウンターから出てパメラの腰を抱く。
そして、もう一人カウンターで接客をしていた金髪の女性に声をかけた。この金髪の女性もこの酒場の店員だ。
主にマスターのサポートをおこなっている。
パメラは顔を隠すように俯きながらマスターに促されるように身をゆだね酒場の上にある部屋へと向かった。
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