はなさないで~隣の部屋

奈那美(=^x^=)猫部

第1話

 「お前、話さないでって、あれほど頼んだじゃないか!」

「話してなんかないわよ!」

「嘘をつくなよ」

「嘘なんかついてないってば」

 

 隣の部屋の口論が聞こえる。

今住んでいるアパートは築年数が古くて壁が薄く、隣の声がよく聞こえてくる。

漫画に出てくるオンボロアパートそのままだ。

隣は男女ふたりで住んでいるが、毎日のように口論している。

 

 まあ、口論で済んでいるからいいか──うるさいっちゃうるさいが許容範囲としておこう。

これがもっと別の……いわゆる男女のアノ声を毎日のように聞かされるとなると堪ったものではないからな(カノジョいなくてたまってはいるが)

 

 「いや、嘘ついてるだろ?そうでないなら、何故あいつが知ってるんだよ?」

「何のことよ?」

「あれだよ。あれを俺が手離した事だよ」

「……ああ。むかついたんだもん。あんた、絶対に自分の手元から離さないって言ったじゃない」

 

 「そりゃ言ったさ。でも、仕方なかったんだよ。そうしないとどうにもならなかったんだから」

「仕方ないなんて、私には関係ない。手離したこと、私すっごく怒ってるんだから」

「だから話したんだろ?」

「話してなんかない。ただSNSで愚痴っただけよ」

 

 「な……SNSに投稿?なんてことを」

「だって……私の投稿だなんて、あの人にわかるわけないじゃない」

「わかるんだよ!誰の投稿かではなく、検索したら情報が山ほど出てくるんだよ。その中から手離した情報を見つけ出したんだよ、あいつは」

 

 「ゆるさねえ、お前がやったこと、ゆるせねえ」

「わ、悪かったわよ。でも話していないのは嘘じゃないでしょ?」

「一緒だよ」

「え……何?なんでそのケージに手をかけてるの?やめてよ、私それが死ぬほど苦手って言ったよね?部屋の中には放さないでって頼んだよね?……いや、やだ、やめて……きゃぁぁぁぁ」

 

 

 

 

 

 

 俺はヘッドフォンを耳から外した。

何を放したかは知らないが……盗聴器から聞いた情報では助けには行ってやれないな。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

はなさないで~隣の部屋 奈那美(=^x^=)猫部 @mike7691

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ