恋★愛★王トレーディングカードゲーム

ちびまるフォイ

私が一番きらいなタイプ

両者のLP(Love Point)が4000に設定される。

先にラブポイントを失ったほうが恋に落ちてしまう。


「「 決闘デュエル!! 」」


二人の壮絶な恋の戦いがはじまった!


「まずは俺の先行! ドロー!!」


男は心の引き出しからカードを引く。


「……フッ、なるほど。ここはあえて! なにもせず、ターンエンド!!」


「な、なにもしない……!?

 デートに対する下準備を何もしないの!?」


「そう。あえて何もしないことで、

 君がどんなことを言っても対応できるようにする。

 "ノープラン"戦法というわけさ」


「いやそれ自分が決められないだけじゃん」


女のLPが4000から5000まで回復!

恋に落ちるまでの距離が広がってしまった!!


「次は私のターン! ドロー!」


女も心の引き出しからカードを引く。


「私は装備カード"よそいき用の服"を装備!

 攻撃力が大きく上昇!

 さらに! ネイルサロンを召喚!!」


「ぐっ……! ネイルサロンだと!?」


「ネイルサロンの効果発動。

 これで相手はきれいになった爪に気づかなければならない!!」


「ちぃっ……! 爪にまで気を配らないとは……!!」


男のLPが3500に減った。

どういうメカニズムで減ったり増えたりするのかはわからない。


「これで終わりと思わないで。

 私は追加で美容院を召喚!

 ヘアスタイルにさらに磨きをかけるわ!!」


「なんだって! 初回のデートもまだなのに

 この時点でヘアメイクをばっちり決めてくるとは……!」


「さあ、戦闘デートよ!!」


戦闘フェイズに移行する。


「私からのDA(デート・アタック)!」


「ぐはぁあ!!」


男のLPが大きく削られた!

LP:3500→2000


「なにがノープラン戦法よ。

 まるでなっちゃいない。とんだ恋愛初心者ね。ターンエンド」


「まだだ……恋愛バトルは始まったばかりだぜ」


ふたたび男のターンへと切り替わる。


「俺のターン! ドロー!

 手札から"おしゃれなカフェ"を特殊召喚!!」


「カフェだなんてお笑いね。

 それで私のLPを削ろうとでも思うの?」


「これだけじゃない。フィールド魔法"ムーディな空気"を発動!

 これによりカフェは静かでおしゃれな空気感になるぜ!!」


「へぇ」


「さあ、戦闘デートフェイズだ!

 君の心へデートアタック!!!」


男のギラついた気持ちが女へ届きかけたとき!



「私は手札より速攻魔法を発動!!

 "続かない会話"を発動!!」



「な、なんだって!?」



「この魔法は初回のデートにのみ発動可能。

 お互いの趣味や合う話題がないために、

 受け答えがどこかぎこちなくなってしまうわ!!」


「し、しまった!!」


この魔法により、せっかく万全のデートプランの初手だったはずが

変にしずかなカフェにいることで沈黙と向き合うことになってしまう。


「おしゃれなカフェを出したのが裏目に回ったようね」


「く、くそぉぉ!!」


男は悔しがった。

けれど最初に何もカードを消費しなかったのが好機。

芳醇な手札からいかようにも打開策は出せる。


「まだだ! 俺のターンはまだ終わってないぜ!!

 速攻魔法"狂信者の魂バーサーカーソウル"を発動!

 俺は相手が嫌がるまでホテルへ誘うぜ!!」


「正気なの!?」


「破れかぶれだ! うぉぉぉ!! デートアタック!!」


「乗るわけ無いでしょ!

 トラップカード発動! "友達の合流!"」


「なにぃ!! これじゃ強引に誘うこともできない!!」


「まさかそんな捨て身の攻撃をしかけてくるとは思わなかったわ。

 でもこれでおしまい。あなたへの脈は完全に失われたわ」


「カードを3枚伏せてターンエンド」


「無駄なことを。私のターン、ドロー!」


女はついに恋愛に終止符を打つ覚悟を決めた。


「このターンで終わらせてあげる!

 魔法カード"ラインブロック"を発動!

 これにより、あなたはどんな魔法・罠も私へは届かなくなる!」


「なっ……」


「いろいろ挽回するためのカードを用意していたんでしょうけど無駄なこと。

 いきなりホテル誘うような男はもう完全に無いわ」


「結果を焦ってしまったか、くそ……!」


「鼻息荒いキモ男は願い下げよ。ターンエンド。

 おとなしくサレンダーしたら? もう無駄よ?」


「まだだ……まだ終わっちゃいない!

 俺は自分の可能性にかける!! ドロー!!」


男は最後の力をふりしぼって心の引き出しからカードを引き抜いた。


「ふ、ふふふ……」


「な、なによ。なんでこの状況で笑っているの!?」


「やっぱりまだ恋愛は終わっちゃいないんだ!」


「いまさら何もできっこないわ。

 だってもう"ラインブロック"をしているのよ」


「そうとも。だからこれを使う!

 永続魔法! "冷却期間コールド・スリープ"!!」


ふたりの間に急激な年月が流れ始める。


「このカードの効果で二人のターンは10ターン後までスキップされる!」


「はあ? ターン数を増やしただけで何が変わるのよ」


「それは自分の心に聞いてみな」



「なにを……はっ!?」



女は自分の胸に手を当てたとき、その過ぎた年月にがくぜんとする。


「なにこの不安感……。ひとり取り残されるという恐怖」


「ラインブロックの効果で確かに俺は君に対する直接的な魔法は使えなかった。

 だが、冷却期間により君の年齢は一気に結婚適齢期まで進行した!!」


「あ、焦る……! なによこの焦燥感は!! はやく結婚しなくちゃ!

 周りに取り残される! イヤ! 私だけ結婚できないと思われたくない!!」


「ターン数が経過したことで、ラインブロックの効果も消える!」


「そんな!!」


「俺は手札から、"婚活パーティ"を召喚!!」


「そんなの絶対に参加するしかないじゃない!」


「俺は装備カード"ドレスコードに準じた服"を装備!

 これにより俺はスマートな印象にしあがるぜ!!」


「なまじ最初のデートがうんちだっただけに落差がすごい!!」


女のLPが3000まで減った!!


戦闘デートフェイズだ!


 魔法カード発動!

 "前よりきれいになったね"を発動する!!」


「いいムードでしか刺さらない言葉を!?」


「だが、結婚に焦る君にはガードが下がっている!!」


「ぐはああ!!!」


女のLPが1000まで削られた。

陥落も目前。


「わ、私がこの程度で落ちる軽い女だと……思わないで!!


 私は手札から速攻魔法"永劫の溝まずはともだちから"を発動!!」


「この期に及んでまだ抵抗を!!」


「この効果により、あなたはどんな効果も「友達」という前提でしか発動できない!」


「なんてことだ! これじゃ踏み込んだ口説き文句が使えない!!」


「そういうこと。切り札は最後の最後まで残しておくものよ」


「だが……まだ俺に伏せカードが3枚残っている!」


「それもあなた自身がしかけたものでしょう。

 友達という関係になった今、それを発動することなんてできない」


「誰が発動するなんて言った?」


「え?」


男は最後の切り札を解き放った。



「俺は伏せカードを3枚を生贄に!!

 神のカード"経済力マネーイズゴッド"を召喚!!」


「うそでしょ!?」


「大いなる欲望を束ねし混沌の神よ!!

 今こそ我が前にその力を見せよ!!!」


神がフィールドに爆誕した!!


「これが……神……!」


輝かしい金色の光の前に、もはや男の欠点などどうでもよくなる。


「すべての力を神の一撃に乗せる!!

 くらえ!! ゴッド・ブレイズ・サンダー!!!」


「ぎゃあああーー!!」


女のLPはついに0になった。

なってしまった。



「 デュエル終了ーー!! 」



審判員の言葉でこの激しい戦いに決着がついた。


「はあはあ、私の負けみたいね……。

 さっきから胸のキュンキュンが止まらないわ」


「LPを奪われたらみんなそうなるんだよ」


バトル前はあんなに嫌悪感のあった男の顔も、

好きフィルタに彩られた今ではイケメンに見えてしまう。


「これが……恋……!?」


トクン、と女の鼓動がはやまった。


男は瞳がハートになった女の肩をそっと支え、

カードが置きっぱなしになっていたフィールドを振り返ってキレた。


「おいスタッフ! カード早く片付けておけよ!


 ……ったく、本当に使えねぇな。

 デュエル終わったら片付けるくらい言われなくてもわかるよな。

 

 本当に気が利かねぇバカだ。君もそう思うだろ?」



スタッフに対する男の横柄な態度に、女のLPは急速回復どんびきした。

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