怪異『はなさないで』を討滅せよ【KAC20245】

孤兎葉野 あや

怪異『はなさないで』を討滅せよ

「あれが噂の怪異ね。鳴き声が特徴的と聞くけれど・・・」

『はなさ・・・ないで・・・はなさないで・・・』

奇妙な怪異が出現したとの報を受け、駆け付けた退魔士達の前で不気味な声が響く。


「こんな怪異、初めてです・・・!」

「いえ、古文書に類似する例はあるわ。以津真天いつまで・・・疫病が流行した時代、放置された死者のもとで鳴いたという怪鳥がね。」


「す、すみません。確かにあれもトリに似ていますね。」

「少し待って・・・・・・師匠から伝令よ。到着まで時間を稼ぐようにと。」


「わ、分かりました!」

「あの怪異についても聞いたから、対処しながら話すわ。」

そして二人は戦闘体勢に入り、相手との距離を詰めた。



『はなさ、ないで・・・』

「っ! 鼻が伸びて・・・!?」


「あれは局所的な流行と人心の揺らぎから生まれた存在・・・発生源は『はなさないで』という言葉をもとに文章を作る会だそうよ。

 見た目通りの『鼻』と、拘束の『離さないで』ね。」

「くっ! 理解に苦しみますが危険です。退魔の呪言を・・・え、発動しない?」


「これは『話さないで』・・・呪文の類は無効かしら。」

「そんな! では護符を・・・これも届かない?」


『はなさない、で・・・』

「『放さないで』・・・投擲も通じないようね。」



「うう、一体どうすれば・・・」

「・・・いえ、時間稼ぎの役目は果たせたわ。」


「待たせたわね、二人とも。あとは私に任せて。」

「師匠!」

「宜しくお願いします。」


「これで滅するわ。『三分の軛、破壊の猛牛、内奥を見通す瞳、制約の箱、指先の裂傷・・・』」

「退魔の呪言? でも無効のはずでは・・・いや、怪異が弱っています!」

「推測だけれど、あの怪異に近い力を感じるわ。

 師匠は発生源を解析し、専用の呪言を組み上げたのかもね。」


「終焉の時は来た・・・『締切』!」

その言霊と共に、怪異は跡形もなく消滅した。


「こんなのがあと三体も現れる可能性・・・困ったものね。」

物憂げな一つの呟きを残して。

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