はなさないで、と彼女は言った。
椎名喜咲
はなさないで、と彼女は言った。
■彼女との会話(一)
……ええ、もちろん。
言わないよ。ええ、うん。あったりまえよ。親友でしょう? 信じないよ。で、トモは誰が好きなの? ――へぇ……。アオキ君のこと、好きだったんだ。
……え? あたしがアオキ君のこと、好きだと思ってた? そんなわけないじゃない。
あたし、トモの味方だもの。
■彼女との会話(二)
どうしたの、急に相談って?
――ストーカー? トモ、そんな目に遭ってるの? ひどい。誰に? ――わからない? けど、トモって、美人だから。そういうの、あるのかもしれないね。
あ、他人事に聴こえる?
違うよ。怒ってるの。
許さないもの。トモをそんな目に遭わせてるなんて。
……へえ、心当たり、いるんだ? 誰なの? あ、ダルマ? あの、ダルマ? それ、あだ名だったよね? 本名なんだっけ? ――ああ、そうそう。
わかった。あたし、ちゃんと見張っておくから。
■彼との会話(一)
ねえ、知ってる?
実はトモが――ああ、
あなたのこと、好きなんだって。
なに驚いた顔してるの? 本当よ。あの子は言わないでよ。話さないでって言われてるんだから。けど、どうして教えるのかって? それはもちろん、トモの恋愛を応援したいからじゃない。
あたし、あの子のこと、親友だって思ってるから。だからさ、その。たまに話しかけてみたり。お願い。
そっちだって、満更でもなさそうだし。
あ、それにトモ。最近ストーカーに狙われてるらしいから。トモのこと、気にかけて上げてほしいの。
■彼女との話(三)
――え。
え? ごめん。もう一回……、いや、ごめんね。うん、やっぱり言わなくていいから。
その、達磨に乱暴にされたって……。
うん、ひどいね。ひどいよ、あいつ、本当に酷い。――……そっか。転校するんだ。あまり会えなくなるね。
アオキ君のことは、どうするの?
こんな汚い身体じゃあアオキ君も無理だって? そんなことないッ。だって、あたしはずっといるもの。
転校してもちゃんと連絡取り合いましょう。
■彼との会話(二)
全然振り向いてくれない?
そんなことないよ。トモってさ。案外押しが強い人のほうが好きだから。もっとグイグイ行ったほうがいいぐらい。もっとガツガツいきなさいよ、
どうしてそんなに自信が無いのよ。――え、トモはアオキ君のことが好きだと思ってた? 違う違う。そんなわけないでしょう? あたしが言うんだから間違いないよ。
それに。実はさ。
あたしがアオキ君のこと好きなの。
話さないでよ?
はなさないで、と彼女は言った。 椎名喜咲 @hakoyuto
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