伯爵令嬢の香月日向子は、幼少の頃里子に出されていたため、実は運動大好きな活発少女。だが、女学校では完璧に猫を被っている。
その日向子の前に、父が決めた許嫁、五辻秋貴が突然現れる。その出会いは最悪だったのだが、伯爵令嬢としてはこの婚姻を断るわけにもいかない。しぶしぶ二人で夜会に出向くと、その現場で幽霊騒ぎが起こってしまう。
不思議なものに興味がある日向子は興奮するが、許嫁である秋貴は、あれは幽霊ではないと冷淡。日向子にベタ惚れの秋貴はいいところを見せようと、あの幽霊が偽物であると証明してみせると息巻く。
ちょっと凸凹な許嫁コンビによる、鹿鳴館華やかなりし時代の謎解き譚です。
幼いころに不思議なものを見たと言い張る日向子と、この世に怪異など存在しないと言い切る秋貴。二人はときに言い合い、ときに協力しながら謎を追い、急速に西洋化の進められる時代の歪みに迫ります。
とにかく時代考証がしっかりしていて、当時の街並みや貴族の世界が目の前に見えるようです。明治維新を経て、急速に西洋化が進む日本。大名が貴族になり、武士が警官になり、洋館がつぎつぎと建てられる時代。古い物を否定し、新しい西洋文化を良いものとする価値観。そこにある歪みと闇。
そんな時代に突然姿を現した西郷隆盛の亡霊。それは何を伝えようとしているのか。
その謎を、頭脳明晰な秋貴と、庶民派伯爵令嬢の日向子が追います。そこに描かれる、現代とはまったく違う価値観、物の考え方。
明治の時代にタイムスリップしたような冒険譚を堪能させていただきました。