epic of love

亜未田久志

君だけを


 嗚呼、死がふたりを分かつまで。

 この指と指を離さないで。

 永久とこしえに続く輪舞ロンドはいつしか鎮魂歌レクイエムへ。

 それは別れへ続く物語。

 決して別れる事のないようにと誓った物語。

 その詩は世界の果てまで届く。

 後の世で吟遊詩人は語る。

 それは恋の詩だと。

 永久の愛を語る二人の夢だと。

 出来ることならば。

 それは死後も続くようにと込められた祈りだと。

 嗚呼、死がふたりを分かつまで。

 この魂に刻む永遠を。

 悠久の果てに続く円舞曲ワルツはいつしか狂想曲カプリッチオへ。

 それは別れへと続く物語。

 誰にも真実を告げてはならぬという物語。

 秘密の暗号は世界の果てまで謎を呼ぶ。

 後の世で私立探偵は語る。

 それは人間の罪だと。

 原罪を解く事など誰にも出来ないのだと。

 


 ローラという一人の女性がいました。

 彼女はアーサーという男性に恋に落ちました。

 それは遥か昔の出来事です。

 今はもう二人が何者だったのかさえ分かりません。

 ローラとアーサーの仲は誰にも引き裂けず。

 二人は永遠を誓い合ったと言います。

 しかし、ローラが流行り病に罹りアーサーより若く死に至ります。

 アーサーはそれにひどく絶望し。

 かつての栄光を失います。

 アーサーの周りの皆は口々に言います。

「死んではならぬ」

 と。

 しかしアーサーは言います。

「誓い合ったのだ。死後も共に居ようと。呼んでいるのだローラが」

 と。

 彼は死出の旅に出ました。

 とある山の火孔にて。

 その身を投げれば永遠の地に行ける。

 そんな今では時代錯誤な伝説が。

 その時は残っていたのです。

 火山を目指す度は困難なものでした。

 しかし、ローラへの愛が。

 アーサーの老骨を動かしました。

 そして肺が灼けるような熱気の中。

 ようやくアーサーは火孔の付近までたどり着きました。

 彼はもう六十近く。

 当時としてはかなり長寿な部類でした。

 そんな彼は孤独を抱いて火孔へと飛び込みます。

 しかし、そこで悪魔の笑い声を聞きました。

 そう。

 永遠の地に行けるという伝承は。

 悪魔の罠だったのです。

 しかしそんな結末バッドエンドを憂いた神がいました。

 彼は火孔へ指を伸ばすと悪魔の手からアーサーを拾い上げると。

「君とローラの物語、その真実を偽りの美談に変えて後世に伝える。その代わりに、君をローラと合わせる。死後も絶対に真実を話してはいけないよ」

 アーサーは神の慈悲に感謝して頷きました。

 契約を横取りされた悪魔は激怒し火山を噴火させました。

 こうしてローラとアーサーの真実の詩を知る者はいなくなりました。

 これを悲劇と取るか喜劇と取るか。

 それは神さえもあずかり知らないところです。

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