姫から手を放さんか!

ふせんぺたー

第1話

「コラ〜〜、不届き者〜〜!!

 姫から手を放せ〜〜!!」


 バーカ。誰が放すかっつーの。


 俺は怪盗だ。

 まだルーキーだが、この界隈じゃ結構名を馳せている。

 今日は王族の秘宝とやらを頂戴しに来たのだが、蓋を開けてみればそれは人間を比喩した言葉だったらしい。


 ただで帰るのも癪だったんで、少し掻き回してからズラかることにしたという訳。


 俺に手を引かれる姫さんを見る。年頃は14.5くらいか。俺とそう変わらない。

 スピードに着いて来れないのかすごくよろめいていた。


 ひょいっと横抱きにして屋根の上にジャンプする。


「少し姫さん借りてくぜ!なに、変なことはしねーよ!」

「あったり前だバカもん!はよ放せー!!」


「だとよ。」

 姫の顔をみる。その表情には少し陰りがあった。

 彼女はきゅっと彼の服を掴みこう言った。

「このまま…、放さないで下さい」


 別に俺はリスキーなことが好きな訳ではない。今この逃亡劇も、彼女の希望があったから行っているのだ。

 ………。まあ、面白い事が好きだから乗っかっている点は否めないが。


「それで、どこまで行く?」


 彼女は少し考えてからこう言った。

「この国で1番高いとされている、時計塔の頂上まで。」


 ◆◆◆◆



 地上約100m。俺達は時計塔の頂上に到達していた。展望室から眼下に広がる風景を眺める。

 今宵は月が明るい。冷たい風が吹く中、ただただ時間が過ぎるのに身を任せていた。


「広い。ですね…。王宮があんなに小さく見える。」

 彼女はそう呟き、彼を静かに見つめながら語り出した。


「王族の秘宝はご存知ですか?」

「ああ。なんせ俺はそれ目当てに王宮へ忍び込んだんだからな。結果、徒労に終わったが…。」

「いいえ。あなたは確かに手に入れました。王族の秘宝…。それは私の美しさを例えたではありません。正しく私こそが秘められし宝という事です。」


 自分で言うか。


 __云く。彼女は王族の中でも神力が強いため、常に王宮内で神に祈りを捧げる日々を送っているそうだ。

 なんでも、彼女なしにこの国の平和は成り立たない…。らしい。


「じゃあ俺とんでもない事しちゃったのかな」

「いえ、短時間の離脱なら保つようお札をはっておきました。」


 少し目を伏せる。

「王宮から外へ出たことなど、数える程しかありません。

 本当は…。もっと見たいんです。知りたいんです。私が守っているこの国のことを。でないと…、なんだか虚しい気がして。」


 何だよそれ。どんだけハードな仕事なんだよ。

 なぜか…。その理屈を、湿っぽい空気ごと吹き飛ばしてやりたくなった。


「舌噛まないように口閉じといて!」

「は、え…、きゃああああ!!!」


 彼女をまた横抱きにして、その返事を待たず俺達は展望室から飛び降りた!


「あははは!速いだろ!!」

「きゃああああああーーー!!!」


「ひ、姫ーーー!?」

 捜索隊の人には追いつかないくらい速く駆け、その日は彼女を王宮へ返したのだった。


 ◆◆◆◆


 あれから怪盗は、幾度となく姫を連れ出した。


「また来たぜ。姫さん借りてくから!じゃあな!」

「おいこら…!!お前またか!!」

「警備ザルなのが悪いんだよ!改善しろ!」


 姫は我慢しようとするも、表情がほぐれていく。だめだ、堪え切れない。彼の腕の中で彼女は笑い出した。


「あは、あはは…!」

「何だよ」

「いえ、私…。今とっても楽しいんです!」

 姫は華やかに笑った。

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姫から手を放さんか! ふせんぺたー @husen_peta

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