第2話 代償

 気が付くと俺はベットに横たわっていた。体は鉛のように重く手足を動かすこともできない。自分がどうしてここにいるのかを思い出そうとするが頭が回っていないのか知らないが靄がかかっている感じで何も思い出せない。一体自分は今どんな状況なのかも分からず不安に思っているとドアの方から足音が聞こえてきた。足音がドアの前で止まると「トントントン」とノックする音が響いた。

 声を出そうとしたが口からは小さく音が出るだけで自分でもようやく聞こえるほどの大きさだった。俺からの返事がないのが当然かのようにドアはゆっくりと動きはじめ、そこから白衣を着た女性が現れた。


「おはよう、君を担当することになった眞水しみずだよ」

「大丈夫、久しぶりの起床だから体に異変を感じるかも知れないが直に慣れるよ」


「…うぅ」


 喋ろうとしても上手く声を発することができずうめき声しかでない。


「焦らないで大丈夫だよ。ゆっくり慣れていこう。君も君のお母さんも命に別状はないよ。詳しいことはまた今度説明するから今はゆっくり休んでね」


 そんな言葉を言いながら彼女は俺に近づきそっと頭に手を乗せた。まだ聞きたいことがあるというのにまぶたは自分の意に反して段々と閉じていった。




 次に目を開けるとそこには誰もおらず自分ただ一人だけがこの場に取り残されていた。先ほどまでの不調はなく体も少しは動かせるようになりつつあったが心は依然、不安でいっぱいだった。

 彼女が最後に言った内容にお父さんが触れられていなかったことに嫌な予感が付き纏う。自分が聞き間違えのかも知れない、単純に伝え忘れたのかも知れない、何度も「大丈夫、大丈夫」と言い聞かせてもこの不安は拭われない。

 そんな風に考えているとノックの音が聞こえまた彼女が現れた。そして俺に声をかけてきた。


「落ち着いた?自分のこと言える?」


「自分は…一護いちご、高校1年生です」


「大丈夫そうだね」

「それじゃ、どうしてここにいるのか、自分がどんな状況なのか色々説明したいんだけどお話聞いてくれる?」


「はい…」


 自分がどうしてここにいるのか知りたいはずなのに聞きたくない、嫌だと頭の中で叫んでいる。


「まず、結果から言うと車の追突事故にあったんだけど一護くんもお母さんも無事だよ。もう一つの車に乗ってた人もね。君が最後だったけど他の人はすでに目を覚ましたよ」

「それと一護くんは左足を怪我しているから安静にしていてね」

「それから…」


「あ、あの!」

「お父さんは…」


 寝る前にも言われたようにお母さんも無事でホッとしたけど、お父さんについての言及がなく段々焦りを覚え自分から聞くことにした。無事であることを信じて。

 だけど彼女は話すことをやめ、ただ自分を見つめ続けてきた。


 それから数秒後、ようやく彼女は口を開いた。


「お父さん?」

「えっと、車には、二人…しか、いなかった、よ。それに、母子家庭って、聞いたよ?」


 頭が真っ白になる。


「……ぉんぁぅ?…………ぁぅ」





「ぃじょうぶ?大丈夫聞こえてる?」

 いつの間にか彼女は俺のそばにより声をかけていた。彼女は俺が気づいたことを知りもう一度、質問してきた。


「自分の名前を言える?」


 自分の名前をまた聞かれ、記憶を疑われているような感覚に陥り不快感を覚えた。自分はちゃんと覚えている、お父さんの状況を知りたいと思い尋ねた。


「自分は一護、加藤一護です。お父さんは、加藤太星かとうたいせいは無事なんですか?」


 そんな言葉を聞いてから彼女は血の気が引いたように慌ててどこかに連絡しだした。



「眞水です。一護さんですが記憶が混濁しているみたいです」

「自分は加藤だだったり、お父さんは無事かだったり、とにかく来てください!母親にも説明してこっちに呼んでください」



「な、んで、そんなこと言うんだよ」

 その言葉はとても小さく風に流れて消えていった。


 自分の苗字は加藤だし、お父さんも無事なのか知りたいだけなんだ!なんで、どうして…そんな風に言うんだ。

 大丈夫、お母さんなら…ちゃんとわかってくれる。お母さんは裏切ったりしない。大丈夫、大丈夫。

 ああ、大丈夫だと思うのにどうしてこんなに胸がざわつくんだろう。どうしてこんなに悲しくなるんだろう。





 多くの足音が聞こえてくる。この中にお母さんがいるのかな。さっきまではいの一番に会いたかったのに、なぜか今は会いたくないな。



「一護!」


そんな声が聞こえた気がした。

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悪魔の拘束 ソルダム @sorudamu

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