悪魔の拘束

ソルダム

家族

第1話 悪魔

悪魔

それは悪を象徴する存在

それは人間の願いを叶え魂を奪う存在

それは神に反旗を翻した天使の存在

それは人間の持つ欲望を擬似的に表した存在


 悪魔についてのイメージが世の中に浸透している今現在、1番初めにどんな存在を思い浮かべるのだろう。七つの大罪・傲慢の罪「ルシファー」だろうか。それとも絶対悪として表される「アンラ・マンユ」だろうか。


 いや、この問い自体に意味などないのだろう。1人、2人からのイメージを知ったところで私が変わることはない。大衆から悪魔のイメージが固定されたあのときから私はただ願いを叶える存在へとなったのだから。



 そんな自問自答から幾星霜いくせいそう、また私を必要とする人間が現れた。あとどれくらい悠久の時を過ごし願いを叶え続ければいいのか。せめてこの一生に終わりがあることを願って私はその人間のもとに向かった。





「どうも、はじめまして。私は悪魔と呼ばれています。願いを叶え、その代償を頂戴する存在です」


 悪魔を呼び出すことができるのは心の底から願う者だけだ。それほどまでに切羽詰まっている状況でしか呼び出せない。そのため、ほとんどの者が願いを言ってしまう。それも曖昧な願いを。願いが曖昧であればあるほど悪魔の自由度が増すというのに。



「っ、をたす、けて」



 こんな風に誰を助けて欲しいのか指定がない場合、悪魔の裁量で助ける人物を決めることができる。代償が大きくなる者。はたまた知り合いですらない者。それさえも自由にできてしまう。まぁ、現場を見てから誰を助けるか考えるとしよう。


 近辺には契約者を含み5名おり、2人と3人の2グループで分かれている。それぞれ黒とベージュの色をした箱に入っている状況で契約者は3人でベージュの箱に入っている。両者の箱の前方は変形しており、契約者の箱には大人が2名に子供が1名入っている。契約者ともう一人の大人は血を流しがながらも子供に手を伸ばそうとしている。



 さて、誰を助けようか。



 候補は3つ。

 一つ目、他の箱に入っている2人を助ける。代償は契約者が全面的に加害者となる。

 二つ目、子供のみを助ける。代償は契約者の生きてきた証の抹消。すなわち助けたとしても孤児として生きていくことになる。

 三つ目、契約者以外の2人を助ける。代償は契約者が生きてきた証の抹消。しかし助けた子供または大人のどちらかは契約者の生きてきた記憶の保持。他の人は最初から契約者の存在がなかった状況になるなか、一人だけ契約者の存在を覚えていかなければならない。


 ふむ、この者を助けるとしよう。


「その願い、承りました。それでは代償を頂戴致します」



 この瞬間は未だに慣れない。あと何度繰り返そうと慣れることはないだろう。願い・代償による世界の改変、それは精神が擦り減る作業。自分が自分でなくなるような感覚。この世界の過去、本来辿るべき未来の情報が一度に訪れる。この世界を一度終わらせ再構築を始める。ああ、本当に嫌になる。



 この選択が正しかったのかは分からない。でも新しい世界が面白いことを願って助けた者の行く末を見届けよう。

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