猫だけが知っている

あげあげぱん

第1話

 昔、私がまだ中学生だった頃のことだったと思う。私はよく猫のあとを追った。


 家猫だとか、野良猫だとか区別はなかった。ただ、猫が歩いているのを見かけると、私はそのあとを追っていたのだ。


 そのころに見ていたアニメか漫画か、小説の影響だろうか。私は猫が、私をどこか素敵な場所へ連れてって言ってくれるのではないかと、なかば本気で考えていたように思う。それはもちろん今から考えると馬鹿な子どもの行動なのだが、当時の私にとっては大切なことのひとつだった。


 猫のあとを追えば、どこか不思議でファンタジーな世界にたどり着けるのではないか。流石にそれは無理だとしても、どこか素敵で、私が知らなかった場所へとたどり着かせてくれるのではないか。そのような思いで猫を追っていた。


 大抵、猫の目的地までたどりつくことはできない。猫は狭いところに入っていったり、壁の向こうへ行ってしまったりして、いつも私は置いて行かれてしまう。どの猫も私の知らないどこかへ行ってしまうのだ。そんな経験をするたび、私はますます猫たちは秘密の場所を知っているのではないかと期待したものだ。


 当時、私の住んでいた場所はド田舎と呼んでも良いような場所で、楽しく遊べる場所が少なかったということもあり、その頃の私には友達がほとんど居なかったこともあり、私は猫のあとを追うことを日々の楽しみにしていた。猫からしてみれば、よい迷惑だったと思う。


 結局、中学生の私が猫たちの秘密の場所へたどり着くことはなかった。きっとそこは、どんな土地でもあるような、何の変哲も無いような場所だったのだろうが、もしたどり着けていたなら、その時の私に何かを与えてくれたかもしれない。与えてくれなかったかもしれない。


 そんな妄想を働かせていた子どもは大人になり、今でも小説という形で妄想を働かせている。


 東京に住んでいて時たま猫が歩いているのを見かける。今の私が猫のあとをついていくことは無いが、つい目で追ってしまう。もしかすると、私は今でも、心のどこかで猫だけが知っている秘密の場所に思いを寄せているのかもしれない。

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猫だけが知っている あげあげぱん @ageage2023

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