おいでよ どうぶつ麻雀の森
ももも
おいでよ どうぶつ麻雀の森
持ち点45500点で迎えたオーラス。このまま逃げ切れば勝ち。
そのはずだった。
だというのに――この状況はなんだ?
「カンッ!!」
「あ、また光った!!」
目の前で繰り広げられるカオスな光景に、うめくしかなかった。
「イヌさん、今度、動物アイコンのメンツでどうぶつ麻雀しましょう」
きっかけはネト麻で友人戦をよく打つ、ウサギアイコンのアイツだった。他のメンツのキツネとサルとは一度も打ったことはないが、空いているかと聞かれた日がちょうど暇だったので、二つ返事でOKした。
キツネに関してはよくタイムラインで「豪運イキリフォックスがよ!!」「これが……キツネ麻雀!」という叫び声がよく聞こえてくるが、サルの方は情報が圧倒的に少ない。ディスコで会話をするのも初だ。
まあ、なんとかなるだろうと当日を迎えたが、打ち始めてすぐに分かった。
この二匹、超絶ど素人だ。
キツネはやたらカンをしたがる。意味のないカンは打牌の自由度が低くなるうえ、自分の手を読まれやすくなるし、何よりドラが増える。初心者がやりたがる仕草だ。だが豪運と呼ばれるだけあって、よく分からない単騎待ちでハネ直してくるから腹が立つ。
サルはなんかサルだった。
麻雀を三つの絵柄を集めるゲームと思っているのか、ひたすらポンポン言っている。トイトイしか役を知らないのか、このサル?
そんな初心者二人を尻目に順調に点を増やし、迎えたラス。
イヌ45500点、ウサギ35700点、キツネ14500点、サル4300点。
親番イヌ。逃げれば勝てる。
警戒すべきは俺の後を追うウサギだけ。そう思っていた。
流れが変わったのは、キツネがポンをした時だ。
キツネの牌に 東東東 が並んだ。
河を見れば、西も南も北も白も中も一枚も流れていない。
普通ならそこまでピリピリする状況ではないが、この豪運キツネの場合、小四喜、大四喜、字一色の可能性も十二分にあった。
役満はまずい。手牌の白が捨てられなくなった。
配牌の時点でクソだったが、このまま降りるのもアリかとドラを切った。
「それポンで」
捨てたばかりの牌がポンポンサルのポンで回収され、ドラ牌が三つ並ぶ。
トイトイとドラ三で満貫。少し警戒しておこう。
「カーンッ!」
そう思っていたら、キツネが西をカンした。
「あ、光った!」
とたん、サルのポンした牌が光り始める。
「何してんねん」
素で関西弁がでた。
ドラが六つになる。倍満じゃねぇか。
「今度は南をカーンッ!!」
「あ、また光った!!」
「だから何してんねん!?」
キツネのカンで、サルのポンした牌すべてがドラになる。
ドラ九。もしタンヤオなら数え役満だ。
バカなの? アホなの? なんで都合よく、ポンした牌がドラに変わるの? なんなのこの状況?
「イヌさん、ようやく気づきましたか?」
耳元でウサギの不敵な声が聞こえた。
「オーラスになると、キツネさんがカンするたびにサルさんのポンした牌がドラに変わるんです」
「どこの異能麻雀漫画だよ。ジャンタ○運営と寝てんの? なんなのこの卓?」
「フォッフォッフォッ! これぞ運ですべてをなぎ払う豪運キツネ麻雀!」
「ウッキッキ! こっちはポンで運を奪い取とる盗人サル麻雀!」
「豪運をとおりこしてオカルト麻雀なんだよ。戦略もクソもない勝ち方って楽しい? ねぇ、本当に麻雀好き?」
「豪運でねじ伏せるの、楽しいフォックス」
「経験者が初心者に負けて歯噛みする姿は愉悦モンキー」
「イヌさんがこの光景を見た時のリアクションが見たかったラビット」
「クソがよっ!!」
とんでもねぇメンツだった。
こいつら、タイムラインで伊達にイキリフォックスとかイビルモンキーとかサイコバニーとか呼ばれていない。なにがどうぶつ麻雀だ。害獣麻雀じゃねぇか。
奴ら二匹は麻雀を運ゲーと思っている。
勝てばイキリ散らす。負ければ運が悪かったと思うだけ。
はっきり言ってこの勝負、勝ったところで俺が得られるものは何もない。だが、負けたくもない。オリがベタだった。
「イヌさん、それでいいのですか? それじゃあ、試合に勝っても勝負には負けですよ」
ウサギがまたささやいた。
――このふざけた野郎たちを前に、おめおめと逃げるのか?
そう、聞こえた。
麻雀は運ゲーか?
否だ。
運が絡むゲームである。
あの時、あの牌を切らなければ。
あの時、ポンをしていたら。
あの時、チーをしていなければ。
そうした後悔を積み重ねて、果たされなかった未来に涙を流し、初めて十三の牌は完成する。
そうだ、麻雀は99%の選択と1%の運で成り立っている。
「キツネとサル。お前ら、麻雀に必要なものって知っているか?」
「一緒に打ってくれる相手」
「時間」
「ド正論だがそれだけじゃねぇ。麻雀に必要なのはよお、後悔を抱えながら、それでもなお、選び続けることだ」
手牌の白が目に入った。こいつを切ればテンパイだった。
キツネの見える牌は 東東東西西西西南南南南
ここで白を切る、だと?
やめろ、と理性はいう。
だが、ここで白を切らずに持ち続け、オリを選択したら?
サルのドラドラトイトイが直撃する未来が見えた。
「牌を切る覚悟。おめえらにはそれがねぇ。そんなの、俺は麻雀とは言わない!!」
麻雀漫画を読んで、麻雀やってみてぇ!とワクワクしたあの日。
大学の先輩に連れられて初めて雀荘にいった日。
かっこよくポンをするために初めて雀卓を買った日。
一つ一つの初めてを積み上げて、今の俺の麻雀がある。
こいつらの蹂躙麻雀なぞ、俺は認めない!!
手牌の白を握る。
「お前らが麻雀を運ゲーというのなら、俺は覚悟と選択を持ってお前らを〝否定〟する!!!」
たとえ直撃して、負けイヌ麻雀と言われてもいい。
苦悩の果てに選んだ、この選択を俺は誇ろう。
「これが……俺の……麻雀だぁ!!!!」
流局。
テンパイしていた俺とウサギに点が入り終わりをむかえた。
つまり……
「お前ら二人、テンパイすらしていなかったのかよ!!!!!」
「南をカンした時まで勝つビジョンが浮かんでいたんですけれどね」
「イヌさんが白切ったタイミングで流れが変わりました」
はぁ。なんなんだこいつら。
怒りを通り越してドッと疲れた。
こんなに心が擦り減る麻雀なんぞ、もうしたくない。
麻雀引退しようかなとため息をついた時、ポンと音がなった。
見ればウサギからDMが届いていた。
『イヌさん、ありがとうございました。ここ最近、彼らがイキリ散らして、あたしネト麻をやめる!と言っている人が多かったんですよ』
ソウダロウネ。
『でも、イヌさんのおかげです。イヌさんならやってくれると思っていました』
何が?と言いかけて、ふとキツネとサルの会話が耳に入った。
「負けるって悔しいな。運だけじゃダメなんだ」
「こうなったら、ウサギさんから聞いたおすすめ麻雀漫画読んで鍛えるぞ!!」
彼らの会話に、大三元にふりこんでしばらく立ち直れなかった己の姿が思い浮かんだ。
そう。
負けるのは悔しい。誰だってそうだ。
でも、だからこそ、次を目指すのだ。
麻雀本や解説動画で学び、形を覚えて、一歩ずつ積み重ねていく。
――それが麻雀ってもんだろう?
「じゃあ咲から読もう」
「こっちはムダヅモ」
「そこはオバカミーコにしておけよ!!」
―完―
おいでよ どうぶつ麻雀の森 ももも @momom-
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます