旅立ち
さくらみお
第1話
満開の桜と新緑と、澄んだ青空。
命が芽吹く季節を素直に喜ぶ時はもう過ぎた。
そう、僕らは無人駅に立ち、汽車を待つ。
君が今日旅立つから。
思えば、君と出会ったのは記憶もない遥か昔。
母親の揺り籠では一つだった僕ら。
いつしか僕らは二つになったね。
一つでも良かったのに、僕らは二つになった。
きっと、意味があるんだね。
きっと、僕らは意味を知るために生まれたんだね。
きっと、僕らはお互いがとても稀有で特別なんだ。
小さな頃は、そう思っていた。
特別な僕らは、いつも一緒だった。
一緒に笑って、遊んで、泣いて、同じくらい喧嘩して、笑って。
ずっと同じだと思った。
ずっと一緒だと思った。
でも、それは違うと思い知る。
夢見る幼少期が終わり、向き合う僕ら。
汽笛が君を揺り動かす。
一緒に行きたかった。
でも、一緒に行けない。
僕らは気が付いたんだ。
僕らは一つじゃないって。
それを思い知るために、生まれてきた。
もう、とうに手なんか繋いでなんかいない。
とっくに分かっていたんだ。
君を乗せる汽車がホームに到着する。
なんてことないさ。
今だって、君と僕は違う未来を見ている。
そう、一緒にいた時から――僕らはこんなにも違っていたんだね。
汽車に乗りこんだ君。
君は言う「もしも……」
その先の言葉は聞きたくない。
話さないでくれ。
お願いだから、はなさないで。
僕は君を誇りに思う。
わかっていたじゃないか。
君は優秀で、僕は君に似ている木偶で。
二人で一つなんかじゃなかった。
僕は、君の付属にもなれなかった人間。
だから僕は、笑って、君を見送るんだ。
それだけが、僕の矜持さ。
でも、どうしてなんだろうか。
どうして、君が泣くの?
僕は君にとって『一つ』にもなれなかった人間さ。
なのに、そうやって君が泣くから、
僕は僕の価値を知る。
「ああ、だから僕らは二人なんだね」
二人で生まれた意味を知る。
汽車が発つ。
小さくなる君をずっと見おくる僕。
「……さようなら、兄さん」
僕らの二人の終わり。
旅立ち さくらみお @Yukimidaihuku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。