バイバイ

独立国家の作り方

第1話 どうか

 まったくヘマをやってしまった。

 まさか、車に轢かれるなんてね。

 

 冷たい雨が、僕を濡らしてゆく。

 白かった僕の毛並みは、どんどん赤く染まってゆく。


 僕は、もうダメなんだろうね。


 猫としては、長く生きた方だから、死ぬ事に悔いはない。

 でもね、君の事だけが心配だ。

 僕は、彼女が生まれた時から、ずっと見て来たんだ。

 僕のこんな姿、彼女はきっと傷付く。

 どうか、僕の最後は、見ないでほしい。

 

 こんな僕にも、心残りがある。


 君の、花嫁姿が見れなかったことだ。

 図々しく、僕は君が嫁いだ先に居候して、二人の間に出来た子供の顔を見るつもりだったんだぜ。

 僕は、君の膝の上で、陽光を浴びながら昼寝をするのが一番の幸せだった。

 そんな日常が、ずっと続くと思っていた。

 

 まったく、とんだヘマをやらかしたものだ。

 

 僕はね、なんで猫に生まれたんだろう、っていつも思っていた。

 人間の男だったら、颯爽と君の前に現れ、君を口説く行く事だって出来たろう。

 

 死ぬにあたって、専ら気掛かりなのは、君の行く末だけだよ。


 ちゃんと食事は採っているかい?

 勉強は、捗っているかい?

 家族と、しっかり話し合っているかい?

 好きな人は、出来たかい?

 

 、、、、僕は、君の癒しになれたかい?



 体が冷たくなってきた。


 僕は、もう逝くのだろう。


 神様、、、本当はね、、最後に本音を言うならば、

 最後は、彼女の膝の上が良かった。

 あの、至福の時間を、出来ればもう一度、僕は噛みしめたかった。


 でも、それは叶わないだろう。


 だから神様、僕の願いは、ただ一つだけです。


 どうか、彼女を幸せにしてあげて、ください。

 良い、パートナーを見つけてあげてください。

 

 それで、いいのです。



 、、、、でも、どうして?

 僕は、そんな事、望んではいないのに。

 こちらに近付く足音、聞き覚えのある、この声。


 神様、僕は、こんな姿を、彼女に見せたくはなかった。


 きっと、彼女はショックを受ける。

 

 ほらね、、、悲鳴を上げて、、、。


 僕を抱き上げ、、、、


 ねえ、どうか、泣かないで。

 こんな僕のために、君が泣くことなんて無いんだよ。

 ほら、せっかくの君のお洒落着が、僕の血で染まってしまう。

 

 だから、僕を、どうか、抱かないで。


 

 でもね、神様、、、、、

 最後に、僕の願いを叶えてくれて、、、ありがとう。



 強がっていたけどさ、、、、本当は、死ぬのが怖いし、悲しかった。

 本当は、思いっきり泣きたかった。

 怖かったんだ。


 最後に、ワガママ言ってしまえば。


 どうか、僕を、離さないで。


 最後は、君に抱かれて、逝きたいから。

 こんなワガママを聞いてくれて、ありがとう。


 こんな僕のために、大泣きしてくれる君の事が、、、、大好きだよ。

 だからね、もう、泣かないで、

 いつもの、笑顔を見せてほしい。

 どうか、僕の事で、泣かないでほしい。


 君の、幸福な未来に、僕を連れて行ってほしかった。


 人間と動物の寿命って、合わないものだね。

 君の事を、天国で、ずっと見守っているから、、、、どうか、今だけは、、、


 僕を、離さないで。

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バイバイ 独立国家の作り方 @wasoo

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