第7話 狩りの時間 2
明日決行する威力偵察が成功すれば小隊長から昇進でき尚且つ金銀財宝の褒美が手に入る!!
鬱蒼と茂る森林帯にある洞穴、充満する生臭く温かな空気を吸い近くの街道を通りかかっていた荷馬車を襲い、奪った女と酒を飲み夢心地の酒宴を楽しみながら小隊長、低級魔族の名も無きインプは人が話す言語では無い未知の言語でそう言った。
それに対して周りに集まり略奪したワイン瓶を煽るホブゴブリンや犯され過ぎて腹上死したボロボロの女にまだ腰を振るオークは同調し成功した後に来る褒美を思い浮かべ各々騒ぎ立てていた。
しかしそんな光景にこの隊の隊長たるインプは長く細長いコードのような尻尾を無意識に振り不機嫌な気分になっている。
周りは気付かず騒ぎ立て、自分は略奪品の中でも一番質が良かった酒を飲んでいるのにも関わらず機嫌が悪い理由、それは自分が抱いている選民意識。
そのたった一つの一銭の価値も無い腐った思想に囚われているからだろう。
魔族という物は無駄にプライドが高く、醜悪で、自分以外の雌はただの孕み袋程度にしか思わない獣だ。低級~上級、超越者とランク分けされ、そのランクに従い貴族制のような社会構成をしているが、所詮人の振りをする獣だ。
実際にこのインプも手に入れた女を犯しつくしもう使い物にならなくなった女達を渡した後に行為に及ぶ即席の部下達を軽蔑の目で見て、本来酒も全て飲もうと考えていたがその後に言うことを聞かなくなったら面倒だからと寛大な心(笑)で酒を渡すなど自分がまるで特権階級の人間とでも言うかのような立ち振る舞いをしている。
だからこそ気がつかない。自分たちが狩人に追われる獣になることを、これからやってくるのは貴族を処刑する処刑人だということを、この小隊自体が捨て駒だということを。
ドゴォォォォォォォンン!!
地面を物理的に揺らす轟音と共に何かが潰れる湿った音と舞った土煙と小さな粉塵が鼻を通る。
何事だ!?
驚愕し短慮な考えしか出来ないぐらい驚きそう叫んだ。そして自分の部下に命じて外の様子を見るように命令した。が、焦っている様子はあるものの危機感を持っている様子では無かった。では何故か?それはこの立地に深く関係する。
今回この小隊が潜伏するために用いたこの洞穴は落石が多い台地の麓にあり何回もの落石を経験したからだろう。初めこそ”奇襲か?”と急いで部下を出させたものの、あったのは拳大の石ころでそれを何回も体験した今、今回の轟音も少しばかり大きい石が落ちたのだろうと部隊の皆は思っていた。
だからこそ気がつかない。ちゃちな自然現象だと思い込む思考にはあるべき奇襲という二文字がすっぽ抜け、今回の出来事もただの落石程度にしか思っていない。これが奇襲だと気がつかない。
先ほど外の様子を見に行った部下が慌ててこちらに戻ってきてこう言った。”入り口が崩落している!!”と。
今の今まで下卑た笑顔を貼り付けていた部下が血相を変えそう言ったものだから急いで自分もその現場を見に行くと確かに入り口が崩落していた。それも一つの大きな岩で。
その岩の下からはぬめりを伴う小さな肉片と粘っこい黒い血溜まりが出来ており強いアンモニア臭と生臭い匂いが混じた凄まじい悪臭に思わずえずいてしまった。
一刻も早くこの空気を換気しなくては!そこには小隊を率いる無駄なプライドを着こなす隊長としての姿では無く、目の前で汚物をぶちまけられ泣きわめく生娘が怒り口調で洗うための水を要求するように慌ただしく命じる。
だがしかし、この大岩は中々動かない。力持ちのオークが動かそうと押すも1ミリたりとも動かずただ入り口を塞いでいる。
幸いなことに空気孔は別にあるものの、この空気が出るのは微々たる量で今だに充満しとうとう吐いてしまった。
そしてイライラした様子でオーク共に早くこの岩をどかせと命令し、自分はゲロで汚れた口を濯ぐように近くに転がっていた質の悪くただ甘いだけの果実酒を一気飲みした。
目の前には岩を動かすために向かったオークを尻目に自分たちは関係ないと言わんばかりに騒ぐホブゴブリン達に”殺してやろうか”と苛立ちを隠せない。
常日頃悪臭になれているホブゴブリン達にとってこの程度どうって事も無いのだろうがなれてない自分からすればその態度に強い怒りを感じるのも仕方が無い。
使えない部下への苛立ちを酒でごまかそうと次の酒瓶に手を出そうとした。が、
カツ、カツ、カツ・・・
小さな金属製の何かと地面が当たる音を尖った耳で拾う。その音はこの洞穴の隣にある略奪品の置き場所から聞こえた様な気がした。
もしかして、見張りのオークが何かを盗んだのではないか?と酔ってまともに働かない脳みそで考えた。が、この音はそんなちゃちな物では無かった事を強制的に知ることになる。
ボコ!
土がめくれ上がるその音と共に樹木のように太く金属製の鎧に包まれた大きな腕が近くのホブゴブリンの頭を掴んだ。
ッ!?な!?
急に起きたアクシデントに驚き持っていた酒瓶を落とし思考を停止してしまった。がその間もメリメリと弾力性のある物体を締め上げる嫌な音は止まらない。
ギャ!ギャ!ギャ!とうめき声を上げてホブゴブリンはこの手から逃れようと抵抗をする。しかしその手の力は止まること無くギリギリと締め上げながら岩の壁をラスクのように破壊しながら右横に移動していき、遂にその頭は腐ったリンゴが自重で潰れ果肉と果汁を周りにばらまくように最後の言葉を残すことも無く潰され絶命した。
その時に飛び散った肉片と脳液が顔に飛び散りタラリと垂れ、コロコロと転がってきた黄色と黒の目玉がこちらを覗く。
そして目の前の岩壁がガラガラと崩れ去り一体のホブゴブリンを葬り去った犯人があらわになる。天井近くまで伸びた身長に鎧の上からも分かる山の様な筋肉を身に纏う男。
酒の酔いが覚め、魔族らしい狡猾な脳をフルスルロットし”自分たちは奇襲をかけられている”と理解した。そこからの行動は早い。自分たちの部下に”敵がやってきた、出迎えてあげろ。”と命令。その言葉に反応したオーク、ホブゴブリンは各々の得物を持ち出して奇襲を仕掛けてきた男に攻撃を仕掛けてきた。
勿論この攻撃の結果で何体かは死ぬだろう。が、どれだけ強い力を持っていようが数の前ではどうにもならないことは何回も仕掛ける襲撃で理解していた。
どんなに強い魔法を持っていようが高い技量を持っていようが数のまではなすすべも無い。それに何度も強そうな護衛をなぶり殺してきた経験がある。
だから今回も直ぐに終るだろう。それに相手が暴れてくれたら鬱陶しい部下の数も減らせる。一石二鳥だ。
そう都合の良い予測を確信していたインプは早すぎる勝利を噛みしめ落とした酒瓶を拾い口につけ部下のなぶり殺しが終るまで待った。が、いつまで経っても殺したと言う報告が無い部下達の様子がおかしな事に気がつく。
オークやホブゴブリンは未だに収集した鉄製の武器による攻撃を続け床には血だまりが出来ている。だからかの奇襲者に攻撃が効いているのだろう。
しかし致死量に達する血を流している筈なのに一向に倒れる気配も無い。それどころか何かの断末魔が極小の音量で聞こえる。
そしてその不安と少量の絶望が混じり合う予感は不幸にも自分の近くにホブゴブリンの苦悶に満ちた頭が飛んでくることによって判明した。
段々と大きくなる絶叫と湿った何かがボキリと折れる音、カランと落ちた音がしその方向を見ればねじり切れたオークの腕が手に武器を持った状態で落ちており、ねじりおられて変形してしまった太い骨が痛々しさを物語る。
ビチャっと液体を伴う音が聞こえその方角を向けば腸を伴う消化管を無理矢理抜かれ藻掻き苦しむホブゴブリンが怨嗟籠もる表情でこちらを睨み、絶命する。
その光景に最早勝った気分も圧倒的有利に立っていた優越感も無く、何処までも震え上がらせる恐怖によって腰が抜けてしまい後ろに後ろに下がることしか出来なかった。
ズリ、ズリ、と小さく短い腕を動かし下がるが背中に壁が当たる感触がし脳の片隅にあった絶望が心全体を包み込み泣いているのか分からないくしゃくしゃになった表情になる。
それでも尚、集中しているのか必死に腕を動かし逃げようとする中、集団でリンチするしか能の無いオークやホブゴブリンの生き残りが血相を変え逃げようと死にかけの同胞を相手に押しつけ一目散に塞がれた入り口に走る走る。
先ほどこの血ぬれの化け物が出てきた穴から逃げようにも立ち塞がり逃げるのならばそこしか無いと打算した数少ない生き残りは外に出るべく持っていた武器を必死に岩に叩きつけ壊そうと藻掻く。が、それを逃すのを見逃がすわけが無い。
血で真っ赤に染まった襲撃者は近くに落ちていた鉄のショートスピアを逃げようとする部隊員に向かい軽い感じで投擲をした。
投擲されたショートスピアは軽く投擲された雰囲気とは違い、速く重く鋭く作用し、ホブゴブリンの頭を脆い発泡スチロールに割り箸を刺すように貫く。
馬鹿力のオークがいくら叩けど不変だった大岩に、自分の真横にいた同胞が無残にも殺された原因である突き立てられた槍に怖じけついたオークは、もうこれしかないと覚悟を決めたのか雄叫びを上げながら特攻をしかけた。
しかしそんな特攻も振り抜かれた拳によるたった一発の殴打で頭があり得ない形で変形しドサリと倒れ込んだ。水風船に空けられた小さな穴から水が勢いよく飛び出るようにひび割れた元頭の肉片からは血が飛び出て周りに汚物をまき散らす。
これで残ってしまったのは自分一人だ。
襲撃者は冷酷な視線でグチャグチャになった屍体を見た後、動けずに呆然としてるインプの方向を見た後に重い足で地面を踏みながらこちらに向かってきた。
バシュ!!
襲撃者の巨躯に大きな火の玉がぶつかり殺人的な熱気が鎧全体を焦がさんと洞穴の密閉空間を蠢く。
一歩一歩近づく圧倒的な死を見たインプは生きたい欲望が前に出て魔力量関係無しに自分の得意魔法をぶつけ活路を開こうとした。
魔族というのは魔法、身体能力共にとても優れただの初級魔法を何倍の威力に跳ね上がらせることだってできる。だからこそ目の前の敵をただ殺すために自分の身の丈ある火の玉を打ち続けた。
何度も
何度も、何度も、
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も!!
周りの空気の熱気に肺が焦げて喉に激痛が走ろうと、皮膚が収縮し割れて血がにじみでようと、必死に足掻く。行き止まりにぶち当たりどうすることも出来ない死から免れるために。自分の命すらチップとしてかけ、活路を開くために。
放った炎の魔法は黒煙を充満させ、襲撃者の足音も何も聞こえなくなり嫌な沈黙が重くのしかかった。何秒かの短い符号のような時間が何年、何千年の長さを持っているかの様に体感したが、黒煙から何も出てこない。
やったのか・・・?
そう疑問に思い魔法を放つために挙げていた手を静かに下ろした。そして安堵で力が抜けそうになるがそれは水に溶けていく綿菓子のように呆気なく消え去った。
カツ、カツ、カツ・・・
黒煙を切り裂き最早トラウマになる靴音を響かせて襲撃者が現る。その手には手足はパンをちぎるかのように捥がれ何かの汁を流す黒焦げのオーク屍体を持っていた。近場に落ちていた屍体を拾い、即席の盾にしたのだろう。鎧に煤の黒い汚れはあるが全く傷がついていない。そしてボロボロの屍体は用済みだと言わんばかりにポイ捨てする気軽さでその屍体を地面に捨てた。グジュっと嫌な音を立て潰れたトマトのようにピンクの肉と黄色い汁が飛び散り濁った目玉がこちらを覗く。まるで自分の未来の姿を暗示するように。
ああぁ・・・あぁぁぁぁぁあぁぁ!!!
言葉にもならない叫びを上げ後ろに後ろに下がるしか出来ないインプ。魔法も何も考えず打ち続けた為に魔力欠乏で碌に動かない体を引きずりながら逃げようとした。それでも死に神からは逃げれずに距離だけが縮まる。
うぁあぁあぁぁ!!
ふと、手に当たった剣の柄。それは襲った荷馬車の護衛が持っていた剣だった。岩をも切り裂く剣と歌い、自分は武芸者だと言って呆気なくリンチにされた護衛が持っていた剣。実際にその剣が分厚いオークを真っ二つにしたのを目撃している。
そんな冷静な判断も出来ず狂乱しているインプはその剣を持ち、顔めがけて振った。少しでも相手を傷つけひるませるために。しかしながら確定している死からは逃れられないようにその足掻きは無駄に終る。
パキン
ガラスが割れるような音ともに兜に接触した剣が粉々に折れた。ポカーンとするインプ。兜からにじみ出る殺意ましましの視線。
そして叫ぶ間もなくインプの顔は地面に押しつけられた。上から来る圧力によって軋む頭蓋骨の痛みで声にならないうめきを挙げ肺から空気が抜けずに息苦しさも感じた。
マ、マッ
自分のプライドも捨て命乞いをしようとするインプ。だがそんな声も聞こえるはずも無くさらに圧力がかかる。
ミシ、ミシミシミシミシ・・・
グチャ
R18(エロ)ゲームをR18(グロ)ゲームに変える一般通過TS転生エルフ メリー大尉 @ALED
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