指を離してはいけないゲーム

伊崎夢玖

第1話

「こっくりさん、こっくりさん。おいでください」


かつて爆発的に流行した、こっくりさん。

こっくりさんをすることを禁止する学校があったとか…。

現在はかつてのような流行りはない。

というより、現代っ子たちは知っているのだろうか?

このゲームがある種命を懸けた神とのやり取りであることを…。


用意するものは、紙とペン。

紙の下部三分の二に五十音を、残りの上部に”はい、鳥居のマーク、いいえ”の順に書く。

出来上がったら、鳥居のマークに硬貨を置き、集まった仲間内のそれぞれの右手の人差し指を硬貨の上に置く。

ここから人間と神との対話が始まる。

対話なので、当然失礼があってはならない。

対人であっても、失礼があれば相手は立腹する。

対神なので、人間以上に失礼がないように細心の注意を払う必要がある。

何かあって責任を取らなければならなくなった時、何を代償に要求されるか分からない。

言葉使い、自分の気持ち、所作。

最初は遊び半分だったとしても、時間経過と共にだんだん本気度が増していく。

そうなると、どうなるか――手汗をかき始める。

それが指先に伝っていき、硬貨の上で指先がぬるりと滑る。


「はなさないで!はなしちゃダメ!絶対!!」


仲間内の誰かが叫ぶ。

至って真面目にしていても発汗は抑えられない。

悪ふざけで離そうとしているわけではないのだ。

しかし、こっくりさんがいらっしゃる間、硬貨から指を離してはならない。

こっくりさんをする上での絶対の約束事。

もし、離してしまったら――何が起こるのだろうか?

正直、知らない。

ただ『世にも恐ろしいことが降りかかる』と聞かされてきた。

こうなると人間とは実に愚かになる。

逸る気持ちを隠して、一秒でも早くこっくりさんに帰っていただこうとする。

しかし、相手は神。

人間の考えなどお見通しである。

なかなか帰っていただけない。

焦りを見せる人間側とそんな人間たちを弄ぶ神側。

人間と神のルール絶対遵守の仁義なき戦い――それがこっくりさんである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

指を離してはいけないゲーム 伊崎夢玖 @mkmk_69

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ