恩師?うーん…恩師っていうほどではないけど、好きだったなあって先生はいるよ。




 中学の時の生徒指導の先生だったんだけどさ、多分皆がイメージするような怖い先生とかじゃなくて、そりゃあ怒られるようなことをしたら怖いけど、普段はむしろ話しやすい良い先生だったよ。




 それにすごく優しくて、よく気がつく人というか、私が自分では顔に出してないつもりでも悩んでる素振りがあったりしたら「何かあった?」なんて聞いてくれたりして。友達にも言ってない悩みとか相談してたなあ。




 一番印象深いのは、落とし物とか忘れ物とかあると、いつもその先生が誰よりも早く見つけて拾ってるんだよね。しかもそれをわざわざ教室回って「これ誰か落としてない?」なんて聞きに来たりして。そこまでする?って感じだよね。でもそういうとこが皆に好かれる理由だったな。




 そうそう、落とし物で思い出した。その先生、私たちが卒業する前、2年生の途中ぐらいで転任しちゃったんだけどさ。




 先生が転任する前の、1ヶ月間ぐらいかな?その頃、ちょうど東門の真ん前になる道路に、色んな物がぽつんと落ちてるってことが続いてたの。色んなって…ほんとに色々。私が最初に気づいたのは確か…CDだったかな?うん、CDだったと思う。何のバンドとかはよく分かんなかったけど、こんな道のど真ん中に落としていって気づかなかったのかな?って思ったのを覚えてる。


 それだけなら別によくある、とは言わないまでも別におかしくないけどさ、それからも大体…2、3日おきぐらいだったかな。毎回違うものが落ちてるんだ。落ちてるというか、もうこれ、誰かわざと置いてるんじゃないの?ってなるよね。全部は流石に覚えてないけど…タオルだったり、体温計だったり、ドライバーだったり。1番びっくりしたのは枕が落ちてたことだな。単純に大きかったし。やっぱり誰かここにゴミ捨てていってるんでしょ!って思ったよ。




 まあでも、言ってしまえば物が落ちてるだけで、別に通行の邪魔になるほどではなかったし、私以外の子たちも「また落ちてるね〜」なんて言うぐらいで、特に気にしてなかったんだ。東門って登校時は朝練ある子たちしか使わなかったし、1日経つともう無くなってたしね。


 ただやっぱり、流石先生だよね。学校前の道路って言っても、敷地内から見ると何が落ちてるか…というか、何かが落ちてるかどうかすらなかなか気づけないぐらいの距離なんだけど、「ん、あれ、何だ?なにか落ちてるな」なんて言って、しっかり見つけてんの。




 その時先生が拾ったのは……あれ?なんだったっけな。学生が持っててもおかしくないものだった…とは思うんだよね。多分。じゃないと先生もわざわざ回収しないだろうし。でもなんだったっけなあ。


 そういえばあの時拾ったもの、どうなったんだろ。確かあの時、珍しく落とし主を探してなかった気がするけど。




…あ、うん、そうそう、そういうことが先生の転任のすぐ前にあったから、この話を覚えてたんだよね。先生がいなくなるって聞いたときは寂しかったなあ。先生も全校集会で色々話してくれたんだけど、感極まって頭回ってなかったのか、最後の方に


「皆さんが育った頃にまた会えるのを楽しみにしています。」


 みたいなこと言ってて、育ったってなんだよ、成長したら、とか大きくなったら、じゃないのかよ、みたいに皆泣き笑いになっちゃって。




 懐かしいなあ。また会いたいな。今何してるんだろう?連絡取ってみようかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

何もない。 言ちゃん @happy_life

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る