女子高生探偵 西園寺ノエルの冴えわたる推理!

北 流亡

冴え渡らない

 夜半に、雷鳴が轟いた。

 日暮島に佇む洋館「氷晶館ひしょうかん」のロビーに、全員が集まっていた。


 全員を見渡して、西園寺ノエルはにやりと笑う。

 昨夜起きた、氷晶館当主の原田宏明が殺害された事件。その真相は完全に解明されていた。


「皆さんお集まりいただきありがとうございます。昨夜の殺人事件の真相が全てわかりました。犯人は」

「犯人の原田美恵子でございます。当主原田宏明とは28年前に婚姻し、以来ずっと付き添ってまいりました。犯行に至るきっかけとなったのは35年前に起きた出来事です。原田はもともと私の姉である沙苗と婚姻する予定でございましたが、その約束を反故にして菱村商事の社長令嬢である佳子と婚姻しました。姉は原田と佳子が入籍した翌日に海へ身を投げました。私は姉の無念を晴らすべく、使用人として原田に近づき、まずは佳子を毒殺しました。それから後妻として原田家の一員となった私は屈辱に耐えながらも、原田の言いなりになり、支えてまいりました。奴が人生の絶頂だと思った瞬間に殺害することを心に誓って」


「待ってくれ、美恵子様にはアリバイがあるじゃないか! それに宏明様は1m90cmの巨漢だ。美恵子様の細腕で絞殺出来るはずなんかない!」


 声を上げたのは使用人として長年勤めてきた田村である。

 ノエルは片口を吊り上げて田村を見据える。


「美恵子さんは巧妙なトリッ」

「助手でありノエル先輩の後輩である神居東高校一年生探偵部の東條晴彦です。殺害方法について補足させていただきます。美恵子さんは宏明さんが殺害されたと思われる22時にはロビーにいて皆様と談笑されていましたが、犯行の準備自体は21時には終わっていたはずです。宏明さんの持病の薬に筋弛緩剤を混ぜて動きを封じた後、氷とロープを仕掛けました。氷が溶けると同時にロープが締まり、宏明さんを絞殺するという仕掛けです。あの部屋だけやたらと気温が高かったことは皆様覚えてらっしゃると思います。この方法を用いればどんなに力が無い方でも簡単に殺害することが出来る」


「で、でも、証拠が無いだろ」


「証拠は「美恵子さんは一点だけミスを犯しました。氷の溶けるスピードが思った以上に遅かったことに焦った美恵子さんは、氷を削ることにしました。そのための道具があるはずですが、先程捜索した美恵子さんの部屋からは、一切その手の道具が発見されませんでした。つまり美恵子さんの服を調べれば」


「ありました! アイスピックです!」


 刑事の橘川が美恵子のドレスの内側に縫い付けられていたアイスピックを発見していた。


「探偵さん、完敗です。姉の復讐とは言え私はしてはいけないことをしてしまいました。思えば、前妻の佳子さんを殺してからずっと罪の意識に苛まれてました。あなたに出会えて良かった。これでようやく罪を償える」


「美恵子さん、あな」

「刑事の安城寺です。あなたのした事は人として最低なことです。理由があったとしても到底許されることではない。しかしながら、人生は長い。罪をしっかり償って、これからのあなたの時間を過ごしてください」

「……はい」


 美恵子は安城寺刑事に連れられて館を後にした。


 ノエルはその場に崩れ落ちた。


「私にも……私にも話させてよおおおお……」


 涙が、ヴェルヴェットの絨毯に染み込んでいった。

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女子高生探偵 西園寺ノエルの冴えわたる推理! 北 流亡 @gauge71almi

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