161~170作品の批評

★0 星空が導く海賊船~星の鯨と鴉の旅立ち~


タイトル:星空が導く海賊船~星の鯨と鴉の旅立ち~

キャッチコピー:──これは『昔、昔あるところに』を忘れたために現代に蘇った御伽噺

作者:不思議の国のルイス

URL:https://kakuyomu.jp/works/16818093086797253447


評価:★0


【あらすじ】

レモン色に塗られた海賊船が星に照らされ、空を飛んでいる。船首にいたのは海賊帽子を被ったティ―ンの少女が不敵に笑って、眠れない大人を誘う。


「──よう、新入り。眠れないなら乗ってけよ」


”レモンキャンディをレモンムーンに錨の形に備えれば、夢の世界を旅する空飛ぶ海賊船が現れる”その都市伝説を聞いた元不良の”鴉間真”は”昔の不良仲間”鷹見実””大瑠璃日向”と星空の海賊船で再会を果たす。少女が操る子供達の海賊船”エトワール・コルセール号”に乗り込んだ鴉間真は現実で流行っている体が腐る奇病”人体腐敗症候”が夢の世界に住む”星鯨”の仕業と知る。


──これは『むかし、むかしあるところに』を冒頭につけ忘れたために現代に蘇った御伽噺。

どうかご賞味あれ。



【拝読したストーリーの流れ】

 本作にはエピソードタイトルにナンバリングがありませんでしたが、本批評内では1話目を「第1話」という風に呼称させて頂きます。



 不良集団「八咫烏」の総長をしていた主人公「鴉間真」。

 だがそんな彼も成人した今は、自分勝手な上司と後輩の間で理不尽な量の仕事をこなす社畜と化していた。


 そんな「真」の姿に、かつての仲間の「タカ」こと「鷹見実」、「ルリ」こと「大瑠璃日向」の2人は……そして「真」自身も複雑な想いを抱えていたのだった。


 深夜に帰宅した「真」は、会社の後輩から聞いた「星夢の海賊船の呼び出し方」を子供だましだと思いながらも実行に移してみる。

 だがそれは本当の事で――。


 深夜のアパートに現れた、空飛ぶ海賊船に乗った少女の船長が「真」を船員へと誘うのだった……、といったお話でしょうか。



【タイトル・キャッチコピーの批評】

 タイトルは、まるで「児童向け作品」のような雰囲気を感じますね。メルヘンな雰囲気ですので、好きな人も多いと思います。

 また、「星空」という単語から「海賊船や鯨が空を飛ぶ」というのも何となく予想が出来ますので、作品内容もふんわりと伝わってきますね。



 キャッチコピーですが、こちらも雰囲気だけは何となく伝わってきます。

 「現代が舞台」である事と「御伽噺が主題」である事が分かりますね。



 タイトル・コピーの共に、基本的には悪くないと思います。

 ただ問題点としては「雰囲気しか伝わらない」という事と、「メルヘンや御伽噺に興味の少ない読者は引き込めない」という事でしょうか。

 どちらかは「具体的な作品内容」に言及しても良かったかも知れません。



【キャラクターの批評】

 キャラですが、基本的なデザイン自体は悪くないと思いますし、主人公は見せ方も悪くはありません。

 ですが、主にそれ以外のキャラは雑に扱われているように感じます。


 まず「会社の上司と後輩」ですが、彼らはただ単に「主人公をブラック企業の社員に仕立て上げる為のキャラ」ですね。

 冒頭にしか出てきませんが、完全に「舞台装置」です。


 そして主人公のかつての仲間の「タカ」と「ルリ」ですが、この2人は主人公と同じく海賊船の仲間となるのですが、その経緯が全く分かりません。

 重要なメインキャラだとは思うのですが、経緯や設定が語られないままに物語が進みます。更に第4話で「タカ」は誘拐されるのですが、その場面もロクに説明がない為に「いつの間にか誘拐されていた」という状況です。


 船長の「ロビン」も良く分かりませんね。

 ただこのキャラに関しては「含みを持たせて、あえて謎のキャラとしている」と思いますので、さして問題ではないと思います。


 ただ「ロビン」は主人公の事を「レイブン(鴉)」と名付け、「タカ」を「ホーク(鷹)」と呼びますが、「ルリ」は「ルリ」のままです。

 「ラピス」とかではないんでしょうか?



 主人公を含めて全てのキャラに言える事ですが、設定の掘り下げが雑ですね。

 見せ方にも問題を感じますが、「病床のはずのルリが強い」など設定そのものが雑な部分も多いと感じました。


 あと余談ですが、主人公は「父親の遺伝のおかげで金髪碧眼」という設定ですが、母親が純日本人であった場合、普通は金髪碧眼にはなりませんね。

 創作なので、本当に余談ですが。



【文章・構成の批評】

 文章は非常に読みにくく、理解のしにくい文章です。

 その原因は多数にあるので分けて解説します。


 まずは「誤字が多い」「難読漢字・難しい表現が多い」が挙げられます。

 一般的ではない漢字なども使われ、多くの読者には読めないであろう単語がありながら、誤字も大量にあります。


 次に「表記揺れがある」です。

 ここは作中で登場する奇病「人体腐敗症候」が、途中から「人体腐敗化症候」と変化していますね。また「レモン」も途中から「檸檬」表記に変わっています。


 更に「説明が無いまま物語が進む」のが、本作最大の問題です。

 作中では多くの事柄がこれに当てはまります。

 後で明かされる事も多いのですが、それらは「伏線のタネ明かし」といった表現ではなく「まるで当たり前のように書かれる」といった表現ですので、読者の方が「過去の疑問を思い返して、まるでパズルのピースを当てはめるような作業」が必要となります。


 最後に「明確な場面転換の合図がなく、シームレスに移行する」のも文章においては大問題ですね。

 前の話が終わった事が分からないまま、次の話に自然に移動してしまうので状況把握が非常に困難です。主人公の現在地すらままならないと感じた事も複数回ありました。


 これらの問題のせいで、非常に読みにくく理解のしにくい文章となっております。

 読者に与えるストレスは相当のものです。


 また、第4話・第5話では「空行がない」という問題もありました。

 第3話まではあったので「作風のこだわり」ではなく、作者の手落ちだと思われます。



 構成ですが、まず上記で述べたように「説明が無いまま物語が進む」「明確な場面転換の合図がなく、シームレスに移行する」といった問題がありますので、細かい構成については落第点です。


 では「第5話まで」を見た「全体の構成」を評価しますと、まず問題点として挙げられるのが「1話辺りの文字数が多い」ですね。

 4,393~8,787文字となっておりますので少し多めですね。文章自体にストレスを感じますので、第1話の時点で「もう少し続きを読んでみよう」と思って下さる読者は少ないと思います。


 そして話の流れですが、基本的には王道の流れを汲んでいるとは思いますが……やはり「説明が無いまま物語が進む」というのが問題に感じますね。

 「読者の感じるであろう疑問」をほぼ全て棚上げにして物語が進みますので、「伏線が気になる」より「もういいや」と読む事を諦める読者が多いと思われます。


 「読者に優しくない」というよりは「作者にしか楽しめない」という風に感じてしまいました。



【ストーリー・設定の批評】

 ストーリーですが、こちらは良いと思いますね。

 喩えるなら「大人版のピーターパン」でしょうか。ちゃんと書く事ができれば面白そうです。

 ただ残念ながら、せっかく主人公たちは大人なのに「海賊船に乗ると子供になる」という設定になってしまっております。


 そこ以外としては「人の夢を食べて『人体腐敗症候』を起こす『星鯨セラ』を倒す」という目標があるのは良いと思います。

 主人公の知り合いが「人体腐敗症候」に罹っている(らしい)ので、動機もあります。


 細かい点はともかく、ストーリーの大筋自体は良いと思いますね。



 そして設定ですが、こちらは【キャラクターの批評】【文章・構成の批評】で述べた通り「なかなか明かしてくれない」上に、明確になった設定も「雑」なので擁護できませんね。


 第5話の時点では、これ以上語れる事はありません。



【総評まとめ】

 総評ですが「ストーリーとメルヘンな雰囲気は悪くないが、それ以外は苦痛でしかない作品」ですね。


 私は以前に『110作品を読んだ感想』で、「読者が作品を面白いと感じる為には、前提として『理解』が必要だ」と述べました。

 どんなに素晴らしい作品であっても、「理解」が出来なければ面白くはないと考えています。


 本作は「読者に理解させる努力が足りない」と、そう感じましたね。

 理解の出来ない作品を読むのは苦痛です。

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