★1 盗賊王の奇譚
タイトル:盗賊王の奇譚
キャッチコピー:略奪を愛せ。殺しを慕え。
作者:金網滿
URL:https://kakuyomu.jp/works/16818093082334709914
評価:★1
【あらすじ】
娼婦の腹から生まれた子は、かつて盗賊を生業にしていた男からその伊呂波を教わる。
裏の世界で磨かれた盗賊としての技能は、彼の唯一の生きる術となる。
心の死にゆく無機質な瞳は、やがて表の世界を映し出すようになり、彼の本質を曝け出す舞台が用意されていく。
【拝読したストーリーの流れ】
本作にはプロローグがありましたので、こちらを含めた第四話までを批評対象とさせて頂きます。
貧民街で娼婦の胎から、その命と引き換えに生を受けた主人公。
その場に居合わせた元盗賊に育てられ、四年の時を過ごす。
元盗賊は主人公に盗賊の伊呂波を教え、ある日、自殺した。
それから六年……。
貧民街で盗賊の技を磨き続けた主人公は、表の世界に足を向ける。
そこで目にした冒険者に羨望を抱き、主人公もまた冒険者組合の扉を潜るのだった……、といったお話でしょうか。
【タイトル・キャッチコピーの批評】
タイトルは非常にシンプルですね。
主人公が盗賊である事。その王であるか、これから目指す、あるいは呼ばれる事になる物語だという事が分かります。
ただ、シンプル過ぎてweb小説においてはあまり好まれない印象はありますね。
もう少しインパクトのあるタイトルの方が良いかも知れません。
キャッチコピーですが、こちらはダークな雰囲気がしますね。
その文言から、主人公が「正義」や「愛」などといった善性とは対極にある事が窺えます。
タイトル・コピーの共に、その方向性は真っ直ぐで良いと思います。
ただインパクトが足りず、具体的な作品内容が分からないので、「ダークサイド主人公によるダークファンタジー」というだけでは弱い気がしますね。
もっと目を惹く文言か、作品内容に触れたものにした方が良いのではないかと愚考します。
【キャラクターの批評】
キャラクターですが、第四話までの時点では主人公以外は殆ど出てきません。
そしてその主人公ですが、基本的なキャラクター造形は良いと思います。
貧民街で生まれ育ち、善悪の区別や頓着は無く、盗む事も殺す事も厭わない。非常に分かりやすいキャラですね。
「ダークサイド主人公によるダークファンタジー」である本作にはピッタリの造形で、その設定にも違和感はありません。
ただ、描かれるエピソードの1つ1つを取り上げると違和感を感じる場面が散見されました。
まず主人公はスリの技術を持っており、作中で幾度となく財布をスリます。
しかし「硬貨の価値をあまり理解できていない」という文章があり、お金の存在は知っていても実際に買い物をした事は無いかのような描写がされます。
いったい主人公は今まで、誰から何をスっていたのでしょう?
更に主人公は読み書きが出来ないのですが、「看板にベッドと鍋の絵柄が施されていたので、宿屋だと理解する事が出来た」というのは少し無理がないですかね?
私の勝手な印象ですが「家具屋でもおかしくはない」と思ってしまいましたし、そもそも主人公が「宿屋を知っていた」事にも驚きです。(貧民街にも宿はある?)
また違和感では無いのですが、「主人公が衣服を剥ぎ取る為に、何の罪も無い子供を殺す」というのは良くないと感じましたね。
物語の都合であることは分かりますし、主人公の人格を考えても違和感はありません。作品のダークな雰囲気を出すのにも一役買っています。
しかしそれでも、この行為に嫌悪感を感じる読者はいると思います。(ただ、PVの推移を見てみると影響は無さそうですが)
最後にですが、第三話まで「主人公を含む、全てのキャラに名前が無い」というのは読みづらく感じました。
全て「少年」「壮年」などといった代名詞です。
特に上記の「主人公に殺された子供」が出てきた時は非常に読みづらかったです。
主人公を「少年」、殺された子供は「もう一人の少年」と書かれていました。
第三話で主人公の名前が決まりますが、そのエピソードに大したドラマがある訳でもありませんでしたし、貧民街の生まれでも最初から名前くらいはあっても良いのでは、と考えてしまいました。
【文章・構成の批評】
文章は決して読みにくい訳では無いのですが、少々クセがありますね。
読み手によっては「読みにくい」と感じてしまうかも知れません。
まず、「あまり一般的ではない漢字の多用」が目立ちますね。
「伊呂波」「只管」「掏った」「襤褸」「鎮具破具」「頭垢」などですね。一部にはルビが振ってありましたが、無いものも多いです。
こういった難読漢字には、出来れば全てルビを振った方が良いと思います。
次に、「説明不足のまま話が進む」ように感じました。
話のあちこちで世界観に関わるような描写がされているのですが、詳しい説明はされていないように感じます。
大半はそのままでも読み進める事が出来るのですが、私にはずっと引っ掛かっていた問題がありました。それは「表の世界」と「裏の世界」という言葉です。(この件は【設定】にて後述します)
全体的にですが、「作者の考えた世界観が読者に伝えきれていない」ように感じてしまいましたね。
続いて構成に移りますが、「雰囲気しか見せられていない」と感じます。
第四話までを読んで、私には「この作品がどういう物語なのか」が分かりませんでした。
プロローグで主人公の生い立ちと、「表の世界」に行ったという事が描かれます。
そして第一話からはスリをして、飯を食い、衣服を剥ぎ取り、宿屋で水浴びをして、冒険者になって、薬草採取をした。という流れです。
色々と行動を起こしているように見えますが、本作の1話の文章量は最大で2353文字です。4話分でこれだけの事をしていますので、その1つ1つの中身はスカスカです。
全体的にダークな雰囲気を出していますので、そこの描写には余念がないのですが、物語として見た場合、「読者に何を見せたいのか」が分かりませんでした。
【ストーリー・設定の批評】
ストーリーなんですが……。先ほど申し上げた通り「読者に何を見せたいのか」がわからないので、先の展開が全く読めません。
バトルはあると思いますが、主人公が無双するかどうかすら現時点では不明です。
サブキャラが殆ど出ていませんので、主人公との絡みがどうなるかも不明です。
主人公がこれからどう成長するかも、あるいは成長しないのかも分かりません。
タグには「戦記」「群像劇」「迷宮」とありましたが、現時点ではどのようにこれらに繋がるのかも分かりませんね。
では設定ですが、【文章】で述べた通り、私は「表の世界」と「裏の世界」というものに強い疑問を抱きました。
「裏の世界」とは主人公の暮らしてきた貧民街を指す言葉だと思います。なら「表の世界」は一般市民の暮らす場所の事でしょうか。
恐らくですが、この2つに物理的な距離は殆どありません。「主人公が旅をして辿り着いた」なんて記述はありませんし、貧民街とは「都市部の極貧層が暮らす場所」の事を指す言葉でしょうから。
ですが主人公は「まるで初めてやって来たかの描写で、そのまま宿に泊まろう」とします。
具体的にどのくらい離れているのかは想像でしかありませんが、元々の寝床に帰るという選択肢は無かったんですかね?
更にギルドの受付嬢との会話にも疑問を感じましたので引用します。
――――――――――――――――――
「はい、承りました。そう言う素直さを最初から出して欲しかったです、貴方はまだ子供なんですよ?」
「貧民街じゃそんなものは関係無い」
「貧民街って、はは! ここはヴィーゼル辺境伯領の領都ペルン、言わば
――――――――――――――――――
この文面を見ると、貧民街は領都ペルンとやらには無いんですかね?
それとも「領都ペルンには貧民街は無いという事になっている」んでしょうかね?
何度も「表の世界」「裏の世界」と書かれる為、「2つの世界は別次元にある異世界なのではないか?」などとも考えてしまいました。(たぶん違います)
【総評まとめ】
総評ですが「ダークサイド主人公によるダークファンタジー。だがそれ以外は何も無い作品」ですね。
ダークな雰囲気はよく出ています。主人公も、倫理観が皆無ながらもバックボーンがある為に魅力のあるキャラとなれるポテンシャルはあると思います。
ただ第4話までの時点では「まだ何も物語が動いていない」と、そう感じた作品でしたね。
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