★1 穴があったから入れてみた


タイトル:穴があったから入れてみた

キャッチコピー:穴スキル無双。勇者だって魔王だって穴に落とす。二部はスキル鼻フック

作者:ウツロ

URL:https://kakuyomu.jp/works/16817330649797003859


評価:★1


【あらすじ】

自暴自棄になった底辺魔法使いの少年は、穴に杖を捨てる。

すると穴から女神様がでてきて、こう言うのだ。


「あなたが落としたのは、この金の杖ですか?」

「ちがいます」


「では、この銀の杖ですか?」

「ちがいます」


「では、落としたのは、この木の杖ですね?」

「……ちがいます」


 少年はヒネクレていた。

 ――落としたのではない。捨てたのだ!


「……ひねくれ者のあなたには、この穴を差し上げましょう」


 少年がもらったのは、なんでも呑み込んでしまう魔法の穴。

 勇者だって魔王だって、穴へ吸い込んでいく。


「ケッ、底辺が――」

「てい!」


 少年が手をかざすと、勇者が穴に落ちていった。


「よく来たな、人間ど――」

「てい!」


 エラそうにしていた魔王も穴に落ちていった。


「よくぞ魔王を倒した! 王として礼を言――」

「てい!」


 ついでに王も落としてみる。

 少年の快進撃はとどまることを知らない。

 次は一体なにを落とすのだろうか。



【拝読したストーリーの流れ】

 冒険者になって3年が経っても最低ランクの銅級であった主人公は、日々の生活に限界を感じて「田舎に帰ろうか」などと考えていた。


 だがそんなある日、依頼の帰りの途中に道の真ん中に大きな「穴」が開いていた。

 冒険者を辞めようかと考えていた主人公は、手にした杖を穴の中に投げ捨てた。

 すると穴の中から女神が現れ「あなたが落としたのは、この金の杖ですか?」と問いかけてきたのだ。


 投げ入れたのは「金の杖」でも「銀の杖」でもない。「木の杖」は「落とした」のではなく「捨てた」のだ。

 そんな言い訳を内心でしていると女神は「……ひねくれ者のあなたには、この穴を差し上げましょう」と言って消えてしまった。


 「望んだものを全て穴に入れる」という能力を身に着けたクズ主人公の無双人生が幕を開ける……、といったお話でしょうか。(本作のタグには「クズ」があります)



【タイトル・キャッチコピーの批評】

 タイトルは非常にシンプルで良いですね。

 本作の最重要ワード「穴」を非常に魅力的に、かつ端的に表していますね。

 また、どこか卑猥な言葉に聞こえてしまう所もプラス評価です。(個人的には好ましくはありませんが、「エロ」は非常に強力です)



 続いてキャッチコピーですが、こちらも作品の魅力を表現できていると思います。

 「勇者も魔王も穴に落とす」という事から「主人公の無双っぷり」と「善悪を選ばない」という事が伝わってきます。


 「二部はスキル鼻フック」という文言も、意味不明ながら強力なワードに聞こえますね。

 ここに興味を持った読者は第一部を読み終わった後も「鼻フックが気になるから続きを読んでみよう」となるかも知れません。



【キャラクターの批評】

 キャラなんですが、まず主人公はタグにある通りのクズです。……が、「魅力的なクズキャラ」とは感じられませんでした。


 「共感的なクズキャラ」とでも申しましょうか……。やっている事は「自己保身」を第一に行動していて、その行動には読者の共感を得ようとしている描写にも映ります。ですが、痴漢行為(?)に能力を使っていますので「ただの犯罪者」です。

 何ていうか、やっている事・考えている事が「ちっさい」んですよね。その上で「人間を穴に落として消している」のに罪悪感を欠片も感じていません。


 自己保身に走る姿は、一部の読者からは共感を得られると思います。「都合の悪い事は消してしまいたい」なんて、誰でも1度は考えるでしょうから。

 ですが「人間を消しても何とも思わない姿」に共感や好感を持つ読者は少ないのでは、と考えます。


 その消された人たち、第5話まででは「借金取り」と「勇者」ですが、彼らに消される程の非が無いように感じたのも主人公の好感を下げる原因に思います。

 借金取りたちは確かに主人公に暴力を振るってきましたが、そもそもそれが彼らの仕事ですし、借金を踏み倒そうとしている主人公にも問題があります。

 勇者に至っては、主人公を突き飛ばして見下してきたというだけです。


 借金取りや勇者を「消されても仕方のないクズ」として描かなければ、主人公は「ただのクズ」であり「魅力的なクズ」には成り得ないと思います。

 描写としては「読者に共感を求めている」ように感じたのですが、「ただのクズ」に共感は出来たとしても好感は抱かないのではないでしょうか?



 最後にですが、本作の主人公は(第5話まででは)名前が出てきません。

 「名前が無い」というのは「1つの個性の喪失」でもあると考えられます。すでに十分に個性を放っている主人公ですが、あえて名無しにする理由はあまり無いのではないかと思います。

 もし第6話以降に名前が出てくるというのなら遅すぎますね。



【文章・構成の批評】

 文章は非常に軽く、読みやすかったですね。「これぞライトノベル」といった感じでしょうか。


 一人称で書かれ、長文も無く、句読点や改行・空行も適度に行われています。

 重厚な文学作品を好まれる読者には物足りないでしょうが、それ以外の読者には広く受け入れられる良い文章だと思います。



 構成に移りますが、こちらも良いですね。

 5話中の4話が千数百文字と短く、最も長かった第2話でも2600文字ほどです。

 その中でテンポよく物語が動いて行きますのでストレスを感じる事無く、退屈せずに読み進められますね。


 ただ、次話へのヒキに関しては「まずまず」といった感想でしょうか。

 基本的には次話へと繋がるような終わり方となっているのですが、本作の基本は「無双ものテンプレ」に則ったものですので、次の展開がだいたい予想できてしまいます。


 良い意味で言うと「期待通り」。悪く言うと「意外性が無い」といった所でしょうか。



【ストーリー・設定の批評】

 ストーリーですが、本作は読者の好き嫌いがハッキリと別れそうですね。


 主人公は「女の子の服だけを穴に落として裸にする」という痴漢行為を働いており、「気に入らない相手は穴に落として消してしまう」というキャラです。

 行動原理は「自己保身」と「欲望」が前面に出ています。【あらすじ】によれば、王様も穴に落としてしまうようですね。


 この主人公が無双する物語が、読者に受け入れられるかどうかですね。

 私個人としては無理です。



 設定ですが、物語冒頭のイベントは『イソップ童話』の『金の斧』のオマージュですね。

 知らない人はいないでしょうし、分かりやすくて良い設定だと思います。


 「底辺主人公が成り上がる」というのも、ありふれた設定で読者は入りやすいですね。


 世界観などの設定も、少なくとも第5話までの文面からは対して作り込まれてはおらず、それがむしろ読者にとっては分かりやすいのではないかと感じました。



【総評まとめ】

 それではまとめますが、「主人公が救いようのないクズ過ぎて、読者を選ぶ作品」ですね。


 本作は文章・構成・設定などが非常に読者に優しく、読みやすいものでした。

 ここだけを見れば「ラノベ初心者」にオススメできる良い作品だと思います。


 ですが、あまりにも主人公がクズ過ぎるので初心者にはオススメできません。

 想定できる「読者ターゲット」がズレてしまっているように感じてしまいました。

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