101~110作品の批評

★2 鬼のいぬまに


タイトル:鬼のいぬまに

キャッチコピー:和風ファンタジーにご興味は? 【鬼と人間】希望と絶望の物語

作者:しまうま

URL:https://kakuyomu.jp/works/1177354054888578336


評価:★2


【あらすじ】

とある旅人が訪れた町を二体の鬼が襲う。一人、また一人と化け物の餌となり流れる血と響く悲鳴。

鬼を唯一封じることの出来る封師達が来るまでのあいだ、旅人は町人達を守るべく鬼の前に立ちはだかった。

しかし、彼の秘密が事態を最悪のものにする……。



【拝読したストーリーの流れ】

 本作のジャンルは「歴史・時代・伝奇」です。

 ですが作者のしまうま様より丁寧に要望を頂き、私も快諾いたしましたのでこちらで批評させて頂きます。


 本作は、昔の日本が舞台の「和風ファンタジー」です。

 時代などは書かれていませんでしたが「信濃」や「駿河」などの地名から、明確に日本が舞台なのだと分かります。



 人を喰らう「鬼」が蔓延る時代――。

 主人公「鷹丸」は1人で旅を続けていた。


 「鷹丸」には秘密がある。

 自身が死の淵に瀕した時、黒い鬼「餓鬼」となって全てを殺し尽くしてしまうのだ。

 「鷹丸」には目的がある。

 自身の内に潜む「餓鬼」を封じる事の出来る、強い「煌」を持つ「封師」を探す事だ。


 旅の途中、「鷹丸」は、崖から落ちた牛車を見つける。

 生存者は高貴な着物を纏った、盲目の若い女が1人だけ。彼女を拐かそうと現れた賊に続いて「鬼」までも現れる。


 女を守ろうとした「鷹丸」だったが、「鬼」の一撃で「餓鬼」となってしまう。

 だが女――「晴姫」は強大な「煌」を持ち、「餓鬼」から身を守っていたのだった……、といったお話でしょうか。



【タイトル・キャッチコピーの批評】

 タイトルは良いですね。

 簡素でありながら「鬼」という単語が出る事で、本作の方向性を示しているように感じます。


 ただ、「鬼の居ぬ間に洗濯」ということわざがあり、そちらを連想してしまうと全く別の雰囲気になってしまう事は懸念点ですね。



 続いてキャッチコピーですが、こちらは作品内容の説明ですね。

 「和風ファンタジー」「【鬼と人間】希望と絶望の物語」と書く事で、先ほど述べた勘違いを正す役割があると思います。


 ただ、「キャッチ」という意味では弱く感じてしまいますね。



【キャラクターの批評】

 キャラの設定・役割などは非常に分かりやすくて良いと思います。

 主人公の目的も第1話の時点で分かりやすく表現されており、その動機も読者の共感を得やすいものだと感じました。


 ただ少しキャラの言動に緊迫感というか、臨場感が足りないように感じますね。

 キャラの言動には無駄がなく、「ストーリーの進行を妨げる感情は排除されている」ように感じてしまいました。


 これを特に強く感じたのはヒロインですね。

 牛車が襲われた際にヒロインの両親は死亡しているのですが、それを悲しむ描写が殆どされていません。


 他にも主人公が戦う動機や、「餓鬼」へと変身してしまう事への葛藤なども描写が不足しているように感じました。


 これらのおかげで「キャラに深みが無い」というように感じてしまいましたね。



【文章・構成の批評】

 文章は普通にレベルが高かったですね。

 「和風ファンタジー」は、その時代を表現する為の雰囲気などを重視して読みにくい作品が多いと感じるのですが、本作は非常にライトな雰囲気で読みやすいと感じました。


 ただやはり少し難解な単語などが登場する事もあり、そこは仕方のない事なのかな、とも思います。


 問題点として感じたのは、描写が少し分かりづらく、不足している部分もあると感じた事でしょうか。

 特に戦闘シーンなどの緊迫した演出が顕著なのですが、キャラの動き・周囲の状況などが不明瞭に感じる事がありました。


 こちらはテンポを重視した結果ですかね。

 あまり説明を細かく入れるとテンポが阻害されますので難しい所ですね。


 あとは「ヒロインとの出会い」について、少し無理のある状況だなと感じました。

 作中の時系列に従って説明をしてまいります。


「主人公が、崖から落ちている牛車を見つける」

「近くに寄ると牛はまだ暖かく、矢が刺さっていた」

「牛車の中にはヒロインと、両親の亡骸があった」

「主人公はヒロインに事情を尋ねる」

「そこへ賊たちがやって来る」


 賊たちが来るのが遅すぎると感じませんか? 牛に矢を射かけたのは彼らのハズです。しかも彼らは最初、主人公の存在に気付いてすらいません。(ちなみに賊は10人います)

 かなり不自然な状況だと感じましたね。



 それでは構成に参りますが、こちらは全体的に良いと思いますね。

 非常にテンポが良く、エピソードの終わりも次話へのヒキを意識して作られているのが分かります。


 ただ問題点と感じる所もありまして、まずは第1話だけが約6700文字と少し多いところですね。(他は約2700~4300文字です)

 第1話が長いと、そこで躓いてしまった読者は続きを読んでくれない可能性が懸念されます。個人的にはですが、最初のエピソードは短くした方が良いのではと考えています。


 もう1つ、こちらも個人的な好みが大きいとは思うのですが「テンポが速すぎて駆け足に感じる」という事ですね。

 その為、主人公とヒロインの関係も薄く感じ、ヒロインを助けようとする主人公の動機が弱いと感じてしまいました。



【ストーリー・設定の批評】

 ストーリーの大筋は王道で良いですね。

 「鬼を倒す鬼(主人公)」や、「強大な力を制御できない主人公」といった設定は「鬼〇丸」や「A〇MS」なんかの作品を彷彿とさせますね。


 ただ1つ1つのエピソードまでもが「よくある王道ネタ」を使い回しているように感じ、本作の魅力を下げているように感じます。

 このように感じたのは先程も述べたように「ストーリー進行が駆け足」なのが大きな要因だと思います。


 ストーリー進行が速すぎる為、キャラの深堀が足りず、関係性も薄いままなので、「熱い王道展開」の筈が「取って付けた」ように感じてしまいました。

 特に第5話で、主人公が「餓鬼」の力を使う為に自傷するシーンは唐突に感じましたね。


 同じ展開でも、もっとキャラの描写を深くし、キャラ同士の関係性も深める事で、より「熱い」物語になるのではと愚考します。



 設定ですが、先ほど軽く述べた通り非常に良いと思います。

 主人公が「餓鬼」となる設定以外にも、「煌」というネーミングも格好いいと思いますし、「鬼」の設定も良いですね。


 ただ、「鬼が蔓延る事が一般人にも認知されている世界で、街道(?)に茶屋がある」のは少し違和感を感じました。

 世界設定的に「鬼」がどの程度の頻度で現れるのかは分かりませんが、読者目線ではかなり頻発しております。しかも第1話では町中に堂々と入って来てますからね。


 人里離れた場所で茶屋を開くというのは、自殺行為に見えちゃいますね。


 最後に、出来れば明確な時代を表記した方が良いと思います。

 私自身は「時代もの」に詳しくはありませんが、詳しい読者は時代を表記するだけで世界観を理解してくれると思います。


 まぁ、時代設定に矛盾した事を書けなくなってしまうデメリットもありますがね。



【総評まとめ】

 総評をいたしますが「全体的に良い。だが深掘りが足りない」と感じました。

 キャラや世界観のストーリー・設定・人物像・関係性などの説明は出来ておりますが、あくまで「説明が出来ただけ」に感じます。

 作品に魅力を与える為には、もう一歩踏み込んだ「心理・背景」の描写が必要だと感じますね。



【追記】

 本作は作者さまのご要望により、第7話まで追記いたします。



 第6話、第7話を拝読いたしました。


 まず第6話ですが、こちらは第5話からの続きですね。

 物語最初の強大な敵を倒し、次の舞台へと進む。といった感じでしょうか。


 正直、こちらを読んでも本作への印象は変わりませんでした。

 話が先に進んだが、「深掘りが足りない」という感想ですね。



 ところが第7話で異変が起きました。


 主人公は、第6話で倒した敵には止めを刺さず、命を助ける代わりに「餓鬼」の情報を得るという形で別れたんです。

 第7話では、この「敵」の心理や背景が語られていました。


 1話丸々使っての、「倒した敵の背景描写」です。

 この深掘りのおかげで「敵」の魅力がグッと増し、それ以前の話にも説得力が増してきました。


 私が「本作で一番足りない」と思っていたものが解消されたのです。

 こうなってくると当然、作品への評価も改めざるを得ません。

 ただ現状で見せて貰ったのは「敵の背景描写だけ」であり、より重要な「主人公やヒロインの描写」はまだ見せて貰えていませんので★2とさせて頂きます。

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