★0 こちら、水泳部ですが何か?


タイトル:こちら、水泳部ですが何か?

キャッチコピー:水泳部に来ないかって……私、昔のトラウマで泳げないんですが!?

作者:ほしレモン

URL:https://kakuyomu.jp/works/16818093077151334866


評価:★0


【あらすじ】

私、水森舞は今年で中学1年生に。

親友が学校で話題の水泳部の王子様がいる水泳部に入部したいと言い、私も体験をすることにした。

習っていたけど、あることがきっかけでやめてしまった水泳。

その楽しさを教えてくれたのは、水泳部のみんなだった――。


しっかり者の王子様、明るいムードメーカー部長、そしてやけに冷たい同学年の一匹狼……。


廃部寸前の水泳部員は、全員個性豊かな仲間たち!?


苦手を克服して前に進むために、今日から水泳部、始動しますっ!



【拝読したストーリーの流れ】

 まず皆様にお詫びを申し上げます。

 本来は、渡辺さまの作品『救国の英雄〜メンタルだけなら誰にも負けねぇ〜』を批評させて頂く予定でしたが、ほしレモン様の著作である本作を「第13回角川つばさ文庫小説賞」に出品される予定との事ですので、順番を前後して先に批評させて頂く事にいたしました。


 渡辺さま以下の、批評待ちの作者さま方には大変ご迷惑をおかけしますが、どうかご理解を頂ければ幸いです。


 また本作の作者である ほしレモン様は、以前に批評させて頂いた『あの夏の終わり、夜空の下で 君と見た光を。』の作者でもあります。



 中学校に入学して3週間が過ぎたばかりの主人公「水森舞」には、2年前に起きた海難事故で友達を失った(?)というトラウマがあった。

 その事故が原因で、大好きだった水泳もやめてしまった。


 だけど小学校からの友達の「清原朱里」が「水泳部の王子様」に興味を示して、水泳部の見学に一緒に行こうと誘ってくる。


 最初は乗り気ではなかった「舞」だったが、王子様「河田晴琉」先輩の泳ぎを見て、思わず「やるよ。私、水泳」と宣言したのだった……、といったお話でしょうか。



【タイトル・キャッチコピーの批評】

 まずタイトルなんですが……、これはどういった意図で付けられたのでしょう?

 「水泳部」である事が分かるのは良いのですが、「ですが何か?」という言葉からは「すっとぼけた」印象を感じます。


 こういった会話文のようなタイトルの場合、「誰が、誰に向かって言っているのか」がイメージできる事が重要であると考えます。

 近いタイトルの有名作として『坂〇ですが?』が浮かびますが、このセリフは恐らく「主人公が、他の登場人物たち(もしくは読者)に言っている」のだと思います。

 ですが本作は第5話までの時点で、誰のセリフなのかも不明瞭に感じました。



 続いてキャッチコピーですが、基本的には悪くないと思います。

 「水泳部に誘われる主人公」「だけどトラウマで泳げない」と、作中のストーリーを手短に説明できております。


 ですが実は内容に若干の齟齬がありまして、「誘ったのは同級生の友達であり、敬語のような口調は不自然」だという事と、「入部はむしろ自分から決めている」事、そして「泳げないと言いつつ、泳げる」という矛盾があったという事です。


 タイトルやコピーが作品内容と必ずしも一致しない事はまぁよくありますが、流石に多すぎますね。

 1つ1つの齟齬はわざわざ指摘する程では無いと思いますが、これだけ多いと指摘せざるを得ません。



【キャラクターの批評】

 キャラクターは全体的に個性があって良かったと思います。

 トラウマが原因か、少し引っ込み思案な主人公。明るく天真爛漫な友達。カッコイイ男の先輩に、優しい女の先輩。ぶっきらぼうな男の同級生と、区別もつきやすくて良いですね。

 ただキャラ付けは良いのですが、いくつかキャラの設定に違和感を覚えました。


 まず主人公ですが、「2年前の海難事故がトラウマで泳げない」「だから水泳部にも最初は消極的」という設定です。

 ですが先輩が泳ぐ姿を見たら自分も泳ぎたくなり、「即座に入部」を決めてしまいます。


 その2年の間に、学校でプールの授業は無かったのでしょうか? 現実世界であるなら、某感染症の影響でプールの授業を中止している学校も多いと聞きますが……。この作品の中ではどうなのでしょうね?


 またあまりにあっさりと入部して、泳ぐ事にも躓く事が無かったので「トラウマとは何だったのか?」と思ってしまいました。


 そして「水泳部の王子様」と呼ばれる先輩ですが、そんな風に呼ばれる先輩が所属している水泳部が「新入生を除いて部員が2人しかいない」というのは違和感を覚えますね。


 少なくとも同級生の友達が「王子様」と呼んでいましたし、女の先輩も「王子様って言われてるし?」と言っており、公然の呼び名なのだと思います。

 それだけの人気者がいれば、もっと部員がいそうな気がしますけどね。



【文章・構成の批評】

 基本的には読める文章ではありますが、決して優れてはいませんね。むしろ、拙い寄りです。


 まず場面転換が上手く出来ていませんね。

 これは第1話のシーンが顕著なのですが、朝起きて、顔を洗い、ご飯を食べ、読者への自己紹介、そして制服に着替え、髪を整え、家から出て、教室に着く。

 非常に細かい動作を、僅かな文章で説明されています。

 その結果、1行で説明を終えている場面もあり「今、どこで、何をしているのか」の理解が追い付きません。


 全てを説明するのではなく必要な部分以外は削って、もっとゆっくりと説明した方が良いと思います。


 あとは細かいですが、主人公と友達がお互いを愛称で「まいまい」「あかりん」と呼んでいる事ですね。

 特に「まいまい」の方なのですが、前後の言葉が平仮名だと読みにくく感じました。カタカナに変更するなど、工夫をした方が良いかと思います。



 続いて構成ですが、こちらは全体的に盛り上がりに欠けると感じました。

 話の進行スピードは速いと感じるほどなのですが、物語として大きな事件が起きていません。(第5話のラストで、友達が溺れるという事件はありましたが)


 特に「主人公が入部を決める」「主人公が泳ぐ」というシーンは、本作では重要なシーンとなれる場面だと思います。

 これらが全て「主人公の中だけで自己解決」してしまった為、ドラマが無いと感じてしまいました。



【ストーリー・設定の批評】

 ストーリーなんですが……、その前に本作の「ジャンル」は何なのでしょうか?

 設定では「現代ファンタジー」と登録されていましたが、第5話までの時点ではファンタジー要素はありません。

 「恋愛」か「現代ドラマ」の方が相応しいのでは、と感じましたがジャンルを決定づけるものはありませんでした。

 私の感想としては、今のところは「学園青春もの」ですかね?


 ジャンルの時点で不明瞭な為、「どういった心持ちで読めば良いのか」が分かりませんでした。



 設定ですが、いくつか説明が足りない点と、少し無理のある設定がありますね。


 まずは、主人公たちの通う学校には「温水プール」の設備がありましたが私立中学なのでしょうか?(詳しくは知りませんが、公立には無いですよね?)

 もし私立なら、小学校からの友達が同じ学校にいる事にも多少の説明が必要だと思います。


 また、前述したように「小学校ではプールが無かったのか?」については説明は必要ですね。

 これは重要だと考えましたので、ここでも指摘させて頂きました。


 他にもいくつもありますが、特に目立っていたのは「アイスの自販機」と「レンタル水着」の存在ですね。


 勝手ながらコメントを拝見し、調べてみる事で「アイスの自販機が設置されている学校が実在する」という事は知りましたが、流石にプールサイドには置かないでしょう。漏電しちゃいますよ?

 もしかするとプールの外にあったのかも知れませんが、文脈からはプールサイドにあるように読めてしまいました。


 「レンタル水着」に関しては……。こちらも詳しくは分かりませんが、流石に無いと思います。無い……ですよね?

 「自分の学生時代には学校に貸し出し用の水着があったよ」という方がおられましたら、ご指摘をお願いします。


 最後に、主人公のトラウマとなった事件の被害者(?)の「ナギくん」と、ぶっきらぼうな同級生の「海崎渚」は同一人物ですか?

 2年前なら主人公が気付かないのは不自然ですし、別人なら「思わせぶり」な名前を付けるのは悪手だと思います。

 もし2人が別人なら、それは単に「読者の期待を裏切った」だけになるのではと推測します。



【総評まとめ】

 前作に比べ、本作は格段にキャラが良くなったと感じました。

 ですが「必要な説明が足りない」という問題は変わっていませんね。


 そして何より本作の問題は、「盛り上げるべきエピソードを素通りしてしまった」事だと思います。

 「主人公のトラウマの克服」なんて、どんな物語であったとしてもクローズアップするべき重要なイベントだと思います。これをあっさりと消化してしまうくらいなら「トラウマの設定」なんて、最初から無い方が良いと思います。

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