★2 三途の川で映画でも


タイトル:三途の川で映画でも

キャッチコピー:映画を通して紡がれる二人の話

作者:日上口

URL:https://kakuyomu.jp/works/16818093074462367527


評価:★2


【あらすじ】

「死ぬ前に映画観ない?」


映画フリークの高校二年生神崎慎は映画鑑賞という趣味と、受験という現実の擦り合わせに難儀していた。

ある日の映画館からの帰り道、神崎はクラスメイトの黒江ナナが橋から飛び降りようとする現場に居合わせてしまう。

咄嗟に彼女の手を掴み、彼はついでにそんなことを口走った。


一緒に映画を観るうちに二人はお互いのことを少しずつ理解していく。共通点、意外な内面、夢や目標、そして黒江が飛び降りようとした理由——。

大人でも子どもでもない。社会を知っているようで知らない。必死に自分のアイデンティティを探っている。そんなどこにでもいる二人の高校生の物語。



【拝読したストーリーの流れ】

 本作は批評の依頼時に、作者の日上口さまより「五話まで読んで判断とのことですが拙作の場合かなり中途半端になってしまうので3話まで、もしくは6話までが切りがいいかなと思います」とのお言葉を頂きましたので、ひとまずは第3話までを批評対象とさせて頂き、後日に第6話までを読んで追記させて頂きます。


※作者の日上口さまよりコメントを頂きまして、「諸事情があって大幅に改稿しており、6話はキリの良い話数ではなくなっています」との事でして、「キリの良い所で4話まで」との報告を受けました。

 ですので、追記は第4話までとさせて頂きます。



 高校2年の夏、映画オタクの主人公「神崎慎」が映画館のレイトショー帰りで橋を渡っていると、クラスメイトの女子「黒江ナナ」が飛び降りようとしているのを目撃してしまう。

 咄嗟に手を掴み、自殺を止めた主人公は思わず「死ぬ前に映画観ない?」と言ってしまう。それに対し「黒江」は、ただ一言「……いいよ」と返したのだった……、といったお話でしょうか。



【タイトル・キャッチコピーの批評】

 タイトルは非常に良いですね。

 この手のタイトルは「雰囲気しか伝わらない」ものだったり、「本文を読まなければ意味が伝わらない」ものが多いように感じますが、本作のタイトルは見ただけで興味を惹く作りになっている様に思います。


 「三途の川」と「映画」という、一見何の繋がりも見えないミスマッチさが良いですね。

 「三途の川」は当然「死」を連想させますが、これは読者全員(というか生命全て)に関わる、無関係ではいられないものです。意識せずにはいられませんね。


 また、タイトルが作品内容にも完全に合致しているのも良かったですね。



 次はキャッチコピーですが、こちらは「普通」といった印象に感じました。

 その内容から「恋愛」か「人間ドラマ」が主題だという事は伝わりますが、それだけです。強く読者を惹きつけるパワーやセンスは、このコピーからは感じ取れませんでした。


 コピーを酷評しましたが、これは「タイトルが良く出来ているから相対的に見て」という事になります。決して、悪いコピーという訳ではありません。



【キャラクターの批評】

 キャラですが、主人公の人間性は良く描かれていると思います。

 映画好きが行き過ぎて過去に人付き合いで失敗しており、友達は少ない。将来の夢などは特に無く、惰性で日々を生きている。人並みに善良で、目の前の自殺者を止める程度には善人。色々と考え事はするが、基本的には浅慮。

 などと、地の文が一人称であるのもあって、非常に分かり易く表現されています。


 非常に自己投影のしやすい、まさしく「等身大の高校生」といった主人公ですが、「考え事が多いのに浅慮」という部分は手放しで褒められませんね。

 特に、自殺しようとしていたヒロインを「目が離せない」と言った直後に「飲み物を取りに、ヒロインを部屋に残して席を外す」という行動には疑問を感じました。


 次に、担任教師の言葉にも違和感を覚えます。

 物語冒頭で三者面談があるのですが、そこで主人公の映画趣味に苦言を言われます。そこでは「お前だけだよ、そんなことで一日四時間も潰すのは」とまで言われ、その後も「映画なんて見ずに勉強しろ」と再三言われます。


 恐らく進学校であり、主人公の成績は悪いのだと思われますが、まるで「落ちこぼれは主人公1人だけ」というような物言いには違和感を感じました。

 教師の年齢などは書かれていませんでしたが、数多くいる(いた)であろう生徒たちの中には、他に問題児も大勢いたのではと考えてしまいます。現に、主人公の次に面談をするヒロインに対して「また問題児か」という表情をしたと明言されていました。


 最後にヒロインですが、こちらはよく分かりませんね。

 自殺未遂を主人公に止められた時も慌てるでも暴れるでもなく、素直に主人公の指示に従います。では全てを諦めて諦観しているのかと思えば、どうもそうにも見えません。


 主人公視点で描かれている為に「自殺の動機」などが分からないのは仕方ないのですが、ヒロインが「何を考えているのか」「どういうキャラクター像」なのかが分かりませんでした。



【文章・構成の批評】

 文章は非常にキレイで読み易かったです。

 ただ……、この手の作品にしては「雰囲気作り」が足りないと感じてしまいました。


 それを最も強く感じたのは第1話のラストの会話ですね。引用させて頂きます。

――――――――――――――――――

 頭で考えるよりも先に動いていた自分の手は彼女の右腕を掴み、引き寄せる。サイレンの音はもう聞こえない。

 驚く彼女に向かって咄嗟に浮かんだ言葉を口走った。



「死ぬ前に! えっと、その——映画観ない?」



「……いいよ」

――――――――――――――――――

 ここで第1話が終了します。

 私の個人的な感想なのですが、ヒロインのセリフの前に何か文章が欲しかったですね。

 「驚きに見開くヒロインの目」「高鳴る鼓動」「思わず口に出た言葉への後悔」「走り抜ける車の、ヘッドライトや走行音」など、「間」を感じさせる文章が欲しいと思いました。



 構成に移りますが、物語の流れ自体は良いと思います。それぞれの話のオチには、次に繋がるような作りも出来ていて良いと思います。

 ただ、第3話までは「終始、主人公だけしか描かれていない」と感じてしまいました。その原因は、先ほど書いたように「ヒロインのキャラクター像がつかめない」からですね。


 ヒロインは、主人公との会話も基本的に淡白な返ししかしてきません(1カ所だけ例外はありますが)。自棄になっている風にも見えず、ただ淡々と主人公の会話に応じます。

 これに地の文が一人称であるのもあって、「ヒロインの存在感」が全くありませんでした。2人で会話をしているのに、主人公が1人で喋っている様な感覚でしたね。



【ストーリー・設定の批評】

 ストーリーは良いですね。「自殺未遂のヒロイン」と「それを止めた主人公」の物語ですね。

 本作のジャンルは「恋愛」で登録されていますが「現代ドラマ」でも良さそうな雰囲気は感じます。

 徐々に主人公と親しくなるヒロインと、それを取り巻く周囲の関係性、自殺の動機など、ドラマが生まれそうですよね。



 設定も良いと思います。

 作中には実在の映画名が登場し、元ネタを知っている読者はニヤリとしてしまうかも知れませんね。

 かといって元ネタを知らなければ話が理解できない訳でも無く、あくまで物語のエッセンス程度に収まっているので読者層を狭める事も無いと思います。



【総評まとめ】

 まとめますが、「主人公ばかりで他のキャラが見せれていない」ですね。

 とはいえ、まだ3話ですので本批評での最終評価は4話までを読んでからでしょうか。



【追記】

 本作は【拝読したストーリーの流れ】で書いた通り、第4話までを読んで追記します。



 第4話では「良い所と悪い所が入れ替わった」という風に感じました。



 まず良い所ですが、ヒロインの自殺の動機が僅かながら語られました。

 この事からヒロインの人物像がおぼろげながら見えてきます。


 【キャラクターの批評】で主人公の事を「等身大の高校生」と述べましたが、ヒロインもまた「等身大の高校生」であると感じました。

 「大事なものを母親に台無しにされてしまい、自殺を図る」などは、思春期ならではではないでしょうか。

 相変わらず主人公の視点で物語が語られますので、ヒロインの正確な心情は分かりませんが、その細かな心情の変化などは見せて貰えたように感じます。



 次に悪い所ですが、映画の描写が分かりづらかったですね。

 ヒロインの自殺を思い留まらせる為に、主人公はヒロインと共に映画を見ます。タイトル通りの展開ですね。

 ただ残念ながら、ここでの映画の描写は「その映画を観ていなければ理解が困難」だと感じました。


 【ストーリー・設定の批評】で「元ネタを知らなければ話が理解できない訳でも無く、あくまで物語のエッセンス程度に収まっている」と書きましたが、ここでは「元ネタを知らないと主人公とヒロインの感情の変遷が理解できません」。

 元ネタの(恐らく)印象的なセリフなどが抜き出されているのですが、シチュエーションが分からないのでセリフの意味も正しく理解出来ないと感じました。


 そこそこの文字数を使っていますので、「理解出来ない話」≒「面白くない話」が続く事になってしまいます。

 ここは読者層を狭めていると感じてしまいましたね。



 ただ作者さまの仰る通り、第4話でキリ良く終わっています。

 2024/6/22現在、第38話まで公開されており、未だ連載中ですので「スッキリ終わった」という訳ではありませんが、「一抹の不安を残しながらも、ひとまずの決着はついた」という感じですので、良い所で終わったという感想ですね。

 本作を気に入った読者は続きが気になるであろう、良い締め方だと思います。



 ……実は、勝手ながら第5話も拝読しました。

 序章とも言える第一章が終わり、新章の幕開けとしては良い始まりですね。


 特に良かったのは、主人公の親友である「風間」の存在ですね。

 殆ど主人公だけだった狭い世界が、親友の登場によって一気に世界が広がったように感じました。


 ヒロインの輪郭も少しずつ見え始め、今後にも期待の出来る始まりですね。

 第5話までの内容を踏まえ、評価を★1から★2に改めさせて頂きます。

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