★2 水滸拾遺伝~飛燕の脚 青龍の眼~


タイトル:水滸拾遺伝~飛燕の脚 青龍の眼~

キャッチコピー:秘宗拳開祖「浪子燕青」とつるぺた道士「祝四娘」の中華ファンタジー

作者:天 蒸籠

URL:https://kakuyomu.jp/works/16818023212935889527


評価:★2


【あらすじ】

中国は北宋時代、梁山泊から野に下った少林拳の名手「浪子」燕青は、薊州の山中で偶然少女道士の祝四娘と出会い、彼女の護衛となって魔物祓いの旅に出る。二人はさまざまなトラブルに遭いながら、青州観山寺に巣くう魔物その他、弱きを助け悪しきをくじく旅を続ける。



【拝読したストーリーの流れ】

 まず本作のジャンルは「歴史・時代・伝奇」ですが、作者の天 蒸籠さまより「原典の知識や興味関心のない方が読んだらどんな印象を受けるのか教えていただきたい」との気持ちを頂き、私も承諾いたしましたので「隔離部屋」ではなく、普通に批評させて頂きます。

 と同時に、私は本当に中国の歴史や「水滸伝」の知識はありませんので、批評も間違った事を書いてしまう可能性がある事を予めお詫び申し上げます。(間違っている箇所を見つけられたら、指摘して頂けると助かります)


 また本作のエピソードタイトルでは、文末に(一)(二)という風にナンバリングがされていましたが、本批評内では第1話という風に呼称させて頂きます。



 先ほど書いたように、本作は「水滸伝」を元ネタとした作品です。


 中国・北宋時代……。谷間の街道を歩く主人公がいた。

 主人公は、道の途中に廃寺院へと続く石段を見つけ、休憩をしようと石段を上る。

 しかし、そこには5人の男と1人の子供がいた。


 聞き耳を立てて様子を窺う主人公は、5人の男が盗賊であり、子供は魔物退治に来た「道士」だと知る。

 盗賊たちと子供は対立する事になり、子供が優勢となるが、経験が浅い事からピンチに。助ける為に飛び出した主人公は「小乙しょういつ」と名乗り、盗賊の頭目を倒す。


 盗賊たちを見逃す事にした「小乙しょういつ」だったが、盗賊たちは寺院に棲む魔物「猲狙かっしょ」に食い殺されてしまう。

 元々、魔物退治に来ていた少女「祝四娘しゅくしじょう」が仙術で魔物を討ち倒したのだった……、といったお話でしょうか。



【タイトル・キャッチコピーの批評】

 タイトルですが、「水滸伝」を元にしていると一目で分かる良いタイトルだと思います。元ネタが好きな読者は興味を持ってくれる事でしょう。

 ただ逆に「水滸伝」に興味が無い方は読んでくれないでしょうし、多少の興味があっても知識が無いと尻込みしてしまうかも知れません。


 後半の「飛燕の脚 青龍の眼」については、「水滸伝」に関係があるのでしょうか?

 主人公2人の特徴だという事は読めば分かりますが、「水滸伝」に無関係であった場合、「読まなければ分かりません」。

 タイトルは「本文を読まなくても理解できる」文章にした方が良いと思います。



 次にキャッチコピーですが、主人公2人とジャンルの説明をされてますね。

 まず主人公の名前「浪子燕青」ですが(【拝読したストーリーの流れ】で書いた「小乙しょういつ」は偽名です)、「水滸伝」に同名の登場人物が居るそうですね。元ネタを知っている読者からは「なるほど「燕青」が主人公なのか」と理解をして貰えると思います。

 それ以外では「つるぺた道士」というワードに反応して貰えるかどうか、くらいですね。


 タイトルに比べて、コピーは弱く感じます。

 そもそもタイトルで「水滸伝モチーフ」である事は明白なのですから、わざわざ「中華ファンタジー」と知らせる必要は薄いと思います。



【キャラクターの批評】

 第5話まででは主な名有りのキャラは4名登場するのですが、どのキャラも個性が出ていて非常に良かったです。


 ただ、主人公は盗賊たちに向けて最初は下手に出て、穏便に話し合いで解決しようとするのですが、これは「ムリがあるだろう」と感じましたね。

 盗賊たちと少女は既に戦闘しており、頭目以外の4人は少女の投石で骨折しています。これに割って入り、色々言った後に「あなた方にも、非があるんじゃござんせんか?」という締めくくりで、本当に主人公は解決すると思っていたのでしょうか?

 残念ながら、この時は「主人公はバカ」だと感じてしまいました。



【文章・構成の批評】

 文章は非常に素晴らしいですね。

 読み易く、戦闘も丁寧でありながらリズム感も良く、中華ものらしい表現や漢字も大量に出てきます。難読漢字の多くにはルビが振ってあるのも良いですね。

 ただ、3点ほど問題点がありましたので指摘させて頂きます。


 まず1つ目は、「一部の描写に矛盾を感じる」事がありました。

 具体例として作中の1文を引用させて頂きます。

――――――――――――――――――

 たまらず仰向けに宙に浮いた大朗の手首を捕らえ、背中から落ちた瞬間、腕を巻き込むように背後に捻じあげ、そのままうつ伏せに押さえ込んだ。

――――――――――――――――――

 たった1文で流れるように書かれていますが「背中から落ちた」後に「腕を背中に捻じあげ」の時点で「?」となります。そして「うつ伏せ」って、いつの間に引っ繰り返ったのか分かりません。


 後は、第1話で「子供の後姿を見て、髪が長かったから女だと思った」事にも違和感を感じました。

 古代中国の髪型にも詳しくは無いので間違っているかも知れませんが、この世界観だと男も長髪なのは普通じゃないんでしょうか? 実際、最初の主人公の紹介の際にも「長い髪を団子にして」とありますし。


 次に2つ目ですが、「セリフと地の文の区別がつきにくい箇所がある」ですね。

 セリフと地の文の間に空行が無い箇所が多く、稀に改行も無い場所もあります。

 短文のセリフなら地の文の中に入れる場合もありますが、長文の場合や、2つ以上のセリフがある場合は空行で地の文と分けた方が読み易いと思います。


 最期に3つ目ですが、「誤字脱字が多い」ですね。

 非常に良い文章を書かれているので、こういった点は悪目立ちしてしまいます。

 71話(21万文字超)と、かなり書かれていらっしゃるので大変だとは思いますが、全文チェックをした方が良いと思います。(自分1人でするのが大変ならば、読者に協力を求めるという手もあります)


 また、これも誤字なのかどうなのか自信が無いのですが、少女が自分の名前を自己紹介する際にまず「祝四娘しゅくしじょう」と名乗り、主人公が綽名あだなあざな?)を聞いて「祝小融しゅくしょうゆう」と答えた後に主人公が「小祝融しょうしゅくゆう」と言ってます。

 「祝小融しゅくしょうゆう」と「小祝融しょうしゅくゆう」はどちらが正しいのか、もしくはどちらも正しいのか分かりませんでした。


 古代中国には「あざな」があった事くらいは知ってますが、非常にややこしいですね。

 第5話までの感触では、地の文では「四娘」と呼ばれ、道士の師匠からは「小融」と呼ばれていました。今後、キャラが増えた時に色んな呼び方をされると混乱しそうだと思ってしまいます。



 次に構成ですが、非常に纏まっていて良い構成だと思います。

 5話までの間でも主人公(男)と主人公(少女)の活躍がそれぞれあり、テンポも良く進んでいました。文字数が3000文字前後というのも読み易い量ですね。


 また、先ほど申し上げたように「中国らしい単語」などが出てくるのですが、それらの一部の言葉には意味が説明がされているのも親切で読み易かったです。


 ここでは大きな問題は感じませんでした。



【ストーリー・設定の批評】

 ここについてなんですが……、たぶん原典の「水滸伝」の内容を知っているかどうかで評価が変わると思うんですよね。

 ですので「知らない人間が評価している」という事を踏まえた上で読んで頂く事を望みます。


 まず、本作は三人称で書かれながら基本的には主人公目線で描かれるのですが、主人公である「浪子燕青」は既に何かの目的(?)を終えており、流浪の旅をしている最中のようです。

 そして話の所々に「過去の仲間の名前」が出てきます。


 恐らくは「水滸伝」を知っていれば理解の出来る話なのでしょうが、私には「没羽翦ぼつうせんの兄貴」とか「入雲龍にゅううんりゅうの兄貴」とか言われても分かりませんでした。

 「『水滸伝』を知らない読者」へ本作を読ませるのなら、この辺りへの配慮も必要かもしれません。(分からなければ話が理解出来ない、という作りではありませんでしたが)


 また同様に第5話で「星持ち」という単語が当たり前の様に出てくるのですが、こちらも「水滸伝」を全く知らない読者には意味不明だと思います。(私は一応、「水滸伝は宿星を持つ108人の英雄が出てくる話」だという事だけは知ってます)



 設定についてですが、「よく作り込まれた」というよりは「よく調べられた」と感心しました。

 キャラの名前や、細々とした単語の数々、魔物もそうですし、主人公たちの「拳法」や「術」など、どれも実在のものを元として作られています。

 作者の天 蒸籠さまが元々お好きだったのは間違いないと思いますが、それでも調べるのは大変だったと存じます。


 ただ第5話で「縮地法」という名前の、いわゆる「転移魔法」のような術が登場するのですが、これを主人公(少女)に使わせるのはあまり良くないと思います。

 以前に別の作品の批評で書いた事なのですが、「あまりに気軽に転移できる術を使ってしまうと『それ、縮地法で解決できない?』とか『何で縮地法を使わないの?』という感想を抱いてしまいかねません」。

 「縮地法」を使えるのは師匠だけにした方が良いのでは? と思ってしまいました。



【総評まとめ】

 総評といたしましては「中華ファンタジーの入門書として良い出来だ」と感じました。

 文章が非常に良く、展開もライト層向けに作られています。難解な単語にはルビや解説も挟まれ、非常に優しい作りですね。


 ただ、それでも分かり難い所は分かり難いですし、「中華? 興味ないね」という方を惹き込む程の魅力までは感じませんでした。(ここはジャンルの好みの問題ですので解決するのは不可能に近いですが)


 元々「中華ファンタジー」が好きな方や、「水滸伝」が好きな方が読まれた場合、どのように感じるのかは私には分かりませんが、「中華ファンタジー」に抵抗のない方なら知識が浅くても読める作りになってますね。

 十分、人にオススメできる作品です。

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