★3 贖罪の山羊は運命と踊る


タイトル:贖罪の山羊は運命と踊る

キャッチコピー:彼らは足掻く。運命が人を支配する〝理想郷〟で。

作者:加峰椿

URL:https://kakuyomu.jp/works/16817330650042607252


評価:★3


【あらすじ】

人々の運命を観測し、それに干渉できるようになった国、アプトフォルス。ここでは運命の監視・交換などが日常的に行われていた。


不慮の事故は未然に防がれ、罪を犯す運命の者は『運命犯』として裁かれる。運命を管理することで安寧を獲得した、横死はおろか犯罪すら滅多に起きない理想郷────のはずだった。


監視を逃れる体質を持つ運命犯の警察官。

アプトフォルスのシステムを構築した一族の末裔。

そして、彼らによって暴かれていくユートピアの裏の顔。


これは『運命国家』アプトフォルスに住まう人々の、哀れで愚直で、ちょっとだけ愉快な、祈りと解放の運命奇譚。



【拝読したストーリーの流れ】

 本作のエピソードタイトルは「Up To You/君次第 ①」、「Up To You/君次第 ②」という風に番号だけが違う同名タイトルが並んでおります。

 恐らく、章ごとにタイトルを分けているのだと思われますが、本批評内では分かり難いので「第〇話」という書き方をさせて頂きます。



 「運命」を観測し干渉する事で、あらゆる病・事故・犯罪を抑止することの出来る「『運命国家』アプトフォルス」。

 そんな「アプトフォルス」へとやって来た、「ソフィア」。

 彼女は、己の運命を変える為にこの国へとやって来たのだが……、といったお話でしょうか。



【タイトル・キャッチコピーの批評】

 タイトルは良くないと思いますね。

 本批評内には載せていませんが、あらすじの最後に「タイトルは『贖罪の山羊≪スケープゴート≫は運命≪さだめ≫と踊る』と読みます」とあります。

 システム上、タイトルにルビを振る事は出来ませんが、正しい読み方を別の場所に記載するのは悪手だと思います。


 タイトルのセンス自体は良いと思うのですが、カクヨムのシステムと相性が悪いとしか言いようがありませんね。



 キャッチコピーですが、こちらも良いとは言い難いですね。

 この文章では、作風すら伝わるかどうか怪しいと思います。

 そして読者の興味を惹く「キャッチ」が出来ているとも感じられません。


 タイトル・コピー共に、多くの読者は目にしても本作を読む事は少ないのではないか、と感じました。



【キャラクターの批評】

 メインキャラクターの造形は良いと思います。

 特に「ソフィア」の心理描写は細かく描かれ、その造形も素晴らしいと思いました。


 ただ、サブキャラクターになると少し扱いが雑に感じてしまいました。

 具体的に挙げますと「電車で凶行に及んだ運命犯」と「ソフィアの親」です。


 「運命犯」は動機がよく分かりませんでしたし、「親」もソフィアにドラッグを強要した行為が不自然に映ります。

 ここら辺は、キャラの作り込みが甘いと感じてしまいましたね。



 あと、本作のタグには「男主人公」とありますが、これは誰の事なのでしょう?

 「ソフィア」は名前から分かる通り女性ですし、もう1人のメインキャラとして「カメリア」という人物が登場しますが、こちらも女性です。

 「運命犯」逮捕の時に出てきた「警官」でしょうか?


 第5話まで読んだ時点では、「警官」は主人公的な表現はされていません。

 口調も安定していませんし、名前すら1度出たきりです。

 語り部的な役割の主人公だとしても、違和感を拭えませんでした。



【文章・構成の批評】

 文章は非常にレベルが高いです。全体的に読み易く、理解も難しくはありません。

 ただ詩的というか、情緒的な言い回しが多い為、迂遠でテンポは良くありませんでした。

 ここは好みの差が出ると思いますので、気にする必要は無いと思います。



 続いて構成ですが、こちらも全体的に纏まっているのではないかと思います。

 1話ごとに次話へと繋がるヒキをちゃんと作っており、また適度に「謎」を残す事で「続きを読みたい」という気にさせてくれます。


 ただ本作の設定上、仕方の無い事だとは思いますが、「謎」が多いようには感じます。

 決して「意図的に隠された謎」では無いのですが、特徴的な世界観から「これはどういう事?」「ここはどうなってるの?」といった疑問が続きます。

 これは本当にどうしようもない問題だとは思いますね。


 あとは作中で出てきた「運命犯」の描写が残念に思ってしまいました。

 あらすじを読むと、「運命犯」とは「犯罪を起こす運命にある人物」を指すものだと思われます。

 しかし作中で登場した「運命犯」は、実際に電車の中で暴れ、「ソフィア」にカッターを突き付けて人質にしてしまいます。

 これでは「犯罪を起こす運命にある人物」ではなく「犯罪を起こした人物」ですよね?


 恐らくこの「運命犯」は、「運命犯」として捕まりそうになったから、抵抗して人質に取ったのだと思われます。

 しかし【キャラクターの批評】でも書きましたが、読者には「運命犯」の動機がよく伝わりません。

 ここはもう少し分かり易く、ハッキリと描写した方が良いと思いましたね。



【ストーリー・設定の批評】

 話の流れは非常にゆっくりですので、第5話までの時点ではストーリーに対しての評価は下せませんね。

 恐らく第7話で1つ目のエピソードが完結すると思われるので、そこまで読んでからでしょうか。



 設定に関しては特徴的で素晴らしいですね。

 ただ、「運命」という曖昧で巨大なものを操作できるという世界観は、理解を困難にしているように感じました。


 ともすれば「万能」とも思えるような技術ですが、そうでない事は作中から窺えます。

 では「どこまで操作できるのか」「操作した結果はどのように運命が変わるのか」「それは任意に選ぶ事が出来るのか」などが非常に曖昧に映りました。


 また「アプトフォルス以外の国には無い技術なのか」「無いとしたら何故なのか」「他国から見たアプトフォルスは、どういう立ち位置なのか」なども疑問に感じました。

 「ソフィア」が普通に入国していたのも疑問に感じた要因ですね。


 今後の描写次第ではありますが、この設定を使いこなすのは非常に難しいと思いましたね。



【総評まとめ】

 こちらの作品は【異世界ファンタジー】とありますが、非常に【SF】色が強い作品となっておりました。

 しかし本作は「描写と設定が素晴らしい作品」です。それ以外の項目も、総じてレベルは高いと思います。

 ですので若干「ジャンル違いでは?」とも思いましたが、私は全く不満に思っておりません。


 ただ2点、私は本作に難点があったと感じました。


 1つ目は、「素晴らしい点が突き抜けているが為に、それ以外もそれなりにレベルは高いのに欠点として映ってしまう」という点です。

 「運命犯」の点などを指摘しましたが、その点だけを見ても他作よりも大きく劣っているという程の事は無いと思います。

 ですが本作は良い点が素晴らしすぎるが為に、悪い点が目立ってしまいます。


 2つ目ですが、恐らく作者さま本人も分かっておられると思いますがweb小説向きでは無いという事ですね。

 テーマ・作風・設定。全てが「分かり易い作品を求めるweb読者」とのニーズに合っていません。


 ただ、これらを加味したとしても私は「総合して面白い」と思いましたので★3とさせて頂きました。

(そもそも私は、評価の際には「web小説らしさ」は重視していませんので)



【追記】

 本作は作者様の要望により第7話までを読んで追記します。



 まず主人公の件ですが、スッキリしました。

 第5話までの時点では影の薄かった「不良警官」でしたが、第6話で大きく「ソフィア」と絡み、第7話で大きな謎と共に、その中心にいるのが「カメリア」と不良警官改め「リベル」である事が描かれます。

 これは間違いなく「男主人公」ですね。


 そこまではずっと「ソフィア」が主人公の様な描かれ方をしていましたが、第7話で1つ目のエピソードが終わり、「ソフィア」も退場します。(再登場する可能性もあります)


 話としては非常にキレイに終わり、その過程での「ソフィア」と「リベル」のやり取りは良かったですね。

 「運命」を支配する国に住む「リベル」が、「運命」よりも「意志」を重視する姿は格好良く映りますね。

 僅かなセリフの中で、「リベル」のキャラクターが上手く表現されています。


 そして「握手の意味」の設定も良かったですね。

 恐らくストーリーとは何の関係も無い設定だとは思うのですが、こういった小さな設定を入れる事で「世界観にリアリティを持たせて」くれます。


 そして「カメリア」ですが、初登場時から不思議な雰囲気と謎の多いキャラでしたが、最後に大きな謎が解けると共に、更に多くの謎を生み出しましたね。

 本作のキーキャラクターなのだと思います。


 これらの事を踏まえると、1つ目のエピソードは「これから始まる長い物語の序章」なのだと思います。

 エピソードの締め方もとても良かったと思います。次話へのヒキの強さは、第7話が最も強く感じましたね。


 批評というよりも感想を述べただけで終わってしまいましたが、第6話、第7話には問題点は見当たりませんでしたね。問題があるとすれば第8話は投稿されておらず、先が読めない事くらいでしょうか。(2024/5/1 時点)

 先が読みたくなる、非常に素晴らしい作品でした。

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