人生で一番の【はなさないで】

いととふゆ

はなさないでぇ!!!(泣)

 私が幼稚園か小学校低学年の時の話。

 

 エスカレーターに乗る時は母と手を繋いで乗っていた。手を繋がないと怖くて乗れなかった。

 しかし、母と兄とデパートに行った時のこと。

 くだりのエスカレーターで母は私を置いて一人で乗ってしまったのだ。

 多分、私がいつになっても一人で乗れないので、強硬手段だったと思うが……。

 置いてけぼりの私はどうしよう……! と立ちすくみ、泣き出してしまった。

 兄が上の階に行こうと走っていったのが見えた。

 すると、後ろにいた見知らぬご高齢の女性が手を繋いで一緒に乗ってくれたのだ。

 それでも私は「はなさないでぇ!!!」と泣きわめいていた。

 ……文字にすると笑えてくる。ごめん、幼き日の私。

 おばあちゃんは「大丈夫だよ」とか声をかけてくれていたと思う。

 もう昔々のことなので、下の階にたどり着いた後、ちゃんとお礼を言ったのかとか、母とその方のやりとりとかは記憶にない。

 くだりではなくのぼりだったかもしれないし、手を繋いだのではなく、背中を支えてくれたのかもしれないし、「はなさないでぇ!!!」ではなく、「行かないでぇ!!!」と言ったのかもしれない。

 そんな曖昧な記憶だが、おばあちゃんに助けてもらったことは確かだ。

 いまだにエスカレーターを前にすると、この出来事を思い出す時がある。

 優しいおばあさま、本当にありがとうございました。まだ、ご健在でいらっしゃるでしょうか。

 

 今でも少しエスカレーターが苦手だ。

 足を踏み出すタイミングとか、上がるにつれて体が後ろに倒れそうになる感覚とか。

 手すりに捕まればいいのだが、コロナ以降、公共の物には極力触りたくなくなってしまった。

 逆に降りる時は、足を踏み出す時が怖くて、乗れてしまえば怖くない。

 同じような感覚を持つ方はいらっしゃるだろうか。

 

 自転車に補助輪なしで乗れるようになったのは小学一年生。サンタがいないと知ったのは小学三年生。

 さて、一人でエスカレーターを昇り降りできるようになったのは小学何年生の時だったのだろうか。

(完)

 

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