雪の想い出

 雪が降った、景色を眺めていて急に想い出した事がある。


前の職場事務所に私の友人Nが遊びに来ていて話し込んでしまい帰りが遅くなった。


「それじゃあ今から焼き鳥丼でも食いに行くか」


今は閉店してなくなってしまったが昔、朝までやっている馴染みの焼き鳥屋があった。


確か深夜1時頃だった。

雪が、どさっと降った日。

外に出て車のエンジンをかけ、積もった雪を払い車が暖まるまで一旦、事務所に戻ろうとしたら

二軒先の更地のところに女の人がコチラを見て立っていた。


髪の毛が肩のあたりまで伸びている。


直立の姿勢で、だらりと両腕は下がっている、中年の人のようだ。

今思えば暗さで見えるわけがないのだけど

雪灯ゆきあかりのせいなのか服装も見えた。


 その人は雪の降る深夜に半袖でペラペラのスカートをはいていて、それがユラユラと風になびいている・・・


『え?めちゃくちゃ冷え込んでるのに、あの人、寒くないのか?』


そう思って見ていたら、その人の右側、4メートル程離れたところにも

もう一人、中年の女性が立っている。


真冬の冷え込んだ野外なのに、その人の服装も、まるで夏日の軽装に見え寒さに耐えれるものでは無い。

雪も降っているし車の窓もガリガリに凍っている。


二人は道路を左右、挟む感じで立っていた。


 その場所は暗い感じの古いアパートが建っていたのだが、二、三日前に取り壊されて綺麗に更地になった場所だった。


 二人は、無表情な感じで立ち尽くしピクリとも動かない。

けどこちらを向いて、じっと見てくる。


 なんだか気味が悪い。


『揉め事か何かで家でも追い出されたか?あんまりジロジロ見ないほうがいいかな?

ま、車でも待っているんだろう・・・』


気がつかないふりをして事務所に一旦戻った。


やがて10分程経過し外に出ると雪の降る中、なんと彼女たちは同じ姿勢のまま、まだ立っていた。


友人と暖まってきた車に乗り込み

「おい、あそこの女の人、見えるか」

「え?・・・あーー見えます」

「さっきから、ずっと立ってんだよ半袖で、向かい側にも、もう一人いるの見えるか?」

「あー居ますね、こんな夜中に何してんすかね・・・」


一旦、車を出したが、私はスグ思い直し何か困っているのか

その女の人達に話しかけてみようとUターンした。


その間、約10秒。


「あれ?いない・・・おい、居ないぞ、そのへんに居ないか?」

「あれぇー居ないですねぇ」

先ほどまで二人の女の人がいる場所に車を停めて窓をあけた。


「おい、あの人たちの足跡あるか?」

地面には雪が積もっていたので足跡くらいは残っているはずだったが・・・


「先輩、足跡ないですよ」

「うーん、こっちにもないわ・・・」


深夜、雪の降る中にいた彼女たちは痕跡も残さず消えていた。


後日、仲間数人と、その話題になった。

「それ幽霊、見たんじゃないのぉ」

みんな笑っている。

「そうなのかな・・・なんだったのかな・・・」


そんな事も忘れ、職場も変わり10年は経過した、ある日。


まったく関係のない人と、その時の話をしたところ、

その人はバキュームカーの仕事をしていて

その場所にあったアパートの事を憶えていた。


「あそこ、変な人住んでて猫の死骸たくさん出てきて

警察呼ばれて逮捕されてた女の人いたんだよ、そのあと間もなくアパート解体されて・・・」

と聞かされた。


昔の記憶がよみがえり、いろいろな想像があふれ出す。


「住んでた人は、どうなったのかな?」

「そこまでは知らないなあー」


私は、どっちにしても深く知らなくて良い事のように思っている。


なぜなら、あの女の人の顔を、まだハッキリ憶えているから・・・


いつか私の所に来るかも知れない・・・

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雪の想い出 (一話完結) 尾駮アスマ @asumao888

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