1. 再会
落ち着いてから、智夏たちは近くの公園に向かった。
「なんで悠真がここにいるの⁉入院してたんじゃないの?」
「入院はすぐ終わるって言っただろ。病気は治ったから隊員だって言われて、北海道に戻ろうとしたら父ちゃんの転勤が決まってこっち来た。智夏は?」
「私は修学旅行。帽子落ちて拾ってくれた人が悠真っておかしくない?」
「いや、おかしくないし。そもそも北海道にいたくせに、なんで近畿いるんだよ?修学旅行でこんなにも遠いとこには来ないだろ」
「お父さんが転勤してさ。急にこっちに来て一年だから、方言なんて分っかんない。それにしても、悠真おっきくなったねー!私抜かされてるじゃん」
「そりゃそうだろ、あの頃から7年経ってるんだし」
「もう7年前かー・・・」
「ねえ!」
智夏が声を上げて、ゆう間に初めて声をかけたのは、年長の最初の春だった。
智夏の母親と父親が、バスケで全国でも有数の能力者だったため、智夏も好きでバスケをしていた。
「ぼうし、おちてたよ」
「あ・・・ありがとう」
悠真の顔と声、性格を気に入った智夏は、
「こっちきて!」
と悠真を病院の屋上へと誘った。
「ねぇ、おなまえ、なんていうの?」
ベンチに座った智夏は、足をブラブラさせながら言った。
「なるせゆうま」
「ゆうま!・・・いいおなまえ!ちなつ、まつざきちなつっていうの。ゆうま、よろしくね!」
「うん。ちなつっていうのも、いいなまえだね。・・・ちなつ!」
「うん!ゆうま!」
出会いだって、帽子が彩ってくれた。
そうして遊ぶうちに、二人はどんどん仲良くなっていった。
「ゆう、ま・・・」
「ちなつ・・・」
それは、突然宣告されたことだった。
智夏は骨折、悠真は小児脳腫瘍で入院していた。
そのため、悠真は小学2年生にもかかわらず、東京の大きな病院で手術することとなった。
年長の頃から仲良く遊んでいた智夏と悠真は、突然の別れを惜しんだ。
電車での別れ、それはもう大変だった。
智夏は車椅子の上で、悠真は親に電車に押し込まれて、引き離されるような別れを目の当たりにして、2人は泣きじゃくった。
最終的には悠真が電車を降りようとしたタイミングで発車のベルが鳴り、またもや親に押し込まれた。
そこからの2人の生活は暗かった。智夏は大好きなミニバスを続けようとしたが、骨折の影響でミニバスどころか走ることさえ禁止されてしまった。
悠真も、勝手にさせられた手術で、腫瘍は一旦治ったものの、北海道に戻ろうとすると、悠真の父、雄吾の転勤で、母の真奈と3人で引っ越しをした。その行き先が近畿だった。
それから3人は、北海道に帰ることは一切なかったが、こうして今、2人は再会したのだった。
智夏と悠真が思い出話をしていると、奥から2つの人影が近づいていた。
「悠真?その子誰?」
「探し回ったよ。何でこんなとこにいるの」
智夏は驚いた。こっちに悠真のことを知っている人がいるということに。
「まだ悠真、けん・・・」
「それ以上口に出すな!」
突然悠真は大声を出したし、智夏にとっては何の話か分からなかったからだ。
重い空気を切り裂いたのは、髪がボブの人だった。
「で、悠真、その子誰?」
髪がボブの人が言った。
「あ・・・」
智夏は自己紹介しようとしたが、悠真の声によって遮られた。
「北海道にいた頃の友達の、松崎智夏。智夏、こっちに来てから友達の、大沢雫と釘宮冴架。じゃあ、予定あるからまたな」
紹介を終えてすぐに、悠真はベンチから立ち上がった。これ以上ここに居ると、冴架や雫に余計なことを言われそうで焦った。定期検査があるんだから、すぐに戻らなきゃいけないのに、お互いのこと紹介しなくても良かったかもな、と頭の奥では冷静に考えていた。
「えっ、もう行っちゃうの・・・?」
「ああ。・・・またな」
悠真はもう一度念を込めていった。もう会わない人へ。
またなっていつ・・・?
悠真の考えてることなんか分かりもしない智夏は、『またな』の言葉の意味がわからなかった。
その瞬間、夕立が降り始めた。
智夏は、医者に走るなと言われたことも忘れて全速力で追いかけたが、足の速い3人には追いつけなかった。
雫と冴架が何かを叫びながら悠真を追いかけていたが、夕立のせいで、智夏には何も聞こえなかった。
帽子が彩る恋の色。 こよい はるか @attihotti
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