イイダンジョンナノで、はなさないでクダサイ

るるあ

ワタシ、ワルイダンジョンジャナイヨー


 俺は、宮田賢治。

 ……ええ、名前は両親の趣味で、赤ん坊の頃から俺には賢治イズムが叩き込まれていますが、何か問題でも?

 まぁ、自己紹介のいいネタになるし覚えて貰いやすい点でも、いい名前だなと気に入っている。


 俺はこの村の市役所に務めつつ、雨にも負けず風にも負けず青年消防団で下っ端を頑張っている。年功序列の世界では、若造は30を過ぎても洟垂れ小僧扱い。何でもやらされ…いや、勉強させてもらっている。


 今日は、最近音信不通な叔父から、所有する裏山に見て貰いたい物があると連絡があり来てみたのだか……。


「おーい!叔父さーん?

 呼び出しといてどこ行ったんだ?相変わらず自由人だな……。」


 勝手知ったる叔父の山。小さい頃よく秘密基地を作ったり、注文の多い料理店ごっこ(マジで山猫出てきて叔父と懲らしめたなぁ…)で遊んだ場所には、ぽっかりと入口…奥に続く穴が空いている。


 目を向けると、謎の透明な板?が発生。

 そして、謎の注意書き。


 「えー…と、


  ぷるぷる

  ワタシはイイダンジョンダヨー

  だから

  ワタシがここにあることを

  ダレにもはなさないでクダサイネ!


  …は?」


 これはどうやら、最近噂の“ダンジョン”と言う物らしかった。



 ★


 ダンジョンと言われるものが各地で発生するようになって、早☓☓年。

 何故そんなファンタジーな事が現実となったかというと、異世界?に拉致された人達が、捕虜?を連れ帰って来たからだ。


 世界中で「異世界から帰ってきた!」なんて言う人がネットやメディアで騒がれ、まさかそれが本当だなんて誰が信じただろう?

 いや、多分、賢明な人はそんな事態に襲われ、当事者になっても、黙って暮らしていたのではないだろうか?また、そういう物語を世に出す事で、受け入れる側の思想形成を期待していたのか。


 まぁ、ともかく。

 ある時期、いわゆる“1クラス全員”とか“大型バス丸々一台”とか、果ては“大手会社のビルごと”の転移―という名の拉致が立て続けに行われた。

 

 運が良いのか悪いのか、日本においてはその対象者は皆、自衛隊関連の物で。しかも転移先むこうでかなりオレツエー(俺達ツエー?)をやってきたらしく、捕虜?の魔法使い的な老人を何人か俵抱きにして持ち帰り、全員が帰ってきた。それはもう派手に、地面を魔法陣?のようなもので光らせ、皇居宮殿東庭―いわゆる、一般参賀で使われるあの広場に。

 光の柱が立って、しばらく周囲を騒然とさせたその光景はネットやメディアで何度も流れた。大バスり、ってやつか?教科書にも載ったらしい。

 メディアで何度も流され、嫌でも目にしたが、あれは何度見ても凄かった。現実味の無さに今でも、なんの特撮だ?としか感想が出ない。


 それからは、国が異世界?から亡命した?捕虜として連れてきた?方々との技術交流を行い、地球にもあるらしい魔法的な力の素、魔力素を科学技術と統合し、エネルギー問題を解消しつつあるのだか…

 その魔力素?の活性化で、突然地面が隆起して迷路のようになり、土中の虫や動植物等が凶悪化したり、はたまた中には何かの結晶が生まれたり、何やら常識とはかけ離れた、ファンタジーな現象が生まれるようになってしまった。

 そう、この目の前の、“ダンジョン”と呼ばれる不思議空間、爆誕である。



★★★



 「あー……。どうするよコレ?」


 この“ダンジョン”は、未知のもので危険性が高い為、発見次第、最寄りの警察や消防署等公的機関に届出が必要になる。一応、届出に際して謝礼金やお見舞金が出る。

 しかし、場合によっては問答無用で国に買い上げられたり、各種メディアからの取材やYouTuberの餌食になり、引っ越す羽目になる例も沢山見て取れる。

 非常に面倒くさい物だという事だ。

 俺を呼んだのって、コレを行政関係のいざこざに巻き込まれないように上手く隠蔽処理しといて!という、丸投げの為だな……?


 ファンタジーな透明画面の注意書きを見ながら悩んでいると、それは突然消失して、穴の奥から足音?

 なにか近づいてくる!?

 慌てて消防団支給品の警棒(ダンジョン対応で携帯が義務化された、ファンタジーな技術で出来てるらしいもの)を構えるが

 …あれは、もしかして?


 「おっ、ケン坊!遅いぞ〜。中の探検終わっちまったじゃねーか〜。」

 でも、あの料理店で倒したラスボス山猫と比べたら、歯応え無かったぜ〜なんて言いながら走り出て来たのは…

 消防団のツナギをドロドロに汚し、右肩に麻袋を担ぎ、左肩に黄色?金色?のネズミ的な小動物を写した画面?を従えた、叔父さんだった。


 「ちょ、叔父さ!?肩の何?!……えっ、勝手に一人で入って…!?大丈夫なんですか?!」


 情報が多い!!


 ……えーと、叔父さん、腰が痛いからや〜めた!なんて明らかに嘘言って、先日消防団辞めてからしばらく音信不通でしたよね?コレの為か!?

 確かにあなた、異世界帰りだとか噂があるくらい超人的な身体能力だけど、無謀すぎる!


 「いや〜、ダンジョンだなんて厨二心をくすぐるモノ、見逃せないっ!」

 キリッ!じゃねーよ叔父さん!

 あと肩のやつ、《ピ○チュッ!》とか文字表記すんな!


 「ダメじゃないですか!!貴方もう消防団ID返納したんでしょ!?」

 IDは、ダンジョン確認許可証でもあり、いざという時の為に発信機的な物が仕込まれてる。ダンジョンで万が一遭難したらどうやって探したらいいんだよ!

 

 「無問題もーまんたい!まだ手続きしてないんだ〜♪忘れてたとも言う〜♬」


 「あのねぇ……それ連帯責任で俺が怒られるやつ……」

 確信犯でしょそれ。何で60過ぎてもこんなヤンチャなんだよ叔父さん……。


 「ところでさー、中でこんなの貰っちゃった!」

 《ピ%ガ*#%@ッ!:?;¢¿€§※!》

 おもむろに肩の小動物画面に手を突っ込む叔父さん。と、それは光の粒と共に離散した。

 そしてニコニコで俺に見せた手のひらには、鈍い金色に光る、拳骨大の鉱石…?

 これ…もしかして……ダンジョンコア?!


 「変なのを道すがらボッコボコにして走ってったら行き止まりが派手な壁でさ〜。そこ一面にこのキラキラがあって、なんか色々うるせーことくっちゃべって透明画面が出まくってウザいから、とりあえず黙るまで叩き割った。そしたらこれ持っていけって!」

 でも秒で無くす自信があるから、適当に、不自然じゃない感じで肩の辺に居ればって言ったらこうなったぜ!

 そう言って肩にコアを置いたら、ネズミ画面が出現した。

 《$#@&……○§€カチュ〜。》


 いやーあの緩い攻略でこれなら儲かったなーって貴方……

 「叔父さん?これ、アレですよね……?」

 ダンジョンコアを受け取ったという事は……?


 「おう!ダンジョンコアゲットで、俺も今日からダンジョンマスターだせ!」

 《○ッ○カチュ!》

 満面の笑みでVサイン!じゃないわ!!!

 あとそこの画面!!アウトだからな!!


 あーもー……。

 コレの後処理するの、σ(゚∀゚ )オレ?


「サトシ叔父さん……勘弁してくださいよぉ〜………。」


 「大丈夫だケン坊!お前も、副マスターとして登録しといたからなっ☆」

 ウインク☆じゃねーよーーー!!!


 《ニャッ!》

 そして俺の肩に、黄色い山猫、と。

 

 …もういいです。解りました。

 本気出します。


 とりあえず……

 消防団員の、叔父さん至上主義あたりを抱き込んで根回しと〜……。

 役場の、サトシ叔父さんのマブダチ役員に話を持ってって〜……。

 あっ、注文の多い料理店討伐メンバーも引き込むか。あいつら、狩人コミュニティで幅をきかせてるらしいから隠蔽に一枚噛んでもらお。


 くっそー、ちょっとワクワクしちゃってる自分がなんか恥ずかしすぎるけど、負けるもんか!


 ……とりあえず肩の猫さん、普段は消えてろください!!!




 あ、そうだ一応聞いておこう。

 「ところで、入口の“イイダンジョンだからはなさないで”とか言うあの画面は…」


 「いいだろアレ!人の良心に訴えて、か弱いダンジョンだから見逃して貰っちゃおう大作戦だ!」


 「……」


 即、消してもらった。

 ……聞くんじゃなかった。



 


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