映画『わたしを離さないで(原題: Never Let Me Go)』について

笹 慎

※本記事は映画のネタバレが若干含まれております

『わたしを離さないで』

2010年公開(製作イギリス、アメリカ)

監督 マーク・ロマネク

脚本 アレックス・ガーランド

原作 カズオ・イシグロ



<あらすじ>

 第二次世界大戦後、とある医療技術の確立によって不治の病はなくなったIFの世界。


 人里離れた自然の中にある寄宿学校ヘールシャム。そこで主人公達は友情と恋心を絡ませ合いながら成長していく。

 しかし、このヘールシャムは万能医療技術に必要な臓器を得るために成長後は解体されることが決まっているクローン人間達のための学校であった。

 彼らクローン人間達は臓器提供が始まるまでの定められた短い時を懸命に「人」として生きる。



<感想>

 この映画は、非常にヨーロッパ的でペシミスティック(悲壮的)な作品である。

 なぜならば、この物語の登場人物達は誰もこの状況から逃げ出さず、粛々と臓器を提供し死んでいくからだ。


 日本人的なエンタメにおける感性からすると「なぜ、この非情なる世界から逃げ出さないのか。立ち向かわないのか」がまず最初に来るであろう。


 事実2016年には週刊少年ジャンプで「家畜」となる背景は異なるものの、ほぼ同じ設定の寄宿学校から子供達が脱出する漫画『約束のネバーランド』が連載開始されて、人気を博している。


 このように、本作はそのセンセーショナルな設定に対して、少々その使い方がもったいなと感じてしまう人が多いだろう。


 だが、結局のところ、この作品の趣旨はそう言ったエンタメ的な面白さにはなく、現実の世界でも「搾取側(レシピエント・支配階級)」と「搾取される側(ドナー・労働者)」という構造で社会は成立している面があり、大多数のドナー側は得てして許された範囲の幸せを謳歌しているものである。


 とはいえ、エンタメ的なキャッチーな設定で関心を引きつつも、最終的にその要素に求められるべき苦境の打開ではなく、何も救いもない純文学的な「エモさ」に終着するのは、いささか悲観的すぎるというものだ。







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映画『わたしを離さないで(原題: Never Let Me Go)』について 笹 慎 @sasa_makoto_2022

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