第10話
銀色の狼は、マリアが来るのが分かっていたかのようにマリアの足元で静かに座っている。
静か、なはずなのに元気はつらつ!が伝わってくるキリリとした大きな鋭い目と大きな牙を納める口もとは口角が弛まぬように強くて閉じられていた。
ルシルはマリアの後ろに隠れながら、狼の様子を見ていたが肩に乗っていたオーちゃんがふよふよと狼に近寄っていく。
「相変わらずこいつは元気だなあ」
オーちゃんの言葉に、ぐっと耐えていた狼はオーちゃんにじゃれつき始めてしまった。
『オーちゃんと仲良しさん?』
マリアにくっつきつつ、横から顔を出して声をかける。
「ルシル、この子は私の友達だよ。オーちゃんとも友達だ。ルシルともきっと友達になってくれるよ」
ルシルに気づいた狼は、ルシルを怯えさせないように顔を向け、少し体勢を低くした。
まだ5歳のルシルと背の高さは同じぐらいの大きな狼なため、背を低くして警戒心を解こうとしていた。
『初めまして、ルシルです』
ルシルがそう言うと優しい声を出した狼はルシルの顔を舐めた。
『くすぐったいよ〜』
フワフワの銀色の毛を撫でながら答えたルシルに狼は嬉しそうにルシルの顔を舐める。
「この子にも気に入られたんだね」
『あの、大お祖母様この子の名前はなあに?』
「名前…そうか、普通は名前を付けるものよね。この子に名前はないんだ。名付けはルシル、してあげてくれるかい?」
『お名前ないの?ルシル考えたい!!』
うーん、うーんと唸っているルシルに対して、マリアは呟く。
「名付けの発想はなかったなあ。これも私とあの子の差なのかもしれないね」
「名付けはあいつらが望んだ時にしか、マスターは付けられないし、発想すら頭に浮かんでこない。まあ俺らのほとんどはマスターの身体が心配で名付けは全力で止めるし。…ルシルはまだ正式じゃないマスターだけどよ、名付けはできるだろ。…余裕なはず、だよな!!」
オーちゃんの声を遮るようにルシルが声を上げた。
『大お祖母様!きめたよー!きいて!オーちゃんも!』
「あらあらもう決めたのかい。それをこの子に伝えてあげておくれ」
頷き、狼の頬に両手をあてる。
ルシルは口を開いた途端、自然に言葉が紡がれていく。
『貴方に名前を授けます、【ルーク】!』
名前をつけた途端、ルシルのつけている指輪から光が溢れ【ルーク】の周りに光が溢れた。
光が落ち着くと、ルークがルシルの顔を舐めた。
「すごいわね、まだ安定してないと思っていたのだけど…こんな所を見れるだなんて…」
「ルシル、なんでルークって付けたんだ?」
『えっとね、ルークの綺麗な銀色の毛が陽の光も月の光でもキラキラと光ると思ったの。だから、光をもたらす意味にしたいと思ったの』
「なるほどね、ほー。そこからその名をねえ。おや、そろそろ戻りましょうか」
マリアが右の指でパチンと鳴らすと、ルークの姿がカードに変化しルシルの手元に収まった。
『!!』
驚きを隠せないルシルの顔は子供らしいものだった。
フォーチュンマスター 涼波音 @hanonn1002
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