第9話

「その指輪はこのベンティンク家に代々伝わるもの。この国を守るためのね」

『国を守る?この指輪は国を守っているの?』

「そうさ、おとぎ話に出てきた指輪のこと覚えているかい?」

『もちろん、知ってるわ』

「これは、その指輪…なもの。そして、これはベンティンクに生まれる娘にのみ継承されるものなんだよ」

『大お祖母様、ちょっと難しいかもです…』

うーん、と唸るマリアにオーちゃんが口を開いた。


「ルシル、その指輪はな。姫様ががんばったことを現している。そして、お前がこれから俺と相棒だぞーっていう印なんだよ。ベンティンク家と俺らが選んで持っててもらう。そしてこの国を守るためにお前が選ばれたんだ。指輪の意思で」

『指輪さんが私を選んだ?』

頷くオーちゃんに続けてマリアが話す。

「ルシル、その指輪があんたを選んだんだ。今は私が正式な指輪の所持者となっているけれど、いずれは正式にルシルに跡を継いでもらいたいんだ」

うーん、と首を傾げつつ頷くルシルにマリアはまあ当然か、子供には早すぎることかもしれないな、とつぶやいた。

すくっ静かに姿勢良く整えると低い声で話し始めた。

「見せた方が早い、やって見せよう」

そう言い、立ち上がると左手でルシルの手を取り、椅子から立たせ、指を軽くパチと鳴らした。

すると、瞬時にそこにあったはずのテーブルと椅子、ましてや絨毯が消えその床には魔法陣が浮かび上がった。

「これは私の陣だよ」

首を傾けるルシルの手を取り、陣の東側立たせ、ここに立っているんだよと声をかけた。

マリアはルシルの目の前、陣の中心でステンドグラスに向かい合う形で跪いた。

少し深呼吸をすると右手にキスを落とした。

ぱあっと部屋中に光が散りばめられた。

夕日が入り込む室内が、あっという間に光で満ち溢れた。

ルシルのロングスカートが軽く波打ち、足元から風が舞い上がる。

風は冷たくも温かくもないのに、光のせいか温もりをわずかに感じさせたのか、ルシルの口からあったかいと声が漏れた。

その光景に、オーちゃんの左の口角がわずかに上がった。

マリアが立ち上がり指をパチンと鳴らすとドアが目の前に浮かび上がり、もう一度指をパチンと鳴らすと20枚もののカードがクルクルと目の前で回っている。

「ルシル、さあ。…よく見ておくんだ」

そう言葉にし、ウインクするマリアは目の前のカードを1枚とるとドアの色が変わった。

足元からはもうすでにかぜは舞い上がっておらず、反対に上から光が蛍火のように落ちてくる。


「さあ、こっちへおいで」

手を差し伸べるマリアに、恐る恐るも足元に迷いなく中心へ向かう。伸ばされたマリアの温かい左手にルシルは右手を乗せた、マリアはニッコリと笑っている。


『ドアどうして急に出たの?魔法?』

「やっと質問が出たね。でもいい質問だ、これは魔法だけど魔法じゃないんだよ。私とルシルだけが使えるもんだよ」

くっくっくっと、喉からの笑いをこぼしながら右手でルシルの頬を撫でた。

ぽかんとしているルシルはほっておいて、マリアが片手を伸ばすとドアが勝手に開け、マリアとルシルは手を繋ぎながら中へと歩みを始めた。


そこは、先程のステンドガラスの部屋ではなく木々が生い茂っている森の中だった。

眩しさに目を思わずつまり、瞳の中に光が舞い込んでくる。

夕方ではなく、陽の光がポカポカと肌に訴えてきたことを感じ手で光を遮りながらルシルは目を開けた。

そして、瞳の中には目の前にいる銀色の毛の狼を映し出した。


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