第8話
「おばあちゃん!会いたかった!体調は?」
ユリアの背中を軽く叩きながら、女性は言葉を発した。
「子どもたちの前でしょう。もう全くあなたもまだまだ子どもなんだから仕方ないわね」
「だって、だって…」
今にも泣き出しそうなその姿に驚いた子どもたちに気づいたのか、ユリアが言葉を漏らした。
「みんな驚いたわよね、おいで」
にこりと笑い、両手を広げ子供たちを招き、女性を紹介し始めた。
「マリア大お祖母様。わたしのお祖母様で私を育ててくれた大切な人よ」
「ははは、みんな元気だったかい。さあ中にお入り」
マリアの声に子どもたちは使用人に引き連れられ、中に入った。
「マリア様、お久しぶりです。」
「よくきたね。リシュリューのところのせがれ。もうすっかり大人になったね」
「もう、私もベンティンクの人間ですよ」
「ああ、そうだね。ついつい初めて会った時のイメージのままですまないね。立ち話もなんだから、中で話そうか」
ユリアはマリアの背に手を回し、足元に気遣いながら屋敷に入る。
屋敷に入ると子供たちの笑い声がする中、ルシルはこの後マリアの部屋に来るようにいいつけられた。そして、ルシルは本を持ってくるように念を押された。
使用人がルシルに声をかけている姿を見ながら、ユリアはマリアに声をかけた。
「ねぇお祖母様、私もそろそろ話を聞いててもいいでしょう?」
ユリアの心配そうな声にマリアはダメだと答えた。
「これは、継ぐものにしか話せないから我慢しなさい」
ぐっと堪えたユリアにマリアは頬を撫でながら、すまないねと声をこぼした。
「ルシルに押し付けたいわけじゃないが、ユリア…最後まで何も知らないでいて欲しい私の気持ちを理解しておくれ」
ーーーーーー
そんな話が繰り広げられていることは梅雨知らず、わたしルシルは使用人にわかったと返答し、本を持ち、左の肩の上にはオーちゃんが座っていた。
1人と1匹でマリアのいるという、最上階にあるステンドガラスの部屋に向かった。
コンコン
『大お祖母様、ルシルです』
「入りなさい」
失礼しますと、扉を開けると日が傾いていたこともあり、部屋の中がステンドガラスに反射してキラキラと目に光がこぼれてくる。
複数の種類のスタンドガラスが目に入ってきたが、中央にあった女性が跪いているスタンドガラスと目が合った気がした。
「よくきたね。さ、座りなさい」
部屋の真ん中には円形の赤い絨毯の上にテーブルと椅子が用意され、テーブルの上にはカップが3つ、そしてスコーンが山盛りに置かれている。
席に座れば、大お祖母様は温かい紅茶を空いていた2つのカップに注ぎ、指をパチンと鳴らした。
カップにはふわりと緊張を和らげるかのように紅茶の香りが広がり、緊張がほぐれた気がした。
「さ、どうぞ。スコーンも美味しいからね」
『ありがとうございます』
「マリア、サンキューな」
喋るぬいぐるみには気にもとめず、マリアは口を開いた。
「ルシル、今から話すことは誰にも言っちゃいけないことなんだが守れるかい」
『お母様にもお父様にも?』
「そう、誰にも。どんな人にも…だ。これは私とルシルだけの大事な秘密さ」
『大事なことなんだ、オーちゃんはいい?私たち、相棒なの』
「それはもちろんいいさ。お前のつけてる指輪とそこにいるぬいぐるみと話をしたくてね」
紅茶を飲み、穏やかな笑みを浮かべながらマリアは口を開いた。
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