第3話 おかえりなさい

 あきらめちゃダメよ。


 誰?


 さあ、手を伸ばして。


 誰なの?


 大丈夫だよ。

 一緒に帰ろう。


 いったい……。


 俺を忘れたのか?

 私を忘れたの?


 え?

 どうして?


 あの時も君を見つけた。

 だからよみがえった。


 そう……だった……かな。


 そうだよ。

 間違いないわ。


 だって。

 私は……ひとりぼっちだもの。


 そんな事はない。

 そんな事はありません。


 大丈夫だから。

 一緒に帰りましょう。

 さあ、この手を握って。

 握った手は決して離さないで。


 私は目を開いた。

 目の前には黄金の女神……大地の女神クレド様がいた。その脇には黄金の、獅子の獣人がいた。彼の名はたしか獣王ザリオン。正蔵様の過去のお姿。


「貴方は大きな仕事を成し遂げた。このまま眠ってしまうのはもったいない。もう一度立ち上がってみてはどうかな」

「神の救いの手はいつでも差し伸べられています。それを掴むのはあなたです」


 私が救いを求めても……いいの?


「もちろんだ」

「さあ、私の手を握って」


 私はクレド様の黄金の手を握った。

 そしてクレド様に手を引かれ立ち上がった。


 暗い海の中にいたはずなのに、私の周囲は美しい黄金の光で満たされていた。


「ここは? 天国ですか?」

「いえ、意識の世界です。人であれば霊界となりますが」

「私は……死んだんでしょ? 艦体が二つに折れちゃったし」

「生物であれば修復不能な損傷を受けました。しかし、艦船なら修復は可能です」

「そうなんだ」

「そうですよ。前回、レイテ沖からあなたを引き上げて修復するのは大変だったと聞きます。それと比較すれば今回は楽でしょう」

「楽……なんですか?」

「前回の修復時に回収できたのは艦体の45%程度でした。今回は95%回収できました。後はパーツ単位で時間を巻き戻して再生したり、足りない部分は新規に制作しています。もちろん、機関関係は全て新造していますよ」

「ですよね。重力制御が可能だし、無人航行と無人戦闘が可能だし」

「でもね、最上さんはなるべく当時の姿を維持するように意図されています」

「はい。でもどうして当時の姿を維持しているのでしょうか? 例えば、今回の戦闘でも長門さんみたいな宇宙戦艦形態を取れるなら、あの空中要塞も強力な武器で、例えば重力子砲みたいな武器で破壊できたはず」

「そう。でもね、最上さんに求められているのはそうじゃないのよ」

「どういう意味ですか?」

「それはね。強さではなく安心だと思います。あなたが持つ優しい心。多くの人の痛みや苦しみを抱きしめる癒しの波長です」


 何となくわかった気がした。

 私みたいな地味な娘が呼ばれて修復された理由も。


「なるほど。ところで、あの空中要塞はどうなったのですか?」

「アレはどうも威力偵察だったみたいですね。地球側の技術と装備を1945年当時と見積り、その当時の人なら諦めてしまうような巨大な兵装を使いました」

「でも、鋼鉄人形が突入した?」

「はい。黒猫さんのゼクローザスとビアンカさんのインスパイアが敵空中要塞に取りつき、巨大砲塔群を破壊しました。攻撃手段を失った敵要塞はワームホールへと撤退しました」

「よかった」

「ええ」

「では、元の世界に戻りましょう。私の手を握って下さい」

「はい」


 私は黄金色に輝くクレド様の手を握った。暖かくて、柔らかくて、握っているだけで全てが満たされるような幸福感があった。


「最上さん。最上さん」


 名前を呼ばれ、私は目を開いた。

 白い天井と私を見つめる二人。


 椿さまと正蔵様だ。


「もう大丈夫だね。心配したよ」


 正蔵様の言葉が胸にしみる。

 椿さまは何も言わず頷いてくれた。


 私の存在している意味、理由。

 クレド様との会話を思い出す。


 私に優しい心や癒しの波長があるとは思えない。

 でも、それが本当だと信じる。

 私とクレド様とザリオン様の絆は本物だ。

 私が握った手は絶対に離さない。

 何があっても。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

萩市立地球防衛軍☆KAC2024その⑤【はなさないで編】 暗黒星雲 @darknebula

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ