第2話 最上轟沈

 先ほどまでとは比べ物にならない衝撃だった。

 口径80センチの巨大な砲弾……重量が7トンもある……が私の体、艦体の中央を貫いた。


 艦体は二つに折れた。

 重力制御を失った私はそのまま海上へと墜落した。


 そして私は波に飲まれ沈没していく。

 青く暗い海の底へと。


 そもそも、正蔵様と二人で哨戒に出た事が間違いだった。


 寂しそうに一人で佇んでいた私に正蔵様が声をかけてくれた。

 彼は「散歩しようか」と言ってくれた。


 私は俯き加減に「はい」と答えた。


 基地の周辺。

 笠山の椿原生林あたりを歩くのかと思った。


 しかし彼は「せっかくだから哨戒任務に出よう」と言った。

 その一言で胸がいっぱいになった。

 

 敵、未確認攻勢生物が出現する可能性はあった。

 それでも、私一人で切り抜ける自信はあった。


 私は空中を自由に航行できるし、艦載機も大幅に強化した。

 以前は爆撃機四機だけだったが、今は戦闘機四機と雷撃機三機が追加されていたからだ。


 しかし、今回遭遇した相手は火力が桁違いだった。

 大和型を越える火力プラス巨大列車砲の超火力を保有していた。


 巡洋艦で対応できる相手ではなかった。 

 圧倒的な火力の差があった。


 結果、私は敗北した。

 救いは正蔵様が安全に脱出できたこと。


 そして、私が撃たれた直後に、白と青の鋼鉄人形が空中要塞の上部へとテレポートし着地したのが見えたこと。あれは黒猫さんとビアンカさんだ。


 そう、超火力を誇る巨大な要塞であっても、人型機動兵器が取り付いてしまえば対処できないだろう。


 私は沈む。

 しかし、役目は果たした。


 萩市の為に。

 地球の為に戦ったのだ。


 思い残すことはない……と思いたい。


 あの時も……レイテ沖でも……。


 多くの人の思いを乗せて私は戦った。

 多分、相手側も同じ。


 だって、戦争だもの。

 双方が正義を掲げ、命を懸けて、願いを乗せて戦うのよ。


 でも、願いが叶う人なんていない。

 勝った方も負けた方も。

 みんなが傷ついて。

 痛みを負って。


 私はそんな人たちの思いを抱いて海で眠った。

 平和が訪れますようにと。

 

 今回も同じだ。

 多くの人の痛み。苦しみ。挫折。叶わない願い。


 そんな悲しみを全て私に預けてください。私が海の底で、青くて暗い海の底で、そんな痛みと悲しみを抱いて眠ります。

 

 人々の心が愛と光に溢れますように。

 世界中が平和でありますようにと願いながら。

 

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