萩市立地球防衛軍☆KAC2024その⑤【はなさないで編】

暗黒星雲

第1話 空中砲撃戦

「主砲斉射!」


 私の、巡洋艦最上の155ミリ三連装主砲三基九門が一斉に火を噴いた。目標は萩市沖に突如出現した未確認攻勢物体。

 今まで出現して来たのは未確認攻勢生物であり、怪獣と言っても良い姿だった。しかし、今回出現したのは巨大な空中要塞といった形状だ。


「全弾命中。しかし損傷を与えられず」


 私の報告を受けた正蔵様の表情は厳しいままだ。彼は今、艦長席に座っている。


「更に斉射。全ての火器で撃ちまくれ。全砲で迎え撃て」

「了解。主砲、高角砲斉射。機銃は射程に入り次第斉射」


 155ミリ主砲九門と127ミリ高角砲が一斉に火を噴いた。しかし巨大な敵空中要塞には何のダメージも与えていない。


「敵未確認物体の概要です。直径約5000メートルの円盤状。上部に多数の火砲を確認。空中要塞です。上部に滑走路状の構造物を確認。航空機を搭載している模様。また、下方にあるこぶ状の構造物は小型艦艇だと思われます」


 艦橋正面のモニター画面には偵察ドローンからの映像が映し出されていた。それが唐突に途切れた。


「ドローンが破壊されました。敵砲発射。着弾します」


 着弾の轟音と衝撃に艦体が揺さぶられる。


「最上さん。大丈夫?」

「敵砲は恐らく20インチです」

「20インチ……51センチか。大和の主砲より大きいな」

「数発はシールドで防ぐことができます」

「わかった」


 私の本体、この重巡洋艦最上は萩市立地球防衛軍がレイテ沖から極秘に引き上げて修理改装した艦。主砲は沈没時の203ミリではなく建造当時の155ミリ三連装砲を三基搭載している。これはミサキ総司令の趣味なのだとか。


 艦体は重力制御により空中航行が可能。しかし、大気中での最大速度は100ノット(時速180キロ)程度だ。

 

「最大速度で航行しながら主砲を浴びせる。支援が来るまで俺たちで持ちこたえるんだ」

「了解です」


 そう返事をしたものの自信は無い。かの空中要塞には大和型よりも強力な20インチ砲が20門以上配置されている。また、搭載される航空機は200機以上だろう。戦艦数隻分の火力と空母数隻分の搭載機を相手に私一人、重巡一隻では戦えない。


 再び艦体が轟音と衝撃に揺さぶられる。敵は100ノットで移動している私に、確実に命中させている。凄まじい照準能力だ。


「正蔵様。艦載機で脱出してください」

「俺だけ逃げるの?」

「私たち防衛軍の切り札は絶対防衛兵器アルマ・ガルムです。正蔵さまは基地に戻って椿さまと合流すべきです」

「そうかもだけど」

「長門さんの到着は20分後です。それまで私一人では持ちこたえられません」

「だからと言って、最上さんを一人にできないよ」


 正蔵様の言葉に胸が震える。ときめいてしまう。しかし、ここは心を鬼にして正蔵様を逃がさなければいけない。


 ドローンの映像では51センチ砲よりは更に大きい、列車砲のような超大型砲も確認している。アレが発射される前に何としてでも正蔵様を逃がさなければいけない。


 私は正蔵様の体を艦載機へと瞬間移動させた。


「正蔵様。そのまま艦載機でお逃げ下さい」

「え? 俺、操縦できないよ」

「大丈夫。AIが操縦します」


 従来搭載していた九四式爆撃機では能力が足りない事が分かっていた。だから、艦載機は高性能な機体へと更新している。


「紫電発艦。そのまま基地まで全力で飛んで」


 火薬式のカタパルトから正蔵さまを乗せた中翼の紫電一一型が発艦した。もちろん、護衛の紫電も三機ほど先に発艦させている。

 

 追撃はさせない。


「目標は敵滑走路。三式弾込め。主砲全力射撃。てー!!」


 三式弾。対空用の砲弾で小型の焼夷弾を空中でばら撒く。この砲弾は飛行場の攻撃にも適している。


 甲虫のような形状の艦載機が発艦しようと待機していた滑走路に焼夷弾が降り注いだ。敵の艦載機が次々と燃え上がる。


 上手くいった。

 次はアレ。列車砲のような大物を潰さなければ。


 再び艦体が激しい衝撃に揺さぶられる。

 敵の正確な砲撃が私のシールドを削っていく。もう後がない。


「徹甲弾込め。主砲斉射!」


 必殺の徹甲弾を放った。しかし、向こうの巨砲も同時に砲弾を放っていた。口径80センチの巨砲。旧ドイツ軍の列車砲に相当する化け物だ。


 その化け物砲弾がシールドを突き破って私の横腹に命中した。


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