平凡な僕が、パンツを拾ったのは運命?なのか...?

香 祐馬

第1話

『きゃー!!それ離さないで〜!!』


えっ?と声が聞こえた方へ顔を向けると、逆光でよく顔は見えなかったが、女性が窓から身を乗り出して、僕をみていた。


『今日は、春一番が吹くでしょう』と、朝のニュースでメガネをかけたおじさんが喋っていた。

きっと、上から降ってきた布は、風で飛ばされた彼女の洗濯物なんだろう。


「今すぐ行くので、それしっかり握っててください!!」


必死な声が聞こえたので、右手に掴んだ布をさらに力強く握った。

女性は慌てて身を翻し、急いでこちらに向かってくるようだ。


それにしても...この布なんだ?


じっと、手元の布を観察してみる。

何本もゴムが布に縫い込まれて、くしゃっとしいるサラサラした布、ヘアバンドみたいだけど...。


マンションのエントランスの扉が、勢いよく開いた。

バタンっと音が、激しく鳴る。


パタパタと、...いや。

そんな可愛い走り方じゃない。

先程の女性が、ドォーっと勢いよく突進してきた。


その女性が可愛い顔をしていることに、近くまで来て初めてわかったが、いかんせん圧がすごかった。ドキッとするよりも、バクバクして恐怖を覚える。

あっという間に、僕の目の前に彼女は到達した。


そして、ガシッと僕の手を掴み、彼女はお礼を言った。


「ありがとうございます!!」


僕は強引さに動揺し、彼女の姿をマジマジと見てしまう。


彼女は、童顔と言っていいほど幼い顔をしていた。

全体的に体も小さい。一見すると、中学生かと思いそう。

でも、きっと20代だと思われる。

なぜなら、顔と身長に似合わない爆乳の持ち主であった。

これは、子供じゃない。

胸から意識して目線を逸らす。


「あー...。風で飛んで行かなくてよかったですね?」


はいどうぞ、と僕は布切れを返した。

それを彼女は大事に抱えて、ほっと息を吐いた。

そして、僕の目に視線を合わせると衝撃的なセリフを大声で宣った。


「ほっ...んとっ!よかったですぅぅっ!!

これなけなしの給料で買った大事なだったんですぅぅ!!」


感極まっているようだが、言ってる内容にギョッとする。

道の往来で、パンツを叫ばれた僕はどうしたらいいのだろうか!?


ほら、周りの人たちがこっちを見てるじゃないですか!

パンツを抱きしめた女性(しかも、童顔すぎて未成年にも見える)の前にいる、男の僕って、通報案件に抵触しませんかね!?


ダラダラと冷や汗が出そうになった。

それなのに気にせずいまだに喋り続けられる。

それもご丁寧にパンツを広げて、大きな声でパンツの機能を説明し出す始末。

手に負えない...。


「ほんと、ありがとうございます!

このパンツ値段が高いだけあって、すごいんですよ!

ここからここまで引っ張るようにゴムが入っているでしょう?これで小尻効果が出るんです。

他のメーカーも試したんですけど、引っ張り度が段違いなんです!

私...、この体コンプレックスで。

どんなに運動しても、ココとココの肉感が取れなくて!」


ココとココと言いながら、胸をぽよんと持ち上げるし、お尻をこっちに向けてアピールされる。


待て待て、どんな状況だ?

僕の頭の中は、処理落ち寸前だ。


「このパンツのおかげで、よ〜うやく普通のズボンを履けるんです!

ほんと、毎日大変なんですよ...。」


頬に手を当て、悲壮な顔をする目の前の女性。

今現在、僕が大変な目にあってます。


「それにこのパンツ、一枚35000円するんです。ちなみに胸を小さくするブラの方は、もっと高いんですけどね!50000円もするんですよ。

洗い替えも用意したら3セットは必要になるじゃないですか?

これ買うだけで、私の給料1ヶ月分より高いんです!!

だから、風で飛んでった時は、もうこの世の終わりかと思いましたぁ...。

本っ当〜にっ、あなたは恩人です。

諭吉さんが3人と一葉さんが1人救われました!!

ありがとうございますぅぅ。

それで、拾得物のお礼って何割でしたっけ??5%っていくらかしら??350×5?」


「1750円ですね。」


「計算早いんですね!素敵です!

慌てて家出てきたから、今、持ち合わせがなくて。

時間あります??お持ちしますので!」


「いえっ、大丈夫です。何もいらないです。」


パンツ拾って、お金をもらうってなんだろう??

普通、変態親父ならパンツに金払う。

逆にお金もらうって、ドユコト?

俺は変態じゃないけど、周りの目がおかしい。

まるで、俺が下着の変態のような目で見られてる気がする...。


「そんな遠慮しないで!私の尊厳をあなたは守ってくれたんですよ?

これないと、ほんっとに痴漢にあったり、女性から可哀想な目で見られたりして、外歩けないんですから...。」


たった今、僕の尊厳が死んでますが...?これいかに?


「じゃあ、後日お礼しますのでっ!

連絡先交換しましょう。」


流れるように女性がお尻のポケットから携帯を取り出し、ロックを解除しQRコードを差し出す。


「あ、はい。」


僕も携帯を胸ポケットからだし、つられるように連絡先を交換する。


「じゃあ、またご連絡しますね〜!!」


と、彼女は言うとマンションにホクホクと帰って行った。

その後ろ姿を見送り、僕は手元の携帯を見る。


「なんで、連絡先交換しちゃったんだろ...」


唖然と、その場で僕は立ち尽くしたのだった。




しばらくたったある日。近所の居酒屋で僕は友人にことの顛末を話していた。


「てなことが、こないだあって。散々だったんだ。」


「ほーん。そりゃ、大変だったなぁ。」


焼き鳥を食べながら相槌を打ってくれてるのは、同期の田中だ。

会社から僕の家が近いから、しょっちゅうコイツは僕の家に泊まりにくる。今日もこの後僕のうちだ。


「で?連絡先交換して、その後はどったの?」


「それが....、うん。

なんかよくわかんないんだけど、懐かれた?」


「ナツカレタ?」


「うん。」


そう。あれ以来、ちょこちょことメールが届くようになったのだ。

『おはよう』から『お休み』まで毎日連絡がくる。

天気の話とかも良くくる。

『今日は雨で憂鬱ですね。』とか、『まだ春なのに、今日は夏みたいに暑いですね。』とか。

そして、必ず毎日一回『そういえば知ってます?』と言うメールが来て、最近流行りの映画の話だったり、近所の美味しいお店だったり、雑談が始まる。

何故だか会話が続いているのだ。

そして、当初の目的である5%のお礼の件は、一切出ないのだ。(僕は元々要らないから、催促するにもどうかと思って、切り出せない。)


本当に、わけがわからない。


「それって、水田くん。惚れられてんじゃないのー?」(水田は、僕である。)


確かに、僕も思った。可能性の一つだと思った。

だけど、僕は至って平凡なんだ。

背も高い方じゃないし、田中には悪いが働いている会社も3流。給料とかのバックグラウンドは、決して良くない。

顔の作りは不細工ってわけじゃない程度でこれまた平凡だ。

だから、どこに好かれる要素があるのかわからないのだ。


僕は、それはないんじゃないかなぁ...と苦笑した。


「まぁ、あれだ。人の好みは、色々なんだよ。

きっと水田くんのどこかがドストライクだったんだ。

良いじゃん、爆乳!俺もおこぼれに預かり

た〜い♡」


田中はクネクネしながら、爆乳、爆乳と繰り返す。


「酔いすぎだ、バカ。お前、いつかセクハラで訴えられるぞ。」


ここは会社から近いので、知り合いがいないとも限らないのだ。


「大丈夫ですぅ〜。俺の部署は、50過ぎたおばちゃんしか居ませ〜ん。逆に俺がセクハラされてまーす♡」


「おぉ、そりゃご愁傷様だな...。

いつから、この世は女性がセクハラ発言するようになったんだ...。」


「結構前からじゃね?大和撫子は絶滅危惧種だよーん。」


そんな話をしていたら、タイミングよく携帯が震える。

画面にはメールの最初の文面が映し出されていた。

彼女からだった。


「“真希”って誰さ〜?水田くんのこれぇ?」


携帯を見た田中が、さほど興味なさそうに小指を立てて僕に問う。


「今話してた女性。」


「へぇ〜、真希って名前だったんだ。

俺の知り合いにも真希いるぜ。女の名前って、似た名前多いよなぁー。」


「いや、別に男女差なんてなくないか?男もサトルやらタロウやら似た名前多いぞ。」


「なんだよぉ。水田くん真面目〜。

俺は、知り合いにも真希いるなぁって思ったから口に出しただけですぅ。

黙って同意しとけよー。」


「はいはい。」


田中は、酔うとウザ絡みしてくる。

いつものことだ。

だが、いつも前向きで明るいこの男は、一緒にいると楽しい。

今日も二つ返事で呑みに応じた。


「で、その人なんだってぇ?」


「えーっとねぇ。

『水田さんは、お酒強いんですか?』だって。」


「おぉ、まさにタイムリーじゃないか。

これはあれだな、ストーカーだな。

お前の行動、監視されてるぞ〜。

よかったな、爆乳ストーカーで、きひひっ。」


「変な笑い方すんな!全く...。

たまたまだろう。いつも脈略なく、そういえばって質問してくるからな。」


「ほーん。

まぁ、監禁されたら、俺が助けてやる。

安心しろ〜。」



なんて冗談で、田中が言っていた時期もありました。

後日、僕は実際に監禁されたのです。





「ぎゃー!!やめてぇー!!

それ以上、話さないでっ!」


小さなマンションの一室に成人男性の声が響く。

僕、水田の声である。

目の前には、例の真希さんがいる。


どういうことかと言うと、金曜の夜、帰宅途中のことだが、歩いていたら膝を後ろから何者かに蹴られた。

そんなに痛くはなかったが、つんのめって地面に手をつくほどの衝撃はあった。

その後、後ろを振り返って犯人を見ようとしたら、口に薬品を嗅がされて意識を失った。


そして、目覚めた時には、日付が変わって土曜日の昼。(仕事で疲れたあと、ショッキングな出来事(失神)があったため、長々と寝てしまったようだ。)

手足が拘束されていて、僕はベットに投げ出されていた。

そして犯人は、目の前の真希さん。


わけがわからない。


なぜ、こんなことをしたのかと聞くと、「好きだから」と言われた。

やっぱり、わけがわからない。

好きのなる要素が皆無の僕に何故ってのもあるが、好きなら手順を踏んで、間違っても監禁はしちゃいけない。どんな思考回路をしているのか。


そして、どんなに僕のことが好きなのかを話し始めた。

僕の好きなものもなぜか知ってる。僕の癖もなぜか知ってる。

僕が普段、家でどんなことをしているのかも知っていた。

まごうことなきストーカーであった。


どうやって知ったのかと聞くと、僕の家のコンセント延長ケーブルに盗聴器が仕込まれているそうだ。

何それ、怖い。


え?もしかして僕の家の鍵とか持ってる?

あら、やばい。引っ越さなきゃ。


えっ、持ってないの??

なんで仕掛けられた?僕、鍵かけ忘れたことあったかな??


そして、先ほど僕が『話さないで』と叫んだ理由は、とんでもないことを彼女が言い出したからだ。


僕は彼女の話を猛烈に止めたかった。

手足が自由なら僕は、確実に彼女の口を塞いだだろう。


だって、だって。


彼女が言い出した内容は.......、


僕の夜のおかずの話だったからぁぁぁ!!


やめてぇ!

動画のシチュエーションとか話さないで!

僕の性癖を、真面目に語らないで!

だって、男なんだから、胸がでかい子が好きなもんは好きだろ??

君のおおきな胸を前にして、居た堪れないからもう話さないで!!

そうだよ!こないだ見たおかずは、『爆乳の天使。お注射しちゃうぞ⭐︎』だったよ。

あってる、あってるけども!やめて!

ナース服を取り出さないで!

買ったの!?無駄遣いやめて!

プレイは、ご遠慮しますっ!

あれは そういうシチュエーションの医者とナースの話だから、滾るの!


パンツといい、君はなんなんだねっ!?

全くもって、デリカシーが足りないよ...。


怖い。お家に帰してください....。


「君が、僕を好きなのはわかったよ。

だけど、監禁は良くない。とにかく解いてくれないかな?」


「え。やだ。逃げるでしょう?

ていうか、好き。ほんと、好き。

こんなことしちゃったメンヘラっぽいゴミ女の私に激高しないなんて、なんてできた人なの!!はぁ..ほんと、好き♡」


やだ、この子。まじ僕のこと好きみたい。

何を言っても好きっていう...。

もしかして、あのパンツ仕込みだった?

すげーな、春の嵐の中、風向き・スピード計算しちゃったの!?


「あの...、パンツは...?」


恐る恐る確認する僕だったが、真希さんは違う意味で捉えたみたい。


「パンツ?あるよ。見たいの?

でも、こないだのは補正下着だから、色気ないんだよねぇ。

見るなら、勝負下着の方がいいよね?

確か、奥の方にしまってあるから、着てくるね♪」


ちっがーーーうっ!!


「はぁ...見ないよ...。

違うよ、そうじゃない。

僕と君のパンツの出会いは、仕込んだの?ってこと。」


「え?あれ?あれは、偶然だよっ!

たまたま、洗濯物取り込んでたら、遠くに水田さんが見えて見惚れちゃって♡

手が滑っちゃったの。」


真希さんは、テヘッっと両手で頬を掴んで恥ずかしそうにする。

こんな姿だけ見たら、可愛いし、胸も大きいし、惚れてたんじゃないかと思う。

でも、僕は今拘束されてるわけで、恐怖を覚える。


「ほら。私の胸、大きいから好きでしょう。」と、ギシッとベットに乗り上げ、体を僕に寄せてきた。


彼女の胸が、僕の胸筋に当たる。

直接手で触れなくても、僕のモゾモゾ逃げようとする動きに対応して形を変える胸がものすごく柔らかいことがわかってしまう。

弾力があるっていうよりも、雲みたいなふわふわ感。

やばっ、身体が反応しそう...。


彼女がそんな青から赤になった僕の顔に追い打ちをかける。

「あーん。」といいながら、口を少しあけて迫ってきたのだ。


食べられそう...。


バクバクと、血液が集まってくる。


そして...、触れるか触れないかという距離で、

目をギュッと閉じた瞬間。


ピンポーンと、チャイムがなった。

パッと、離れる真希さん。


結局、キスは未遂に終わった。


しかし、彼女の魅力に負けてしまった自分が情けない。

男の部分は、いまだに反応したままだ。


真希さんが、ベットから降りていく。

ホッと、去っていく後ろ姿を眺める。


ちなみにベットから離れる前に、僕の口に猿轡をされた。

僕が、叫んで助けを呼ばないようにしたのだろう。


僕は、耳をそばだて、いつでも逃げれるように機会を窺う。

すると、真希さんは何やら、インターホン越しに相手と揉めてるようだ。

ケンケンと叫ぶ声が聞こえてくる。


しばらくすると、ガチャガチャと鍵が開けられるような音も聞こえてきた。

同時に、「「入ってこないでっ!」って言ったでしょ!」と真希さんが怒ってる声も聞こえた。


鍵を持ってる家族でもきたのだろうか。

僕は、助かるかもしれないと期待した。


「なんで、直ぐに家に入れてくれないんだよ〜。」

「今、忙しいって言ったでしょ!?」

「えー。別にお前が忙しくても良いよー。俺、ソファに座ってるだけで邪魔しないからさぁ〜。」

「そんな意味もないこと、しに来ないでよ!」

「だってさ〜。ダチのところに行ったら、居ねぇんだも〜ん。

ひどくない?約束してたのに、いないんだ〜。連絡もつかないしぃ〜。」


なんてやりとりが聞こえてきたが、声に既視感を覚える。

ダラダラと喋る喋り方にも...。


「え...約束? ...へぇ..、そうなんだぁ...。」

「ほら!いつも話してるじゃん?

同期の水田くん。今日、一緒に遊ぶ約束してたんだよ〜。

だから、あと1時間くらいここで待たせてくれよ〜。それまでに連絡こなかったら諦めて帰るからさー。」

「...お兄ちゃん、勘違いしてたんじゃないの??メールとかさ、...見返してみたら?夢だったんじゃない?」

「そんなことないも〜ん。昨日、お昼の時ぃ、遊びに行って良い?って聞いたら、暇だからいつでもきて良いよ。って水田くん言ってたもんねー。」

「..ちっ、口頭で約束してたのか...ボソ...」

「ん?なんか言った?」

「んーんー。お兄ちゃん、きっと水田さん、急に予定が入っちゃったんだよ。

帰ったら??ここに居てもつまんないでしょ。」

「なんだよ〜。妹が冷たーい。お兄ちゃん悲しみ〜。」


聞こえてきた会話に目を見開く。

なんと、同期の田中だ!

そういえば、昨日遊びに行くってすれ違いざまに約束した。

え?妹?

そういえば、あの延長ケーブル。

田中の充電器を挿し込む為のコンセントが僕の家に足りないってことで、近所の妹さんの家から借りパクしてきたって言ってたやつだ!

え?田中、グル??

でも、この会話の内容を鑑みても田中は無関係っぽい。


とにかく、田中に俺がここにいることを教えないと!

助けてぇー。

たーなーかー!


「ん゛ーん゛ーん゛ー!」


猿轡をされてるから、くぐもった『たなか』しか出ない。

モゾモゾモゾモゾと、芋虫のように動いて、ベットをギシギシ揺らす。


そして、ベットからドンと落ちることに成功した。


「あ?」


田中が、物音に気づいてくれた。


「真希。誰か居たのか?もしかして...、

彼氏か!!

なーんだ、それで家にあげたくなかったんだなぁ!言ってくれれば良いのに〜。

そりゃあ邪魔だったな、じゃあ帰るわ。」


待ってくれ!田中!

帰るな〜!!


「ん゛ーーーっ!!」


田中が、玄関の方へ向かう。


「と、見せかけてぇ〜。

挨拶しちゃおうっと!」


くるりと反転して、ドアを開けた。


「お兄ちゃんっ!!」


静止しようと手を伸ばすが、間に合わなかった。


「こんちわ〜♪真希の兄貴でぇ〜す。」


満面の笑みで入ってきた田中と、床に転がったまま目が合う。


「え?」


後ろでチッと舌打ちする真希さん。


「ええ!?

えー...何故に、ここに水田くん...?」


ん゛ーん゛ー!と、田中に猿轡を外すように訴える。


「うーん...。そういえば、こないだ...水田くんのパンツ女性の名前が”真希“って言ってたか?....。

あーーー、そういうことか。

わかった、わかった。はいはい。

とりあえず、うちの妹がごめんなぁ。今、口の布外すからなぁ。」


この一瞬で、僕の状況を理解したらしい。

なんて出来た男なんだ!

僕は、過去一で感動した。田中が、スパダリに見える!


「ぷはっ!」と、猿轡を外され、新鮮な空気が吸えた。


「たなかぁーー。ありがと〜!!」

「あー良い良い。妹が暴走したんだろ。

こっちこそ、悪かったなー。」


「おい。真希ぃ。

なんでこんなことしたんだ?」


田中が、くるりと振り返り、呆れたように妹に問うた。


「だって....。」


真希さんは、理由を話し出した。

さっき僕が聞いた時は、”好きだから“の一言だったけど、身内にはちゃんと理路整然と話すらしい...。


曰く、よく田中が僕のことを話すので、実際に話したことも会ったこともなかったけど、親しみが湧いていたらしい。

しかも、家が近所で、写真でしか見たことがなかった僕をたまたま見かけて、嬉しくなったそう。

それを繰り返していたら、そのうち、気になる男性になっていたとのこと。

そんな中、あの日パンツがたまたま僕の手に握られて運命を感じたらしい。

連絡先もゲットできて、互いにメールで会話ができて、ますます好きになったそう。

そして、盗聴器仕掛けようかなぁって思ってたら、またまた偶然に田中が夜中に延長ケーブルを取りにきてラッキーってなって、小躍り万歳。

日々盗聴してたら、僕の性癖が判明。

巨乳好きなら、体から落とせるんじゃと思い、監禁を実行した。

それでも、日曜の夜には開放予定だったそう。月曜から仕事だしと、変なところで常識があった...。


「お前なぁ、過激すぎるんだよ。

言ってくれりゃあ、普通に俺が紹介してやったのにぃ。バカだなぁ。

ほら、水田くん。縄とるから、ひっくり返ってー。」


田中が、僕の縄を解こうと手を伸ばす。

すると、真希さんが、心痛な面持ちで叫ぶ。


「やめてっ!放さないでっ!!

水田さんが開放されたら、逃げちゃう!!」


「お前なぁ、そんなこと言っても、俺が見つけた時点で、もう無理だろ〜?

諦めろ。なー?」


それでも「だって、だって...。」と、真希さんの顔がくしゃっとなる。

うー...と、苦しげな声を出しポロッと涙がこぼれると、堰を切ったように泣き出した。


「うわぁぁぁぁぁんっ!!嫌だぁ!!

水田さんは、帰っちゃダメなのぉぉ!!

私のものなのぉぉ!!お兄ちゃんのバカぁぁぁっ!」


大音量で号泣だ。

たとえ童顔で、合法ロリッ子だとしても、いい歳した女性が、ガン泣きする姿に、僕はワタワタとする。


「な、なぁ。田中!

僕、別に良いよ?ほら!

こんなに妹ちゃん泣いてるし?日曜の夜までいても大丈夫だよ。」


「はぁ!?水田くーん、何言ってんのぉ?

こんなに、おかしくなってる妹のところに残して俺帰れる訳ないだろ。

こいつ、過激だから、最終的には包丁取り出すぞ。最悪、水田くん刺されるぞぉ?

俺と一旦、撤退した方が賢明だー。」


「わぁーんっ!!酷いぃぃ!

お兄ちゃん、鬼畜〜!!鬼ぃ〜!!

返してよぉ。水田さん返してぇ!

真希のだもん。まーきーのぉぉぉっ!!」


カオス...。

僕を挟んで、兄弟喧嘩が始まった。


とりあえず、逃げないので僕の縄を取ってくれませんか?



結局、そのあと縄をようやく外してもらって、リビングに移り3人で話し合った。

真希さんは、僕の何が良いのかわからないが、僕の腕に終始べったりと爆乳をくっつけてひっついていた。

田中は、ソファの背もたれに体を預け、呆れながら僕らを見ていた。


話し合いの結果、メンヘラ傾向の真希さんが自殺したら大変ということになり、お付き合いをしてみることになった。

ただし、必ずデートには兄の田中を同伴することに決定した。

田中は、身内が犯罪者にならないように妹を見張りながら、僕を守ってくれるようだ。


結局、この話の終着点は、いつもゆるゆるな田中がヒーローだったってことだろう。




終わり

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

平凡な僕が、パンツを拾ったのは運命?なのか...? 香 祐馬 @tsubametobu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ