ポニーテール少女に問答無用で手を引かれた男の行方

日諸 畔(ひもろ ほとり)

突然の出会いには要注意

 俺は今、小さな女の子と手を繋いでいる。そして、なぜか走っている。こうなった理由はおろか、この子の名前すら俺は知らない。


 つい数分前、特に目的もなく街をぶらついていた時だ。目の前に女の子がいた。正確に言えば、目の前でなく目下だが。俺の胸くらいの高さにあるポニーテールがゆらゆらと揺れていた。

 彼女は舌っ足らずに言った。


「おねがい、はなさないで」


 ぽかんとする俺の手を取って、その子は走り出した。


「待って、誰かと勘違いしてない?」

「まてない。かんちがいもしてない」


 こちらを振り向かず、女の子は言い切った。


「どこへ行くの?」


 俺の質問には返事がなかった。

 力任せに振り払うことも考えたが、可哀想な気がしてしまう。困惑したまま、しばらくの間走り続けた。


 繁華街を抜け、住宅地に入ったあたりで女の子は足を止めた。


「で、なんだったの?」


 まるでドレスのような服装の少女に問いかける。小さな女の子と手を繋いだ男。このままでは、俺が変質者みたいだ。


「ちょっと……まって……」


 息も絶え絶えの少女は俺の手を離さず、何度か深呼吸をする。落ち着くまでさらに数分の時間を要した。


「おまたせ」


 改めて俺を見上げる顔は、背丈の割には大人びて見えた。話し方を含めると、年相応どころか若干幼めにも感じる。


「で、なんだったの?」


 俺の左手は、彼女の右手で握られたままだ。とりあえず手を離さねば。


「って、あれ」


 小さなやわらかい手が、まるで磁石のように離れない。


「もう、むりよ」

「は? 無理って」

「はなれないわ」


 驚く様子もなく、女の子は言ってのけた。最初からこうなることがわかっていたようだった。


「あなたはわたしをたすけるの」

「助ける?」


 俺の頭には疑問しか浮かばない。何が何だかさっぱりだ。


「そうよ。いきましょう」


 彼女の言葉と共に周囲の景色が変わった。


 さっきまで晴れていた空は曇天に、住宅街は瓦礫に。


「じんるいをまもるために、たたかうの」


 少女の瞳が蒼く輝いた。

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