短編105話 数あるささくれ辞書見てみっか
帝王Tsuyamasama
短編105話 数あるささくれ辞書見てみっか
「ささくれ……ものの表面や先端、または爪やその周辺の皮が細かく裂けたり、めくれたりすること。また、すさんでとげとげしくなった心~……ふぅーん」
「
「そっくりそのままブーメラン」
家庭の授業で、手の指に起きたささくれを対処する方法を調べて書きなさい。また、対処の際の注意点も添えること。という宿題が出たので、
まぁ麗花は家隣だし、昔からよく遊んできたし、宿題もよく一緒にしてきた。ちょ、言っておくが丸写しとかしてるわけじゃないからな! 今まで丸写し疑惑でちょっと職員室来なさいとかねーからっ。
麗花は俺と同じくらいの身長で、いつも髪
昔、なんでその髪型なんだと聞いたら、下ろしているとじゃまだから、とのこと。じゃあ切らないのかと聞いたら、長い方がかわいいじゃん、とのこと。女子だねぇ。
今日の麗花は白くてちょっともこっとしてる系の服に、ジーパン。
俺も黒くてちょっともこっとしてる系の服にジーパンと、なんか色違いでそろえたみたいな感じになってしまった。
家隣だから、よく一緒に遊ぶ仲でさ。それはもう幼稚園のときから。いや幼稚園入る前からか。
麗花はデパートでお肌のお手入れ系や塗り薬系などのいくつかパンフレットを入手して、ささくれ関連の説明がされている部分に、なんか猫の顔が書かれている
俺の家にあるダイニングテーブルの上には、お互いの宿題プリントや筆記用具たちが配備され、そして色鮮やかなパンフレットたちが開かれていた。
辞書は俺のを使用。二人で一緒に見ていたから、麗花の左手も辞書近くに。
「麗花はささくれって、よくなるか?」
……家庭の宿題だからといって、麗花の左手をこんなに眺める機会なんて、ないわなぁ。
「ううん、あんまり。雪彦は?」
「俺も別に」
まぁ一応、俺の右手も麗花の左手の近くに並べておいてみよう。
麗花の手は、俺の手よりも細いな。
「雪彦って、結構手きれいだよねー」
「そうか?」
「うん。何か塗ってるの? ハンドクリームとか」
「なんにも」
「へー」
麗花の手も、別にー……なぁ?
「麗花もきれいじゃん」
「えっ?」
そこで麗花は左手を、ちょっと反らしたり握ったりしてくれた。
「そ、そかなぁ?」
「麗花こそ、なんか塗ってんのか?」
「部活するときに日焼け止めくらいかなぁ。マニキュアとかもやってないし。
杏梨とは
「あーそれハンドクリーム塗りながら俺にも言ってたな」
「マニキュアするひとも、ささくれなりやすいんだってー」
「ふーん」
パンフレットを見せながら教えてくれた。のぞく……ひかるえき?
「これは……なんて読む液体だ?」
「
光を除く液体なんだから、闇のエネルギーに染まっているのだろうか?
それにしてもなんでこのパンフレットに写ってる女の人たちは、目閉じてるのばっかなんだろう。
「あー、母さんから手を洗った後はちゃんと拭け、って昔よく言われてたなー」
他のパンフレットを麗花に見せつつ。
「『自然乾燥は手の水分も一緒に蒸発』……あはは、あたしやばいかも」
とてもやばそうには見えない左手だが、積もり重なると~……というやつなのだろうか?
俺より手の面積が小さい麗花は、それだけ全体に回るダメージが早いとか~……いやそんなめちゃくちゃ差があるわけでもないと思うがっ。
俺なに考えてんだろ。
「ちょっと……いいか?」
「なに? えっ? え、えっ」
麗花の左手薬指を右手人差し指でぷにぷにしてみた。いやほんと俺なに考えてんだろ。
「な、なにっ、なにっ?」
「ささくれ……ないなと思ってさ」
「見たらわかるでしょっ」
あ、手を引っ込めた麗花。
「……おかえしっ」
俺が指先でのぷにぷに攻撃だったのに対し、そのお返し反撃は、手を握りながらも親指の先でぷにぷにしてくるというものだった。
人差し指から小指までの四本分の指をまとめて握られたため、これはつまり四倍返しということなのだろうか。
「雪彦も、ささくれないね」
「見ての通り」
そして見ていた通りの麗花の指の細さがわかりました。
「って、宿題手のことじゃなくささくれのことじゃん! 書こ書こ!」
「おう」
家が隣っつっても、手を握る機会なんて、そんなにないわなぁ……。
猫付箋箇所を参考に、いろんなパンフレットを読みながら、家庭の宿題を進めていった。
リムーバーって何って麗花聞いたら、除光液って言われた。ダークネスウォーターとかブラックホールリキッドとかじゃなかったのかお前。
ささくれた場合は、手でむかずに爪切りとかで切れってさ。これは勉強になった。
爪切り用のニッパーからニッパーとペンチの差の話にもなってさ。
こんな感じで、麗花とはしゃべるのが尽きない。
「これでいいよね! 終わったぁ~雪彦遊ぼー」
背中を反らせながら、左手で右ひじを引き寄せる動きをしている麗花。外で遊ぶ気まんまんということか?
「なにするよ」
と聞きながら、俺は筆記用具やら宿題やらをまとめてっと。
「なんでもー。あ、
めっちゃ家ん中やないかーい。
「なんか観たいのあんのか?」
今日は土曜日である。その昼間だが。
「ううん。ただなんとなく」
家隣で遊ぶ回数もここまで重ねれば、一緒にテレビ観る日くらいもあるものさ。
「おいしーっ」
俺は今、クリーム色のソファーに座って、テレビを観ている。右隣で麗花がアイスココアをぷはーさせているがっ。
アニメやってなかったから、旅番組を観ることにした。外国の建物を紹介するような感じの。
なおそのアイスココアは、俺が作った物。甘いココアの粉を少しのお湯で溶かして、そこに牛乳入れたやつ。アイスといっても氷は入れてない。ふたつとも耐久力ありそうな白いマグカップに入れた。
「ねー雪彦」
「ん?」
麗花は特にこっちを見ることなく、俺にしゃべりかけた。見方によってはポニテがしゃべっているようにも?
「あたしたちー……このまま結婚、しちゃうのかな?」
(はい?!)
ココア飲んでる瞬間じゃなくてえがった。
「まだ中学生だろ俺らっ」
「ぃい今じゃないよ将来っ!」
さすがにそこはこっち向くのか麗花さん。
「まったくわかんねーよ」
「えー」
「えーてなんだえーて」
確かに夫婦っぽい人たちが、この建物に描かれている女神様は我々の地域を見守ってくださる~とかなんとか言ってたけどよぉ。
「……さっき、さっ」
さっきとはどのことだ? と考えていたところで、麗花はゆっくりと俺の右手を握ってきた。返しじゃなくても四倍攻撃スタイルなのか。
そのまま握った手を見ている。
「びっくりしたけど、なんか、嫌じゃなかったし。今もこうして横にいてて、なんか……いいし」
ほとんどがなんかだった気がするが、でもなんかわからんでもないかも。
「雪彦はー……だれと結婚するのかなー」
「いや知らねえしっ」
んーまーでも? うちの親やら画面の向こうの人たちはしてるわけで。てことは俺もいつの日か結婚ってのを、するかもしんないし?
「雪彦と一緒にいるの、楽しいもん。楽しいのに、こうして手を握っちゃうと、びっくりするくらいどきどきしちゃうし。あはっ、なんだろね、これ」
明るいキャラの麗花が、そのまま明るさ全開な笑顔で、そんなこと言われましてもっ。
「……俺も、麗花と一緒に遊ぶのとか、楽しいし」
なんだかよくわからないが、右手に少し力が入り、麗花としっかり手を握る形になった。
「よかった」
「ちょおっ」
麗花は手の握り方を俺の指と指の間に自分の指を挟んでくるスタイルに変えながら、俺と腕同士肩同士を当てつつ、頭を俺の右肩の上に乗せてきたっ。
握った手は、俺の手の甲が下になる形で、俺の右脚の上に着地した。
「な、なんだなんだっ」
そして俺は俺で、この状況から離れたいなんてまったく思わず。
「じゃあ雪彦は、他の女の子にも、指ぷにぷにするの?」
「じゃあってなんだ? いや、別に……?」
いきなりの問いにも答えることができた。
「あたしだから……ぷにぷにした?」
改めて考えよう。麗花とは家が隣同士。昔から仲良し。確認させていただいても怒らなさそうだった。うむ。
「そうだな」
「……じゃああたしも。雪彦だから……手握っちゃう」
どうも麗花は四倍返しの件といい、反撃時のカウンター攻撃力が
(ということはつまり……反撃の反撃には、さらなる攻撃力を求めよと?)
「……んじゃあ……俺からの反撃として、麗花だから……彼女ってのにしたいと、思う」
ここからだと顔の表情は見えないが……握っている手が、ほんの少し強まったのは感じた。
「……できればぁ……もうちょっと言い方っ……」
(俺なりに頑張ったんですけどぉ?!)
これもまた、女子だねぇの一環なのだろうか。優良可で可判定っぽい?
「お、俺だって、まだよくわかってないけど、麗花なら別に結婚とか彼女ってのにしてもいいというか、してみてもいいというか、したいかも……とか思ってだなっ」
あれこれあんま言い方変わってねぇよなっ。
「あはっ、ごめんごめん、それでいいよっ」
やっぱり可判定のままぁ?!
「……とにかく麗花は俺の彼女になれっ」
「急に命令形!?」
あーもう手の力強めちゃるっ。
「ふふっ、もうっ……よろしく、雪彦」
相変わらず表情は見えないままだったが、俺の右ほっぺたに麗花のあたたかさがくっついてきたのは、わかった。
「って今日これ再放送あったんだったな!!」
「ほんとだ! 観よ観よ!」
(あっぶねぇ……今なんか、すっげーどきどきしたぞ……)
手は握られたままだったが、まだまだずっと、麗花と一緒に過ごすことが楽しい時間は、続いていきそうだ。
短編105話 数あるささくれ辞書見てみっか 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho
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