絵を描く
@ku-ro-usagi
短編SF(すこし、ふしぎ)
幼い頃から
お絵描きが大好きだった
人でも動物でも物も建物も好き
唯一
風景は観るのは好きだけど苦手
でも
やっぱり絵を描くのは大好きで
その大好きがずーっと続いてさ
美大を目指したんだ
予備校に通いつつ一浪もしたけど
無事に受かってね
勉強含めで毎日のように描きまくってた
そのせいもあるのかな
それの切っ掛けは
無事に入学できた大学で
友人と話していた時だった
頭の中に
ふわっと可愛い三毛猫のイメージ浮かんだんだ
友人とは全然別の話しながら手癖のまま描いてみたら
「えっ?なんでうちで飼ってるミーちゃん知ってるの!?」
って絵を見た友人に驚かれた
この子はミーちゃんだったのか
スマホで写真見せてもらったら結構特徴掴んでた
我ながら上手だな
そんなね
私の小さな特技?
が広まって
たまに
「自分も描いてみて欲しい」
と頼まれるようになった
みんなやっぱりペットとかご両親とかお祖母ちゃんとか多かったな
それはそうだよね
彼氏彼女の顔は思ったより少なかった
そもそも
何か後ろ暗い事がある人は描いてなんて言ってこないし
中にはその人が昨夜食べていたハンバーグが絵になったこともある
あぁ
でも一度
男の先輩の時
ノートいっぱいに
おっぱいおっぱいおっぱいちっぱいおっぱいおっぱい
乳房乳輪乳首
大きさも形もよりどりみどりのおっぱいが広がった時は
うん
少し気まずかった
まぁ平和ではあるのけれど
それから男子からの依頼は少し減ったかな
報酬はお昼のパン1つお裾分けとかジュースとかほんの小銭ね
素直に助かったし
顔見知りになって挨拶できる人も増えて嬉しかったな
一度
楽しい講義中のはずなのに
その時間はどうしても身に入らなくて
ぼんやりと教授を見ながら手が動くままに描いたら
若い女の人が描き上がった
見覚えある人
しばらく考えて
「あぁ事務の人だ」
と思い出した
私はそのまぁアホで鈍いから
本当に娘さんかと思って
「教授、教授を見て描いたよほら」
って見せたら
他の皆も
「何々?」
って覗き込んできてね
「誰?」
「私、知ってる、事務の人、やだ凄い似てる」
「えーでもなんで?」
って
私みたいに
「娘さんですか?」
とか聞いてたのに
教授は顔真っ赤にした後に真っ青になって
「人の講義も聞かずに何をやってるんだ!!」
って滅法怒られた
今思えば逆ギレって奴だね
うん
教授の浮気相手だった
いや、本当に悪いことしたと思ってるよ
本当に
笑ってないってば
そんな感じでね
それから何があるってわけでもなくて
ただひたすら毎日
講義と実習と課題に邁進してた
そんなある日
親しい友人の1人
例のミーちゃんの飼い主が少し困った顔で
「私の知り合いが『自分のことも描いて欲しい』って……」
と頼んできた
友人の頼みだし
その知り合いのfとやらが
お礼がわりにお茶代を奢ってくれるって言うから
友人と共に指定されたカフェテリアへ行ったんだ
落書き程度だから
持ってくのはごく普通のノート
初めて会ったfは
物怖じしない性格らしく見た目からもその自信が溢れていた
まさに
女子力を具現化したらこうなりました
みたいなね
髪の先から爪先まで綺麗だったよ
そして文字通り
女子力とは正反対に位置する陰キャの私と陽キャのfが
カフェのテーブルで向かい合った感じ
友人は席に着く前になんか逃げた
じゃなくてトイレ行った
長いトイレにね
fには何をどう婉曲して伝わったのか
「未来の子供を描いて」
と言ってきた
未来?
未来とな?
今まで描いたことがないよそんなの
未来って見えるの?
描けるの?
わからない
全く未知の依頼だった
目の前のfはこう
自分を主軸にその場で上下関係を付けて
それは皆結構無意識にやっていることだけど
fはそれを相手に隠さないタイプだった
当然
私はfの中で最下層なのだろう
視線や空気ですぐにわかった
でも別に気にしなかった
それは本当
世の中にはこういう人もいる
そう思ってたから
自分は陰キャの自覚もあったし実際そうだし
だから
少なくともペンを持つ指先に私の意思も希望も入っていない
私は絵に集中するためにも
fとは話さずに
ただ不審がるfの顔だけ見て
自動書記の感覚でfの未来をひたすら意識して描いた
結果
「やだ!何これ!何このドブス!!」
と叫ばれた
ドブスて……
カフェ中に響いたよ
私のことと思われるじゃん
そりゃ間違っても美人じゃないけどさ
ノートの中の女の子は5歳位かな
確かに多少下膨れではあるけれど
小さな子特有のふっくらもちもちほっぺも含め可愛さの象徴ではないのか
大人になればスッキリしたラインになるなんて珍しくもない
目も豆粒並に小さいのは父親に似たのかもしれない
黒目が大きく見えて良い
小さく低めの鼻も愛嬌があるよ
でも
そんなことよりも何よりも
本当に将来の自分の子供の顔かもしれないのに
「ドブス」
と叫んだ歪みに歪んだ顔
それは今のあんたのことだよと言いたい
何も考えずに今
このfを描いたら一体何が描けるんだろうと好奇心に指先が動きそうになる
描いたものによっては
本気で首でも絞められかねないから描かないけれど
会った時から薄々は予想はしてたけど
やはりfは自分の会計すらせずに
全身から全然押し殺せてない怒りと不機嫌さを滲ませて席を立って帰っていった
長い長いトイレに籠る友人にメッセージを送ると
「ごめんね……」
神妙に謝られた
「平気」
きっと友人も被害者に近い立場なのだろう
聞いてみれば
友人とfはお互い実家住まいでその実家が近いだけで
お互いにタイプが違うから仲良くはない
大人になった今はすれ違えば挨拶はする程度
私の事は勿論話してなどいなかった
けれど
親同士は仲がいいらしく
友人の家に
友人の描いたミーちゃんと
恐れ多くも私の頭に浮かんだあのミーちゃんが飾ってあるらしく
それがきっかけで
親伝てに私の話が間違って伝わった結果らしい
そう
友人は
私のほんの落書き程度に描いたミーちゃんを気に入ってくれて
わざわざ家に飾ってくれていたんだよ
しかしそれがこの結果
おみくじで言うと小凶が出た感じ
引いてもいないおみくじなんだけれども
小さくなっている友人に
fの未来の子供(と思われる)絵を見せたら
「これ、小さい時のfだ!」
って驚かれた
「え?」
こっちも驚いた
「未来、未来、未来~!」
って念じて描いていたのに
やっぱり私にはそんな力はなかった
しかし
昔の自分に
「ドブス!」
とは
昔のfがかわいそうではないか
今は不自然でない程に整形も成功しているのにさ
私は整形は賛成派なんだよ
それで自信が付くなら
人生が謳歌出来るなら
とてもいいことだと思うし
それに
そもそも整形して成功する人は
まず顔の骨格が整ってるんだ
人物画だと顕著だよね
私なんてクジ引きでモデルやらされた時に
「骨格が残念、勉強にはなる、みんなよく見なさい」
って教授に言われたもんね
うるせーハゲ
思い出したら腹立ってきた
カフェの代金は
友人は私が出すからと言ったけど
fの分も含めて仲良く割り勘にした
幼馴染みならぬ毒馴染みを持つ気の毒な友人と別れて
私は家に帰ってから
(うーん、やっぱり可愛かったよなぁ)
fのあのドブス呼ばわりがどうしても納得できなくて
ノートを開いたら
「あれ……?」
おかしい
「なんだ?」
誰か落書きした?
いつ?
友人に見せた後は
ノートはトートバッグに仕舞っていたはずなのに
本来そこに描かれていた
幼いfの頬の膨らみも下膨れもなくなり
小さな目は不自然な程大きなアーモンド型になっていた
小さく愛嬌のあった鼻は
汚れた消しゴムで雑に消したような
その後に控えめで整った鼻筋に小鼻が佇み
きゅっと閉じられていた不機嫌そうな小さな唇は
こちらに向かって勝ち気な笑みを浮かべていた
どうやらfは
どうしても自分の昔の顔は認められなかったらしい
(執念、憤怒?……凄まじいな)
人の描いた絵にまで干渉してくるとは
でもfは
私の描いた顔を自分の将来の子供の顔だと思っている
いや
「自分の子供の頃の顔」
だと解っていた?
もしそうなら
そりゃせっかくなくなったコンプレックスを
白昼のお洒落なカフェテリアで披露されたら激怒もするか
それでも
子供には自分の血が半分は受け継がれる
未来の子供の顔でもおかしくない
それも含めfは
許せなかったのかもしれない
その後
考えすぎなのは解っていたけれど
あのノートはまだ半分くらい描ける白紙部分があったけれど
どうにも手許に置いておくのが嫌で
近所の神社に持ち込みしてお焚き上げしてもらった
そしたら
お焚き上げが終わった後くらいに
「はい、おつりあげる」
母親から頼まれた買い物のお釣分と
「これね、良かったら」
教授のちょっとしたお使いのお礼に
百貨店の千円分の商品券を貰えた
その合計金額は
あのお洒落なカフェテリアで支払った割り勘分の合計と同じだった
何だかそれで
プツプツと繋がっていたfとの
一番太い線ならぬ縁が切れたようで
私はなんだかね
それがとても
ホッとしたんだ
今も
誰かに頼まれればたまに描いてる
でもやっぱり
未来なんかはこれっぽっちも描けないけどね
絵を描く @ku-ro-usagi
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