魔女の苦悩

神白ジュン

第1話

 魔女の心は疲労によってあまりにもささくれ立っていた。


 原因はこの、赤黒いコイツだ。





  「……うるさい、うるさい!うるさぁぁぁぁィィ!!」


 発狂しそう。というかもうしてしまった。

 錬金釜を目の前にして、私、魔女アルマは苦悩し続けていた。

 

 ギィェァァァァァァァァァ!!!

 

 つい先日、知り合いの魔法使いに教えてもらった場所で採取してきた錬金素材のマンドラゴラが、五分に一回のペースで大音量の悲鳴を上げ続けているのだ。おかげで昨日は全く眠れておらず、目の下のクマはさぞ大変なことになっているだろう。


 聞くところによれば、赤黒い根っこのようなこの植物は、回復系のモノの効果を絶大に高めてくれるらしい。けれどもいくら貴重な素材だとはいえ、敬遠する人がいるのも納得だった。


 さっさと釜に入れてしまいたいところだが、このような時に限って普段有り余っているはずの調合に必要な素材がないのだ。空を一っ飛びして取りに行くのが早いのだが、この後にも大量に必要とする調合が控えているため、宅配を頼んでしまった。


 ……薬草程度なら自家栽培すべきだったと心から後悔している。



 ギィェァァァァァァァァァ!!!



 そんなこんなでまたこいつは叫び出すし……たまったもんじゃない。



 防御魔法を施したケースにいれていてもこの音量。防音魔法を覚えていなかったら鼓膜はとっくに破れていたことだっただろう。




 …………あと、私は何時間耐えれば良いのだろう……?? 

 


 ギィェァァァ!????

 我慢の限界が来た。私は咄嗟にマンドラゴラを氷魔法で氷漬けにしてしまった。

 こいつは人のような顔を持つ植物なのだが、その顔がなんだか先程よりもびっくり仰天、といった顔になっている。なんとも愉快だ!

 

 ……………。


 ギヨオォォォィェァァァァァァァァァ!!!!


 

 氷を破るどころか、ケースごと破壊しやがった、こいつ。

 開いた方が塞がらず、私は一分くらい動くことができなかった。マジで??え、??そんな力持ってるの???



 幸い、こいつは動けないので、逃げ出すことはないのだが、さてどうしようか。

 そう考えているうちに、玄関の扉を叩く音が。


 ────勝った。

 

 「アルマさぁーん?お届け物ですよ??」


 「はーい!今出ます!!」

 そうして私は、玄関の扉を開け、配達の女の子を勢いよく笑顔でハグする。



 「ありがとぉ!!アナタが来てくれなければ私死んでたかも!!」

 お世辞抜きに彼女の到着が後数時間でも遅れていれば、私はこの家付近一体を更地にしていたかもしれない。それくらいのストレスだった。


 「わっ!?いきなり抱きつかないでくださいよぉ〜」

 そうは言いつつも彼女も満更ではない表情で私の身体を抱擁し返してくれた。




 「……じゃあ、またのご利用お待ちしてますね!」

 次の配達があるのだろう。そうやって配達員の彼女は箒に跨ってすぐに飛び去っていった。


 

 「はぁ〜助かったぁ〜」



 ギィェァァァァァァァァァ!!!


 そう思い、荷物を持って部屋へと戻ると、開口一番にまた叫びやがった。


 待ってろ、すぐに調合の贄にしてやるからな?


  

 マンドラゴラを早速釜にぶち込み、届けてもらった数種類の薬草と事前に準備しておいたキノコをいくつか入れた後、念入りにかき混ぜる。


 

 錬金釜がピカッと光って出てきたのは……以前作ったことのあるものよりも一段と綺麗な色をした薬。これは身体の傷や疲労に効く薬だ。それも、マンドラゴラで増強しているためおそらく一般のものよりも効果は絶大なはず。



 …………耐えた甲斐があった…………。

 無事完成したことを見届けると、私はドッと疲れが来てしまったのか、そばにあった椅子に倒れるように腰掛け、息を吐きながら天を仰いだ。



 

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魔女の苦悩 神白ジュン @kamisiroj

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