卒業記念品の印鑑が黒歴史
逢坂 純(おうさかあつし)
卒業記念品の印鑑が黒歴史。
人の名前と言うのは、一生ものであると考えます。名前でそれから先の人生も変わってしまうと僕は思うのです。これは小学校6年生で、もう小学校卒業という時期のお話です。
僕の通っていた小学校では、卒業の記念品として、大人への第一歩という意味を込めて、印鑑を作ってもらい、卒業式の日に贈られるという小学校に代々伝わる贈り物が用意されていました。
僕の代も、先達と変わらずその印鑑は健在で、
卒業前の何か月か前のホームルームの時間に、印鑑に入れる名前を書いてくださいという授業があったのです。
皆、それぞれ自分の名前を書いていたのを記憶しています。
僕も自分の名前を書きました。そうして授業は終わり、皆の名前を書いた紙は担任の教師によって集められ、皆で、自分の名前の入った印鑑が貰えることを喜びながら嬉しく談笑していたのです。
そうして卒業までの日はアッという間に過ぎ去り、僕たち私たちは小学校を卒業しました。
卒業式はとてもいい感じでした。僕の卒業の時の合唱曲は、その当時の定番の歌、海援隊の「送る言葉」でした。来賓の方々、親御さん、在校生、卒業生、皆がそれぞれに感慨深く式に臨んだおかげで、とても素晴らしい卒業式を無事、終えました。
そして教室に戻りました。感激と別れ惜しさから泣き出している人もいました。
そして、先生が入ってきて、卒業生への贈り物が皆に渡されていきます。
そこには在校生が作った土粘土の鈴だったり、
とても心のこもった送り物もありました。
そして担任の教師から卒業アルバムと一緒に、自分で名前を入れた印鑑が手渡されました。
「わー……」
と言う感嘆の声が教室中に響き渡りました。
クラスメイトの皆は印鑑を貰ったことで、大人への第一歩を歩み始めたのだと、実感しているようでした。
僕も渡された印鑑の袋から自分の名前入りの印鑑を取り出しました。
「あっ……」
「純」そこには一文字、そう印字された印鑑がありました。そうです。僕は自分の苗字ではなく名前を書いていたのです。他のクラスメイトの印鑑を見ると、「鈴木」だの「山本」だのと、これから先の人生で大切な思い出になるであろう品のように思えました。
僕の印鑑だけ「純」て……。
この先、僕はこの印鑑をいつ、どういう風に使ったらいいのか、今もその印鑑は未使用のまま、卒業アルバムと一緒に眠っています。
卒業記念品の印鑑が黒歴史 逢坂 純(おうさかあつし) @ousaka0808
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