インスタント800字ホラー~料理~

豆腐数

食材によっては肉屋みたいにギコギコ解体しなきゃいけないから大変だよ

 飲食業の朝は早い。寝不足の時なんぞ、出勤時心がささくれるくらい早い。開店時間には食事の提供が出来てないといけないから、例えば九時開店だとすると七時には用意を始めないといけないわけだ。


「たるんでんじゃねえ、今日もお客の為に笑顔、スマイルゼロ円ってなあ!!」


 ここの親父さんは言う事がいちいち古い。某ファーストフード店でもとっくに廃止されたメニューだというのに。親父さんが忙しそうに仕込みをしている後ろで、私はこっそり同僚とヒソヒソし合う。


 親父のハゲ頭の悪口ばかりも言ってられない、お客さんを招き入れていなくとも、やる事はたくさんあるのだ。今日は午前中は店を開かず、上客常連の為昼から店を貸し切りにしている。朝から通常営業をする時より時間には余裕があるが、今日は特別料理を出すので、モタモタしていたら時間がかかってしまう。親父さんなんか、昨夜から仕込みにかかっているくらいだ。


 材料がバラバラに四個口くらいに分けられて出荷されたせいで、お客さんを迎える当日だと言うのにまだ全部届いておらず、親父さんは不機嫌だ。などと言ってるうちに宅配のお兄さんが来たので食品をさっそく引っ張り出す。


 メインディッシュ用の腕と腿が届いて良かった。さっそく仕込みにかかる。一緒に届いた頭部と目が合ってしまい気まずい。親父さんに「今回は『猿肉』を調理する」とは事前に聞いてたが生々しい食材だと思う。人間と猿は似てるしな、猿人類とか言うし。猿肉自体の味は結構良くて、好きなラノベやエッセイでも食ってた記憶がある。ラノベの方は丸焼き、エッセイはすき焼きにしてたっけ。うちはフルコースなので部位事の調理。昨日から親父さんがモツ煮込みと焼き肉の準備をしてるし、かかとやすね肉をコトコト煮込んだシチューの用意もある。無秩序な料理を次々やらないといけないので過酷な職場だが、賃金は高いので給料日の事を考えればささくれた心も癒されるというものだ。

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