マリとマリン 2in1 いい日日和
@tumarun
第1話 倉鼠再び
翔と茉琳は大学敷地の東門の階段を降りている。
「今日は、絶対は、いると思うのよ」
「その自信は、どこから来るのかなあ」
茉琳は自分の胸をトンと叩く。
「勘」
叩くに合わせてカーディガンごと豊かと言える胸が震えた。思わず見てしまって翔は目の置き所に困って視線を踊らせる。
「ウチの頭に誰かが囁くの。君を探していたよ。君に会いたいって。君と話がしたいんだって」
茉琳は手を合わせ空を仰ぎ見て恍惚としてうっとりと話してくる。
「マリンさん、どっかからいかがわしい電波拾ってないかな?」
「なんかひどいこと言ってるなしー」
途端に、マリンは機嫌を悪くしてぶー垂れてくる。
暫く歩いていくと、さまざまな店舗が並ぶ商業エリアに入ってきた。2人はペットショップに向かっている。茉琳がハムスターを見たいといって、翔に同行を頼んでいるんだ。
最初に出会ってから、何かと縁があり翔は茉琳のお願いは結構、聞いてあげている。今日も、いきなり振られた話なんだが、不承不承付いてきている。
もう少しで、ペットショップというところで、甲高い鳴き声が聞こえてきた。多分、女の子。
「マミィ、パピィ…スンスン」
側に佇んでいる女性の袖を握りしめ。体ごと左右に振って親を呼んでいるようだ。
「あっ、翔。小さい子がないているなし、何かあったなりか?」
「まっ、茉琳。いきなりは危ない。転ぶよ」
茉琳は駆け出してペットショップの前にいる子供に近づいた。翔も後を追う。
「マミィ、パピィ、ソロ ヂム ダンデ エスタス」
明るいブラウンの長い髪を振り乱し声をあげて泣いている。
目には涙が溢れ、口を横に引き絞り父と母に訴えていた。
その泣き声に引き攣られてペットショップにいる動物たちも泣き出した。辺りが喧騒に満ちる。
「あら、あら、あれ? あなた?」_
そんな中、泣いている女の子に近づいた時、茉琳は側に呆然と立ち尽くす1人の彼女の顔を見て、驚いている。
「ゴールデンハムちゃんは元気なしや」
茉琳は、彼女を知っていた。同じ講義をとっており、講義室で彼女がハムスターの話をしていたのを聞いていたんだ。その後、置き去りな対応をされて茉琳は心にささくれを残しながらペットショップへ逃げ込んだ経緯がある。
いきなり、茉琳に話を振られた彼女は訝しみながらも、
「げ、元気よ。今日はその子の餌を買いに来たのだけれど………」
話に詰まった彼女は袖をひしって掴んでいる女の子を見つめる。つられて茉琳もその子を見ていった。茉琳と翔が近づいてきたことで大声で泣き叫ぶことはやめた彼女であるが不安そうに2人を見つめている。
「どうしたなり、貴女の娘さんなり?」
「違う。いきなり近づいたと思ったら、袖は掴まれるし大声で泣き出すし、私も訳わからないのよ」
今までのストレスを紛らすように彼女は激昂する。
「ゔ、ゔ」
怖くなったのだろう女の子がくずり出した。
すかさず、茉琳は女の子の前にしゃがみ込んで視線を合わせる。
「ハァイ ハモーサ・クゥイパァサ」
そして茉琳はいきなり、他国の言語で話しかけていく。
「パパ? ママ?」
茉琳は、そのまま話しかけていく。自分のわかる言葉で話しかけられて女の子の緊張感がほぐれて、表情の強張りも無くなった。
「パピィ マミィ ノン・エスタ・ニングァム・ラボ」
女の子の呟きを聞いて茉琳は心配そうに、
「翔、どうしょう? この娘、迷子なり」
さらに聞く。
「ナダァ ソロ・クゥイテェ・エクストラナアバ」
すると女の子は店舗にあるケージを指差して、
「ハビア・エステ・ニーノ」
その指先を追って茉琳は顔を向ける。
「あー ハムちゃんなり〜」
今度は茉琳が大声を上げる羽目になる。立ち上がりケージの所に飛びつくと、
「翔! ハムちゃんいるなっシー」
指先をなん度も指し示し、どうだとばかりに翔に話しかけている。
「ジャンガリアンなしか? キンクマなしか? ロボロフスキーなしか?」
そして、ケージへ振り返り齧り付きでハムスターを見ている。
「ハモーサ ハムスター・クエスタムーチョ」
茉琳は振り返り女の子にも聞いている。
すると、
「ノン ノン セ・べ・リコ」
女の子が返事した途端に、それまで喧騒に満ちていた空間が静まり返った。
さらに。
「エンカンタレ・クイ」
と女の子は告げた。
茉琳の顔が驚愕に変わる。手を広げてケージを覆い、女の子から隠した。
「ノン、ノン、ノン」
ダメだよというように、顔を振って拒絶している。
そこへ、
「リズ! リズ!」
と、呼びながら妙齢の女性が走り込んできた。女の子と同じブラウンの髪をしていることから2人は親子かと思われる。
2人は抱きしめ合い、無事を確認している。女の子は母親と見られる女性とにこやかに話をしていた。そのうちに2人は茉琳に向き合い、
「エスタ・ミ・二ーニャ・エスタヒーハ 」
そして手を胸の上に重ねて謝意を示した。
「セニョリータ エレス・ムイ・アマーブレ グラシアス グラシアス」
「ノ・メ・クエスタ・ナーダ」
と返事を返していく。
そして、親子は肩を抱き合い、その場を去っていく。
「チャオ」
茉琳は手をふり、2人を見送った。
少し離れて女の子も手を振り返して来た。
「チャオ」
親子がさっていくのを呆然と見ていた翔は、
「なあ、茉琳。今のはどこの言葉かな? セニョリータぐらいしか聞き取れなかったよ」
「スペイン語なり」
「どうしてわかったの?」
「マミィって言ってたなりや。それでなしね」
「第二外国語にでもしてたの?」
「ウチはフランス語を選択しているなし」
「本当に? ペラペラだったよ。すごいや」
「選択授業にスペイン語はないなりね。実家のお仕事の関係で勉強させられたなしね」
「そうだよね、でも、凄いや」
そこで茉琳は翔に寄り添っていく。
「そう、なら褒めてぇ、もっと褒めてぇ」
「おう、今日は褒めてあげる。茉琳は凄いわ」
翔は茉琳の髪が乱れるのも構わずに撫でていった。茉琳といえば、怒りもせずに、そのまま撫でるに任せていたりする。
「えへっ」
顔の表情も蕩ろけてしまったようだ。
そこで翔が茉琳に聞いた。
「途中何かあったのかな? 酷く慌てていたでしょ」
「あっあれね。『ハムスターは好き?』って聞いたなし」
「で、あの子がなんて?」
「『美味しそう』なんていうなり、驚いただにぃ」
「それで、いきなり、ペットが泣かなくなって静かになったんだ。既視感ありありだったかんね」
「恥ずかしいこと言うなっシー。あれはウチの黒歴史だにぃ」
以前、茉琳はこの同じペットジョブで動物たちを恐慌へ導いた経験がある。
’食いたい'’うまそう'っと。呟いてしまった。
「そうなり。だからハムちゃんたちを守ろうとしたなしぃ」
「でっ、体を張ってハムスターを守ってた理由だぁ」
「うん」
「本当に凄い。周りには自慢できるよ」
「えへへのへ!」
「あなたたち」
そこで、今まで存在すら忘れ去られていた彼女が徐に話しかけてくる。
「いきなり、目の前でいちゃつくのやめてもらえますか? 恥ずかしい!」
「「ごめんなさい」」
2人揃って誤ってしまう。
「別にいいけど………。ところで、なんで私を助けたんですか? 講義は同じでも他人じやないですかあ。それに、あの時、こっちは貴女を避けて逃げ出したというのに、なんでですう?」
彼女の声に困惑が混じる。
「困った人がいれば、助けるなり。ねえ翔」
「おう」
茉琳は翔を見やる。翔も思うことがあり同意をした。
「それに、貴女とは他人じゃないなり。ハムちゃん好きの仲間なりよ。ウチはそう思ってるなし」
「貴女、本当に………、ああ、もう! 私1人片肘張ってもしょうがないよう。私は周防あずさ。貴女は?」
「茉琳。御影茉琳っていうなし」
「わかったわ。茉琳、私たち、お友達になりましょう」
「え、良いのん?。じゃあ、ウチらお友達 え!」
「そういうことね。今日はありがとう。茉琳」
「あっ、はい。あずちん。ウチもありがとなり」
「あずちんはないんじゃない! まあ、いいわ。じゃあね茉琳」
と言って彼女も去っていった。
「今日はいい日なり。ハムちゃんにも会えたし、あずちんとも、友達になれたなり」
「良かったね」
茉琳も笑顔になり、翔も釣られて笑顔になっていった。
「翔、ウチの勘は冴えてたなりよ!」
「だね。御見逸れしました」
ふたりは笑いながらペットショップへと入っていった。
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