萩市立地球防衛軍☆KAC2024その④【ささくれ編】

暗黒星雲

第1話 女性の勲章

「最上。絆創膏とハンドクリームが欲しい」

「ララ様、どうされたんですか?」

「いや……ちょっとな。あ……これは内密にしてほしい」

「はあ。わかりました。こちらをどうぞ」

「ありがとう」

「ところでララ様。それは〝ささくれ〟ですか?」

「シッ! 声が大きい。先ほど内密にと言っただろう」

「えっと……その……サ・サ・ク・レ……が?」

「そうだ。それだ。私の故郷では……その……婦女子の指にそういうのができた場合……不義不貞を働いたと……後ろ指をさされたり……するのだ」

「え? そうなんですか?」

「そうなのだ。私は結婚している訳ではないし、誰かと交際している訳でもないし、誰かの夫や彼氏と仲良くしている訳ではないし、当然、処女だし……それでもだ。これが見つかると……皇室の面汚しだと罵られるし、もちろん陛下に顔向けもできない。だから、極秘事項として処理してほしい」

「わかりました。では、ささくれの治療をしましょう。ララ様。お手を拝借」

「自分でやるから」

「いいえ、私、最上がお手入れして差し上げます。先ずはこの蒸しタオルで指を温めて皮膚を柔らかくします」

「気持ちいい……な」

「ですよね。次は、こちらのニッパーで飛び出ている皮膚を切除します。この時大事なのが、傷を作らない広げない事です」

「うん」

「そして、傷用のクリームを薄く塗ります。仕上げに大き目の絆創膏で患部をくるみます。はい、出来上がり」

「ありがとう。上手だな」

「恐れ入ります。こういう処置に大切なのは正しい知識と相手への思いやりです」

「なるほど」

「ところで、ささくれが不義不貞になるって不思議ですね。どんな理由なんでしょうか?」

「多分、貴族の子女限定ではないかと思う。帝国では、女性の手の美しさを愛でる習慣があってな。それ故、手荒れは相手への思いやりが不足している事だと言われるようになった……と、ミサキ姉さまに聞いた」

「総司令がそんな話を」

「私も最初に聞いた時は半信半疑だった。それでマユ姉さまとネーゼ姉さまに確認してみたところ、同じ回答だったのだ。皇家の子女は手にささくれなど作ってはならぬと」

「なるほど。アルマ帝国では、帝国皇室ではそのようにいわれているのですね」

「うむ。私はこれからトレーニングに行く。最上も一緒に走らないか?」

「いえ、結構です。オートバイでも追いつけない気がします」

「そうか。また夕方に絆創膏を貼り直してくれ」

「ええ。お任せください……って、素早いな。もう出て行っちゃった」

「クスクス。ララさんったら、まだ勘違いしてるのね」

「ええ? ミサキ総司令。いつからそこに?」

「ずっといたわよ。隅の方でスマホいじくってました」

「大変失礼しました」

「大丈夫よ」

「ところで総司令。ララ様の勘違いって?」

「ああ、その事ね。最上さんも大体想像がつくと思うのだけど、ララさんって小さい頃からおてんば娘だったのよ」

「はい。十分想像できます」

「体中摺り傷だらけ。手もボロボロになってたりするの」

「はい」

「だからね、ララさんの可愛い手が傷つかないように、私たち姉妹が口裏を合わせたの」

「ええ? マジですか?」

「マジです。ララさんは潔癖だから、不貞ってワードがかなり効きました」

「なるほど」

「でもね、帝国で『女性の美しい手が愛でられる』というのは本当なの」

「そうなんですか?」

「そう。働き者の女性の手は大抵荒れてるわ」

「はい」

「その手荒れこそ女性の勲章なのです。あかぎれができたりカサカサになったり、そんな手で頑張って働いている女性をね。帝国では称賛しているの」

「女性の美しい手……帝国では働き者の手が美しいと」

「そうね。だから〝ささくれ〟も女性の勲章なのよ」


 ミサキ総司令の言葉に深く頷く最上だった。そして最上は、自分を女性型インターフェースとして実体化してくれたミサキ総司令に深く感謝した。



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