始動(一章エピローグ)
「......朝ね...」
コーレルは寝床で目を覚ました。
昨日の事は覚えている。
「家に帰ってすぐ寝ちゃったはずだけど...運んでくれたのかしら」
そうだとすればディノンには悪いことをした、そう思い部屋の扉を開け、ディノンを呼ぶ。
「ディノン〜、昨日_____ 」
そして固まった。
「やぁ、遅かったじゃないか」
「帰って」
まるで元から家族だったかのような馴れ馴れしさで椅子に座っている、
昨日の変態がいた。
「なんなんですかアナタは! そしてディノン!! なんでそんな平然としてるの!!」
「僕も最初は拒否したんだけど......押しが強くて......」
「熱心に頼み込んだらなんと夕食までごちそうしてくれたよ、いい弟さんだねぇ。あ、お茶もっともらえるかい?」
「図々しすぎるわよ!!」
客人として(そもそも客人ですらないが)の態度としてありえないそれにヒートアップするコーレル。
だが寝起きにはそれは辛かったようですぐトーンダウンした。
「もういい...朝から疲れた......とりあえずアナタは何者で、どこの誰で何用ですか」
その者は投げやりな質問に我が意を得たりとばかりに口を開いた。
「私の名前はセージ・トーチショーズ、単刀直入に言おう!」
そう名乗ったセージは強い意思を持った目をコーレル向ける。
「私が運営している学校に君を勧誘したい!」
ーーーーー
「_____てことがありまして...」
「それは大変だったねぇ」
九尾の思った通り相当めんどくさいタチだったようだ。
コーレルの話によるとセージはレプタンセール魔法国で学校を経営し、魔法を教えているとのこと。
いわゆる校長という立場だ。
「魔法狂いね......」
「はい...あの眼となりふりかまわない様相はトラウマですよ...」
だからこそ校長になったのかは知らないが、とんでもない程の魔法好きであった。
それ故にコーレルの魔法の才能に惹かれたのだろう。
しかしそれが目的で来たわけではないらしい。
そもそも魔法国はここから王国を挟んでいる。
決して近いわけではない。
それならなぜこんな場所にいるのかということだが、
「ちゃんと結界貼ってたんだけどなぁ」
九尾は本気を出した時周りに影響がでないよう結界を貼っていた。
ハズなのだがセージは100%純粋な勘で九尾の妖力を嗅ぎ取ったらしい。
そして国一つ挟むという途方もない距離をその勘だけを信じ迷いなく突き進んだという。
変態的としか言えないだろう。
「それで君は勧誘された件はどうするんだい?」
「それがどうしようか迷ってまして......」
「おや」
その答えに関して九尾は意外に思った。
「キミなら速攻で断ると思ったよ」
「私も最初は断りましたよ、通うお金なんてないですし、ディノンも守らないといけませんし」
今のコーレル達に学費など余裕はないしコーレルの本懐はディノンだ。
返す返事一番で断ったのだが、
「でもあの人全部請け負ってくれるらしいんですよ」
なんとセージは治安の良い移住先を手配し学費も待ってくれるという。
更に収入が安定するまで援助も考えるとのこと。
学費に関してはそもそも学校に国から相当な量のお金がおりているため安くあまり問題ないらしいが、それでも度を超えたような高待遇であった。
「それくらいキミの資質に惹かれたんだろうね、今の聞くと断る理由もないんじゃないかい?」
「......でも私は師匠の弟子ですよ...まだ全然恩も返せてませんし......」
その答えに九尾が微笑む。
コーレルはここまで何度も助けてくれた九尾の元を離れ会ったばかりのセージについていくことに負い目を感じるようだ。
これまでもらった恩も返せていないことがそれに拍車をかけている。
「元々キミへの指導は暇つぶし感覚の軽いものだよ。あっちは教えることに関する専門家でしょ? より早い成長が期待できる、弟を守るためには近道なんじゃない?」
それに、と九尾は一泊おいて続ける。
「僕はこの世界を回るつもりなんだよ、元々お遊びで回る予定だったけど、目的も見つかってね......」
「目的......」
「まぁそれはいいよ、とりあえず全ての国には行ってみたい、もちろん魔法国にもね」
セージの学校は魔法国にある、セージの誘いに乗ればいずれ九尾と姉弟は再会することになるだろう。
「その時、強さでもなんでもいい、僕を楽しませてくれよ」
そう九尾は微笑む。
「師匠......」
その言葉を受けコーレルは思い返す。
九尾の自身や他の者を見る目はずっと楽しそうであった。
おそらく人の、いや命あるものの物語が好きなのだろう。
であるならば、なにが最も師匠をを喜ばせるか。
コーレルは決意した。
「...わかりました」
私が、私達がその物語を作ろう、この恩人が満足するような物語をと。
「私が...私達姉弟があなたを満足させて見せます!!」
「うんうん、楽しみにしてるよ♪」
そうしてコーレルは去っていった。
その間際、
「今までありがとうございました! 師匠!!」
そう言葉を残して。
「行っちゃったわよ、良かったの? なにか言葉をかけなくて」
「だって......なんか入りにくいじゃない...あの雰囲気......」
「.....こういうところは謙虚なんだから」
リュスは雰囲気に飲まれ日和っていた。
最初から隠れて聞いていたため、コーレルが村を出ていくことも知った。
リュスとしては知り合って気に入った人間だ、なにか最後に話したいだろう。
リュスのこういうところは良いところでもあるがもどかしくもあるとエルは思う。
本来なら強引にでも妹の背中を押すところだが、
「もう行っちゃったわね、帰りましょうか」
「うぅ......」
その必要はないと判断した。
なぜなら、
「(あの人が気づかないわけないものね)」
「なにも言えなかった......」
「いつもみたいに強引にでも割り込めば良かったのよ」
「だってぇ......」
「まぁ、そんなに悩む必要も無いと思うわよ?」
そう言いエルは湖を指した。
「それはどういう......ってなにかいる...?」
いつもは自身ら二人しかいない湖に人影を発見するリュス。
目を凝らして見てみると、
「あれは.......コーレル...?」
そこには霧が晴れるといつもと違い湖に出て困惑しているコーレルの姿があった。
「あんな顔で帰られちゃね」
エルの予想通り精霊姉妹の一部始終を九尾は見ていた。
「一端一段落って感じかな」
もうあの姉弟に手を貸す必要はないと判断する。
「コーレルを通してアレにも帰ってもらえたし」
九尾はコーレルに 今すぐ魔法国に行かなければ学校には入らない とセージを脅してもらった。
一応神社周辺に結界と幻術を貼っているため気づかれることはないと思うが、勘で当てられるという前例があるため用心した。
「ふぅ、さて」
九尾は昨日の戦いを思い出す。
引っかかるのはやはりあの頭痛と
使徒とやらを倒した時に流れてきた無数の魂。
「舐めたことしてくれたよね」
今までは気楽にこの世界を回る予定だったが、使徒とやらの上にいる存在に明確な借りが出来た。
「とはいえやっぱりそこまで感情は動かないし、観光ついでに燃やそうか」
やはりメインはこの世界を楽しむこと、九尾は次なる行き先に思いを馳せた。
「距離的に最初は王国がいいかな? まぁ急ぐこともないし、ゆったり行こうか♪」
ーーーーー
「使徒様の反応が消えました」
その言葉にその場にいる全員がざわめく。
そこは教会であった。
その名にふさわしい白さであり、その名で呼ぶにはあまりに荘厳だ。
「巫女の報告によると予定通り使徒様の反応がお見えになり、数分後消えたとのことです」
「一度は降臨なされたのだろう? 自らお帰りになられたのではないか?」
「そんなことは分かっていることだろう、問題は何故この早さでお帰りになられたかだ」
「なにか儀式に問題が_____ 」
「いやなにか深い意味が_____ 」
報告により様々な憶測が飛び交う。
だがそのどれにも "使徒が負けた" という真実に辿り着くものはない。
「静粛に、皆様の憶測通りこちらとしても使徒様がなんらかの意図でお帰りになられたという意見で落ち着いています」
まとめ役のような者が口を開くと皆静かに耳を傾ける。
「数日前に向かわせた調査隊によると目的としていた場所一帯が焦土と化していたようです、おそらく使徒様のご降臨の結果と見ていいでしょう」
「それの意味については分かっているのか?」
「いえ、私達ごときが我らが神の真意を汲み取ることは難しいでしょう、神託を待つしかありません」
その言葉にその場にいる全員が難しい顔になる。
「また神の御力を煩わせてしまうのか......」
「衰退なされ、神託をくださるのさえお辛いだろうに...」
「あの戦いさえなければ......」
「敬遠の獣め...!」
一気に室内が "敬遠の獣" とやらへの怒りで埋め尽くされる。
パンッとそんな空気を払うようにまとめ役が手を叩く。
「皆様のおっしゃる通り、神はその御力が削られています。一刻も早く御力を取り戻してもらえるよう、皆様の献身と信仰が必要です、つきましては_____ 」
魔道具により映像が映し出される。
それはある国の光景。
「_____ には礎となってもらいましょう」
思惑は動き出す、肝心な事実に気づかぬまま。
☆☆☆☆☆
とりあえず一章終了です。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
一応最後まで書く予定ですが構想が大雑把で作者もとんでもない怠惰なため少し期間が空きます。
2章は王国編の予定です。
やっと九尾が森から出ます。
場合によっては国が減ったり追加されたらするかもしれません。
ではまた
九尾様の異世界転移 幸運招来 @Pichamate47
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